印刷機(読み)インサツキ(英語表記)printing machine
(printing)press

デジタル大辞泉 「印刷機」の意味・読み・例文・類語

いんさつ‐き【印刷機】

印刷をする機械。版の方式により凸版・凹版に、加圧の方式により平圧機・円圧機・輪転機などに分けられる。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「印刷機」の意味・わかりやすい解説

印刷機 (いんさつき)
printing machine
(printing)press

版にインキをつけ紙に押しつけて印刷物を作る機械。版の方式によって,凸版を用いる凸版印刷機,平版を用いる平版印刷機,凹版を用いる凹版印刷機,およびシルクスクリーン印刷謄写版用の孔版印刷機にわけられるが,平版はそのほとんどすべてがオフセット印刷なので,平版印刷機=オフセット印刷機と考えても差支えない。また版の形状と押圧の機構からは,平らな版を用い平らな圧盤で加圧する平圧式印刷機,版の形状は平らであるが円筒形の圧胴で加圧する円圧式印刷機,および丸い版を利用し円筒形の圧胴で加圧する輪転機の三つに大別される。このように印刷機にはさまざまな種類があるが,基本的には,(1)加圧機構,(2)インキをつける装置,(3)紙を供給・移送し,刷り終わったものを整えて排出する装置,(4)その途中で乾燥させる装置の4部から構成されており,高性能のものほど主要機構である加圧部より他の部分が大がかりである。またふつう,雑誌や書籍の印刷機では,各ページの版を平面上縦横に並べて印刷し,折っていわゆる折丁を作るが,この方法に対して各ページの版を縦つなぎにしエンドレスのベルト状の版で印刷する方法もごく一部で実用になっている。このほかのまったく新しい考えによるものにインキジェットプリンターインキジェット印刷)などのノンインパクトプリンターがある。

ドイツのJ.グーテンベルク活版印刷術を発明したとき(15世紀中ごろ)使用した印刷機は,ブドウをしぼるために用いた圧搾器を利用したものであった。機械というにはあまりに簡単な装置であるが,現在の印刷機の原点として評価される。それは,木版刷りにおいて版上においた紙面をこする操作のかわりに,がんじょうな板で短時間に圧力を加える機構であったからである。このいわゆるプレス作業は,印刷時間を短くしたばかりでなく,紙の裏面を損なわないから両面刷りができることとなった(木版の〈摺り〉においては紙の裏面をこするから,両面を印刷することに無理があった)。この機械は鳥居状のフレームの梁の部分にねじ棒をとりつけ,その下方に圧板をつけたもので,この圧板と向き合う位置に活版をのせた台をおく。インキを版につけ紙をのせたのち,レバーを引くことによりねじ棒を回転させて加圧板を下降させ,圧を加える。この機械の発明により,印刷機において加圧機構が最も重要なものとなり,さらに印刷作業,印刷所,出版社,新聞社までも印刷機を意味するプレスpressという語で表すようになった。

 グーテンベルクの発明後350年にわたって印刷機はほとんど改良されなかったが,19世紀の初めにイギリスのスタンホープCharles Stanhope(1753-1816)が鉄製の印刷機を作り,加圧機構に新しいくふうをとり入れた。すなわち,おもりとレバーとねじ棒を組み合わせ,わずかの力によって大きな圧力を加えられるようにしたのであった。スタンホープ印刷機はイギリスにおいて広く利用され,タイムズ社などでも日刊の新聞の印刷に使用していたが,手動式であり1時間に休みなく印刷しても200枚か300枚くらい,4ページ新聞にして100部ほど印刷しうるのみであった。このころはちょうどナポレオンが台頭してきたときであり,新聞発行部数も激増していたので,高速印刷機の出現が要望されていた。1814年,タイムズ社の要請によってドイツ人ケーニヒFriedrich König(1774-1833)とバウアーAndreas Friedrich Bauer(1783-1860)は押胴式印刷機を作って,平らな版盤を往復させ加圧して印刷する近代的方法を発明した。従来,夜半の12時に原稿がそろうと,朝の6時までに12台の印刷機に1台あたり2人の工員がついて,交代で印刷しても1万部印刷するのがやっとであったが,ケーニヒとバウアーの機械では,1台に2人がついて約1万枚を刷ることができた。この押胴型印刷機は,活版を水平台(版盤)にのせて往復運動をさせ,これに押胴を加圧接触させ,その間に紙をはさむ様式で,現在の活版印刷機の元祖といえる。機構上複雑なのは動力装置の円運動を版盤の往復運動に変えること,押胴に紙を供給し固定することなどで,しだいに改善改良された。

 しかし,さらに高速を目指すには版盤も円筒状にした輪転式が望ましい。活版を円筒状にするには紙型鉛版法の発明をまたなければならず,それ以前のアメリカのR.ホーの輪転機(1830ころ),フランスのマリノニ輪転機では円筒面活字を固定させて版胴としていたが,それでも1時間両面刷り1万8000枚くらいの能力があった。1860年ころ紙型鉛版法が発明され,完全な丸版ができるようになり,マリノニ社によって巻取紙に印刷する現在の輪転機が完成された。

 オフセット印刷機は,版から直接紙に印刷せず,一度ゴム布(ブランケット)に印刷してから紙にインキを移す方法で,いわば間接印刷法である。この方法はブリキ印刷に用いられていたが,1904年アメリカのI.W.ラブルによって紙にも適用され,金属平版の進歩とともに現在のオフセット全盛時代を招いた。

 グラビア印刷機は,19世紀の終り以降グラビア製版法の確立とともにしだいに進歩し,紙,プラスチック類の印刷に広く用いられるようになった。この機械は,版胴上の余分なインキをかきとるためのナイフ状の装置(ドクターという)の存在が特異である。

加圧方式により,平圧式,円圧式,輪転式の3種がある。平圧式は,小型機や,打抜きを行う強圧を要するものに多く,一般に名刺やはがきやちらしなどの小型の印刷物に用いる。円圧式は,大型の活版印刷物,たとえば雑誌や書籍の本文8ページ分,16ページ分などを印刷するのに用いられるが,版盤は往復運動をするから1時間4000枚くらいが限度である。凸版方式の輪転機では毎分500回転くらいであって,新聞輪転機の場合,4ページ新聞で毎時12万部以上印刷する。

平版印刷機のほとんどがオフセット印刷機で,アルミニウムの薄板の版を版胴に巻き,ゴム胴を押しつけてゴム面に移されたインキを紙に移す。平版では,インキをつける前に紙に水を与えて湿らせる必要があるから,ローラーの数も増え機構は複雑となる。自動的に紙を印刷機に供給する給紙機は,毎時最高1万枚のスピードで,印刷時には百分の数mmの位置精度を保たないと精度のよい印刷物ができない。印刷後の紙は排紙機によってとり出し,紙積みする。巻取紙を使うオフセット輪転機は,紙をはさんで対称の印刷機構で同時に両面を刷ることができる。これを1ユニットといい,4色刷りの場合には4ユニット並べて印刷し,乾燥機に入れたのち,折機に入れる。

証券印刷用の機械とグラビア印刷機がある。前者は彫刻した版を使い,インキはのり状で高級精密印刷ができるが,高速印刷には適さない。グラビア印刷は,版面に流動性のインキをたっぷりつけたのち,ドクターでかき落とし,凹所に残ったインキを紙に移す。巻取紙を使う印刷機が大部分で,銅めっきした円筒面に製版する。構造はきわめて簡単であるから,操作も容易であるが,インキには多量の溶剤が入っているので,カラー印刷のときは各色印刷部ごとに乾燥装置が必要となる。グラフ雑誌や週刊誌のグラフページの印刷,また化粧板原紙,プラスチック類の印刷に利用される。
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百科事典マイペディア 「印刷機」の意味・わかりやすい解説

印刷機【いんさつき】

版にインキをつけ紙に押しつけて印刷物をつくる機械。基本機構として加圧機構,版面にインキをつける装置,紙を動かす装置および各部の運動を統御する装置を備える。版式によって凸版印刷機,平版印刷機,凹版印刷機に大別し,版面の形状と加圧方式により平圧式印刷機円圧式印刷機輪転機に分けられる。印刷用紙の形態には平判(ひらばん)と巻取りがあり,その給紙方式に自動と手差しとがある。現在,平版オフセット印刷がもっともポピュラー。なお,静電印刷やインキジェット印刷といった印圧の必要のない印刷機器も電子コピーやパソコンの普及で一般化している。

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世界大百科事典(旧版)内の印刷機の言及

【プレス】より

…高い反力に耐えるハウジング(枠組み)の中で材料に圧縮荷重を与えて変形させる装置。荷重の方法としては,リンク機構とピストン・シリンダー機構のものがある。前者にはメカニカルプレス,後者には空気圧プレス,水圧プレス,油圧プレスがある。また,動作機構が単数の単動プレスと二つの複動プレスがある。小さい製品としては縫針のようなものから,大きいものでは容量1万5000tのプレスで数十tの鋼塊を成形するものまで,幅広い条件で活用されている。…

【印刷】より

…まず鋳型を作り,それに鉛を流しこんで鉛活字を鋳造した。次に油性インキの工夫に成功したほか,ブドウしぼり機にヒントを得てプレス式印刷機を考案した。中国にも早くから活字印刷が行われていたが,プレス式印刷機こそはグーテンベルクが最初に考案したものといえる。…

※「印刷機」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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