殿原（読み）トノバラ

デジタル大辞泉

との‐ばら【殿原】

《「ばら」は複数を表す接尾語》身分の高い人々や武士などを敬っていう語。殿たち。
「これを見給へ、東国の―」〈平家・九〉

出典　小学館

精選版 日本国語大辞典

との‐ばら【殿原】

〘名〙 (「ばら」は複数を表わす接尾語)

① 高貴な方々。殿たち。

※東遊（１０Ｃ後）駿河舞「いはたしたえ 笠忘れたり や いはたしたえ 止乃者良(トノはラ)も 著くもがなや 笠まつりおかむ 笠まつりおかむ」

② 武士などの男子を敬っていう語。

※平家（１３Ｃ前）九「是を見給へ、東国の殿原、日本一の用の者の自害する手本」

③ 中世、荘園村落内の一般農民と荘官の間に位置する階層の一つ。

※吉田神社文書‐建久三年（1192）四月七日・平謀下文「於_二自今已後_一者、雖_二何殿原沙汰人也と_一、不_レ可_レ有_二其妨_一」

④ 中世、大寺院に所属していた俗人の下役人。

※高野山文書‐応永二七年（1420）一二月一七日・三所十聴衆評定事書案「任_二応永十九年下文之旨_一、於_下作_二公事地_一之仁_上者、夫役可_二勤仕_一者也。若或称_二殿原_一、或号_二坊人下部_一、乍_レ作_二公事地_一、夫役令_レ難_二渋之_一」

⑤ 中世、伊勢神宮の御師(おし)に所属して諸国の檀家にお札を下付したもの。

出典　精選版 日本国語大辞典

改訂新版　世界大百科事典

殿原 (とのばら)

中世における侍身分の呼称の一つ。平安・鎌倉時代に公家や武家男子の敬称（《入来文書》）や対称（〈北条重時家訓〉）として用いられるが，ひろく中世社会では，村落共同体の基本的な構成員たる住人，村人の最上層を占めて殿原，百姓の順に記され，村落を代表する階層として現れる。名字をもち，殿とか方などの敬称をつけて呼ばれ，〈殿原に仕〉える者をもち（《相良氏法度》），〈地下ノ侍〉（《本福寺由来記》）つまり侍身分の地侍として凡下（ぼんげ）身分と区別され，夫役（ぶやく）などの負担を免除されることもあった。後期の村落の名主（みようしゆ）・百姓のうちの名主上層に当たるとみられるが，〈殿原とも百姓として作仕る〉（〈法隆寺文書〉）といわれ，領主からは土地を耕作するかぎり百姓とみなされた。彼らはふつう在村のまま武家や社寺に奉公して，〈殿原以下の被官〉（〈古文書集〉）とか〈士と中間（ちゆうげん）の間〉（《武家名目抄》）といわれ，また親類・殿原・中間（《八代日記》），殿原・中間・下部（しもべ）（《朽木文書》），殿原・中間・小者（こもの）・夫（ぶ）（《大和田重清日記》）という序列に位置した。すなわち殿原は領主層ではなく，中世末にふつう侍，中間，小者，あらし子と一括される下級の武家奉公人のうち，侍つまり若党，かせ者などとおなじ下層の武士身分に属し，中間以下の名字をもたない従者とは区別された。
執筆者：藤木 久志

出典　株式会社平凡社「改訂新版　世界大百科事典」

日本大百科全書(ニッポニカ)

殿原
とのばら

『宇津保物語(うつほものがたり)』に「舞人は殿原の君達・殿上人」、『大鏡』に「大饗のおり、殿原の御車の立ちよう」などの用例があるように、古くは一般に高貴な人々を意味したが、中世以降、畿内周辺の荘園などでは、侍身分や荘官などと百姓の中間に位置する地侍層を指す言葉として用いられるようになった。『日葡辞書(にっぽじしょ)』に「貴族や騎士よりも下級で、従士にあたる者」と規定されているのがそれに当たる。用例としては伊勢山田主従作法定文の「殿原以下之被官」や高野山領神野荘(こうののしょう)の「庄官殿原并百姓」など、あるいは琵琶湖畔の堅田(かたた)の『本福寺跡書』に見える「殿原モ全人衆モ、双方切限ニ、（中略）会稽ヲ雪訖」などが挙げられる。その他に、高野山領志富田荘(しぶたのしょう)の事例のように、大寺院に属する俗人の下級役人を指す場合もあった。

［山本幸司］

出典　小学館　日本大百科全書(ニッポニカ)

世界大百科事典（旧版）内の殿原の言及

【野伏】より

…鎌倉末期から南北朝期に畿内･近国におこり全国に広がった，地侍や農民の武装集団。当時の有力農民は太閤検地や刀狩で兵農分離させられた近世農民と異なってかなりの武具類を保持し，勢力の大きなものは殿原（とのばら）層として領主化をめざしていた。領主にとって野伏を無視して戦いを遂行することは，南北朝以後ほとんど不可能になっていた。…

※「殿原」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典｜株式会社平凡社「世界大百科事典（旧版）」