有徳人(読み)ウトクジン

デジタル大辞泉 「有徳人」の意味・読み・例文・類語

うとく‐じん【有徳人】

富裕な人。金持ち。分限者ぶげんしゃ。うとくにん。
「もとより長は、海道一の―」〈浄・当流小栗判官〉

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精選版 日本国語大辞典 「有徳人」の意味・読み・例文・類語

うとく‐じん【有徳人】

〘名〙 富裕な人。金持ち。有徳者。うとくにん。〔日葡辞書(1603‐04)〕
評判記色道大鏡(1678)四「都鄙にかくれなき有徳(ウトクジン)の親の家督をとりたるが」

うとく‐にん【有徳人】

※虎明本狂言・三人長者(室町末‐近世初)「三人長者のうとくにん」

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「有徳人」の意味・わかりやすい解説

有徳人
うとくにん

富裕な人のこと。「うとくじん」とも読み、有得人とも書く。有徳の徳は、資財、銭貨米穀など動産的富をさす。有徳ということばが史料に現れるのは、鎌倉時代からであるが、富裕な人の呼称として定着するのは、室町時代である。当時は普通、有徳人といわれたのは、都市の土倉(どそう)と酒屋に代表される非農業的、非領主的な富裕者で、身分も凡下(ぼんげ)であった。彼らは、荘園(しょうえん)の代官、地主的名主商人、金融業者、貿易業者など、貨幣経済とともに現れた階層で、商業や高利貸活動はもちろんのこと、幕府諸大名、さらには公家(くげ)、寺社の財政にまで深く食い込み、また日明(にちみん)・日朝貿易を事実上掌握した。

 室町幕府はその経済的基礎である、直轄領に対する支配権が失われ、年貢が減少すると、有徳銭という名称で、彼らに課税した。有徳銭は、幕府の貴重な財源となり、初めは臨時の賦課であったものが、やがて恒久的な性格を帯びるようになった。

[清水久夫]

『佐々木銀弥著『日本の歴史13・室町幕府』(1975・小学館)』

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百科事典マイペディア 「有徳人」の意味・わかりやすい解説

有徳人【うとくにん】

〈有得人〉とも記され,〈うとくじん〉とも読む。鎌倉時代後期から江戸時代まで用いられた語で,富裕な人を意味する。《沙石集(しゃせきしゅう)》の説話などから,領主・農民ではなく,凡下(ぼんげ)身分の借上(かしあげ)・土倉(どそう)・酒屋など,貨幣経済の進展の中で財を蓄えた商人・金融業者を指すことがわかる。成金的色彩が強い。現世利益や滅罪・懺悔のためか,社寺などに莫大な寄進をした例もままみられる。
→関連項目有徳銭

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「有徳人」の意味・わかりやすい解説

有徳人
うとくにん

有得人とも書き,富裕な人を指す。日本中世の鎌倉時代から史料に見えるもので,土倉・借上や酒屋などとして現れるが,他方で荘園の代官,地主的名主,商人,金融業者,貿易業者も相当するものが多い。その富は土地集積などの農業的な形でなく,貨幣経済の発展に乗って商業高利貸活動の結果蓄えたり,室町幕府や諸大名,公家・寺社の財政運営にかかわって得たもので,有徳の徳は財貨・米穀といった動産的な富を指している。室町幕府は年貢収取が思うようにならなくなると,彼らに有徳銭という課税をして財政難を切り抜けようとした。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「有徳人」の解説

有徳人
うとくにん

徳人・得人とも。中世~近世における富裕者をいう。流通関係に携わる一般庶民の富者をさす場合が多い。経済的利得が「徳」と表記された背景には,御伽草子の長者説話のように,拝金的世相や単純な致富願望とは異質な,中世民衆の「有徳」観があった。有徳人には頭役や寄進などによる社会への経済的・宗教的還元が期待され,領主からは有徳銭が課された。そこには徳政要求にも通じる,富の平準化を求める「ならかし」という中世的な論理があった。

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