救済(宗教)(読み)きゅうさい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「救済(宗教)」の意味・わかりやすい解説

救済(宗教)
きゅうさい

救い。宗教の基本的な観念の一つ。歴史上いろいろの形で現れるが、そこには共通の構造が認められる。すなわち、疾病災厄危難罪責など、人間にとって否定的な事態によって生が脅かされるとき、そこから脱することで、正常な、よりよきあり方に復帰することである。仏教解脱(げだつ)をはじめ、救済に相当する外国語salvation(英語)、salut(フランス語)、Erlösung, Heil(ドイツ語)は、いずれもそうした解放や回復の意味を含んでいる。解放はいわばその消極面であり、回復はその積極面をなすとみることもできる。

 この点からすれば、すべての宗教はなんらかの形で救済の働きをもつものといえる。ただし、その実際の内容は、これだけではまだ一義的に明らかではない。たとえば肉体的疾患や穢(けがれ)などについては、未開・古代の宗教以来、呪術(じゅじゅつ)、祈り、儀礼などによる対処が試みられてきたが、これらは現在ではかなりの部分が医療その他の合理的方法によって解決されるようになり、宗教的な救いとは考えられないことが多い。否定的な事態への対処といっても、技術的、合理的に解決できるものは救済ではない。人力人知でコントロールできない状況に対し、超合理的な対処がなされるとき、初めて救済が成り立つのである。

 以上は広義での救済であるが、これに対して狭義かつ本来の意味での救済は、仏教やキリスト教などの世界宗教や、一部の新宗教にみられるものをさす。これらの宗教では、否定的な事態はただ個別的、偶然的なものにとどまらず、むしろ世界と人間の本性に根ざしたものとされ、その包括的な克服が説かれる。仏教の煩悩(ぼんのう)、キリスト教の原罪の教えはその典型であろう。同時に、それまでのように特定の民族などでない個人が、そして他方では全人類が、潜在的な救済対象となってくる。

 この狭義での救済にも、さらにいくつかの型が分けられる。もっとも一般的なのは、なんらかの神格や救済主をたて、その恩恵助力によって悪、罪、死などからの解放を求める行き方である。キリスト教をはじめとする有神的宗教や、仏教のなかでも浄土(じょうど)教はこの型に属する。超人間的な力ないし存在を想定し、それへの帰依(きえ)や祈りにより救われることを求める点で、それはいわゆる他力の、また最狭義の救済である。これに対し、初期仏教や禅などにみられるように、自らの修行や体験を通じて解放を達成するという方向もある。これはいわば自己救済といえよう。

[田丸徳善]

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