憧・憬(読み)あくがれる

精選版 日本国語大辞典 「憧・憬」の意味・読み・例文・類語

あく‐が・れる【憧・憬】

〘自ラ下一〙 あくが・る 〘自ラ下二〙 (「かる」は離る。中世頃から「あこがれる」と併用) 本来あるはずの場所から離れる意。
居所を離れてさまよう。また、あるものに心をひかれて、出かける。
貫之集(945頃)六「思ひあまり恋しき時は宿かれてあくがれぬべき心地こそすれ」
② ある対象に、何となく心がひかれる。心が、からだから離れる。うわのそらになる。
古今(905‐914)春下・九六「いつまでか野辺に心のあくがれむ花し散らずは千世もへぬべし〈素性〉」
③ いとわしく思うようになって離れる。男女の仲がうとくなる、世を避けようとする、などにいう。
源氏(1001‐14頃)真木柱「このとしごろ人にも似給はず、うつし心なき折々多く物し給ひて、御中もあくがれてほど経にけれど」
④ (心がひかれるところから) 気をもむ。気が気でなくなる。
読本・南総里見八犬伝(1814‐42)三「離れかたきは女子(をなこ)の誠、分つ袂にふり棄られて、あくがれて死(しな)んより、おん身刃(やいば)にかけてたべ」
⑤ 理想とするもの、また、目ざすものなどに心が奪われて落ち着かなくなる。また、それを求めて思いこがれる。
※延慶本平家(1309‐10)六本「花にあくかるる昔を思出して」
[語誌](1)アクカルとの複合語で、カルが離れる意であることは確かなものの、アクの語源諸説あり不明。あるいは場所に関わる語か。
(2)上代用例は見えず一〇世紀半ば以降に一般化した語で、人間の身や心また魂が、本来あるべき場所から離れてさまよいあるくことをいう。

あくがら・す【憧・憬】

〘他サ四〙 (「あくがれる」の他動詞形)
① 流浪させる。さすらわせる。
蜻蛉(974頃)中「かくのみあくがらしはつるはいとあしきわざなり」
② 美しいものなどが、人の心をひきつける。心の落ち着きをなくさせる。そわそわさせる。
和泉式部集(11C中)上「梅が香におどろかれつつ春の夜はやみこそ人はあくがらしけれ」

あくがれ【憧・憬】

〘名〙 (動詞「あくがれる」の連用形名詞化) =あこがれ(憧)
有明集(1908)〈蒲原有明〉孤寂「信(しん)の涙か、憧憬(アクガレ)の孤寂の闇を椶櫚(しゅろ)の花 幹を伝ひて」

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