心憎(読み)こころにくい

精選版 日本国語大辞典 「心憎」の意味・読み・例文・類語

こころ‐にく・い【心憎】

〘形口〙 こころにく・し 〘形ク〙 (底知れないものに、あこがれ、賞賛、期待、不安、不審などの感情を抱いて、気をもむ意)
① はっきりしないものに、すぐれた資質を感じ、心ひかれ、近づき、知りたく思う気持を表わす。
(イ) 人柄、態度、美的な感覚などに上品な深みを感じ、心ひかれる。奥ゆかしい。
※宇津保(970‐999頃)楼上上「いとあてに、〈略〉式部卿の君よりもこころにくくはづかしげにものし給へり」
(ロ) 情緒が豊かであったり風情があったりして、心ひかれるさまである。
源氏(1001‐14頃)若紫「そらだきもの、いと心にくくかほりいで」
(ハ) 間接的なけはいを通して、そのものに心ひかれるさまである。
※枕(10C終)二〇一「心にくきもの。ものへだてて聞くに、女房とはおぼえぬ手の、しのびやかにをかしげに聞えたるに、こたへ若やかにして、うちそよめきて参るけはひ」
② はっきりしないものに対して大きな期待をいだき、心がそそられるさまである。気持をそそるさまである。期待に気をもませる。
※宇津保(970‐999頃)忠こそ「こころにくく思ひて、盗人いりまうできて、一二侍し装束なども、みなさがしとりて」
対象の状態・性質などがはっきりとわからないので、不安、警戒心、不審感などをいだくさまをいう。
(イ) おぼつかなくて不安である。警戒し、心すべきさまである。気になる。
平家(13C前)四「さだめて打手むけられ候はんずらん。心にくうも候はず。三井寺法師、さては渡辺のしたしいやつ原こそ候らめ」
(ロ) 対象の挙動・様子を不審に感じ、とがめたく思う。あやしい。どこやらわけありげである。
※浮世草子・世間胸算用(1692)四「小おとこのかたげたる菰づつみを心にくし、おもきものをかるう見せたるは、隠し銀にきわまる所とて」
④ にくらしく思う。こづらにくい。こしゃくにさわる。
※俳諧・一茶手記(1789‐1801頃)「己が附前の句知りながら、句案数刻にして、脇より玉句御つけといへば、是はしたり、しばらくは案ずべしなどいへる、いと心にくけれ」
欠点がなく、むしろねたましさを感じるほどにすぐれている。にくらしいほど完璧である。「心にくいばかりの演出
弔花(1935)〈豊田三郎〉「器用にハンドルを廻し、〈略〉シングル・ハンドの巧妙さは心憎い程だった」
[語誌]平安時代の「にくし」は、対象に疎外されて親しみ・連帯感一体感などがそこなわれた場合の不愉快な気持をいうが、「心にくし」には、さらに、対象の挙動・状態が思うように明らかにならないので、それをもっとよく知りたいと関心を持ち続ける意が含まれてくる。
こころにく‐が・る
〘自ラ四〙
こころにく‐げ
〘形動〙
こころにく‐さ
〘名〙

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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