引違(読み)ひきちがえる

精選版 日本国語大辞典 「引違」の意味・読み・例文・類語

ひき‐ちが・える ‥ちがへる【引違】

[1] 〘他ア下一(ハ下一)〙 ひきちが・ふ 〘他ハ下二〙 (「ひき」は接頭語室町時代頃からヤ行にも活用した)
① ちがうようにする。まちがえる。とりちがえる。
※金刀比羅本保元(1220頃か)上「関白殿はもとよりの御ことなれば、内裏に御しこうなり、左大臣殿は又引(ヒキ)ちがへて仙洞に御しこうあり」
② 交差させる。うちちがいにする。
平家(13C前)二「むないたの金物のすこしはづれてみえけるを、かくさうど、頻に衣のむねを引ちがへ引ちがへぞし給ひける」
③ 着物の衿を合わせて着る。
※古文真宝彦龍抄(1490頃)「三江をえりの如に引ちかへてきよよ」
④ 取りかえる。
※仮名草子・東海道名所記(1659‐61頃)六「その大夫の紋をつけて、芥子鹿子、摺縫の手をつくし、引ちがへて、これを着る」
[2] 〘自ア下一(ハ下一)〙 ひきちが・ふ 〘自ハ下二〙 入れちがいになる。ひきちがう。
浮世草子・けいせい伝受紙子(1710)三「我は又引ちがへて此さうどうのまぎれに、師直があそびゐる花川やが座敷へおしかけ」

ひき‐たが・う ‥たがふ【引違】

〘他ハ下二〙 (「ひき」は接頭語)
方向を変える。
源氏(1001‐14頃)帚木「久しく程経て渡り給へるに、かたふたげて、ひきたがへ、ほかざまへとおぼさむは」
② それまでの傾向や、世間常識とはかけ離れたことをする。うって変わったありさまにする。正反対にする。
※源氏(1001‐14頃)帚木「稀には、あながちにひきたがへ、心づくしなる事を、御心におぼしとどむる癖なむ、あやにくにて」
予想、期待などを裏切る。予想と全くちがったありさまにする。
※源氏(1001‐14頃)澪標「世の中の人もさやうに思ひ寄りぬべきことなるを、ひきたがへ心清くてあつかひ聞えむ」
約束などを破る。相手の心を裏切る。
有明の別(12C後)二「いたくふけてぞいで給へれど、なほこよひひきたかえんことはいといとほしきに」

ひき‐ちがい ‥ちがひ【引違】

〘名〙
※己が罪(1899‐1900)〈菊池幽芳〉前「産婆の帰れると引違(ヒキチガ)ひに、千駄木町にやりたる使は〈略〉帰り来りつ」
紋所の名。二本の画(かく)を交差させた図柄のもの。
③ 二枚以上の襖や障子などを二筋の溝により横に開閉できるようにしたもの。
※大道無門(1926)〈里見弴〉厄日「引(ヒ)き違(チガ)ひの格子戸に」
④ 背に交差させて用いる細長い旅行用の袋。

ひっ‐ちが・える ‥ちがへる【引違】

〘他ハ下一〙 ひっちが・ふ 〘他ハ下二〙 (「ひきちがえる(引違)」の変化した語。ヤ行にも活用した) まったくちがうようにする。正反対にする。
※杜詩続翠抄(1439頃)一一「然、如此 ひっちかへて言非力大則不可也」
※虎明本狂言・眉目吉(室町末‐近世初)「あまりみめをわるふむまれ付てござるによって、ひっちがへて、みめよしと名を付てござる」

ひき‐ちが・う ‥ちがふ【引違】

[1] 〘自ハ四〙 =ひきちがえる(引違)(二)
※歌舞伎・幼稚子敵討(1753)口明「『畏りましてござりまする』ト侍入。引ちがふて侍出る」
[2] 〘自他ハ下二〙 ⇒ひきちがえる(引違)

ひき‐たがえ ‥たがへ【引違】

〘名〙 中世、金銭・年貢などを立替えること。
※東寺百合文書‐に・長祿元年(1457)一二月一三日・丹波大山荘代官岡弘経書状「地下には一銭之引違も不叶候」

ひき‐ちがえ ‥ちがへ【引違】

〘名〙 一方が出たすぐ後に、他方が入ってくること。いれちがい。〔黒本本節用集(室町)〕

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