天王寺方(読み)てんのうじかた

改訂新版 世界大百科事典 「天王寺方」の意味・わかりやすい解説

天王寺方 (てんのうじかた)

雅楽用語。雅楽演奏専門家(楽人,伶人,楽師などと称す)の出身系統を示す名称。大阪四天王寺所属の楽人を指す。雅楽は宮廷を中心とする伝承と,諸大寺社に擁された独自の系統があり,宮廷には平安中期ころに楽所(がくそ)が組織され,楽人は世襲された。一方,四天王寺や奈良興福寺などの寺社で宗教行事に出仕する演奏者集団も世襲的に形成された。四天王寺の楽人天王寺方は聖徳太子の臣,秦河勝(はたのかわかつ)を遠祖とするとして太秦(うずまさ)または秦姓を名乗り,薗(その),林(はやし),東儀(とうぎ),岡(おか)および安倍姓東儀の5家がある(古くはすべて太秦または秦などの姓を名乗った)。薗・林は笙,東儀は篳篥(ひちりき),岡は竜笛を専門とした。

 応仁戦乱(1467-77)等によって宮廷所属楽人(京都方)が弱体化したため,それを補う形で,16世紀後半に,四天王寺と興福寺所属楽人(南都方)の一部が京都に招集されて三方楽所(さんぽうがくそ)の制ができた。宮廷行事では天王寺方はおもに右舞(うまい)を担当した。また東儀家の一系譜が安倍の姓を賜り,神楽の篳篥を担当した。天王寺方の本拠,四天王寺では聖霊会(しようりようえ)舞楽などにおいて左右両舞が各家の専門芸として伝承された。天王寺方の伝統現行宮内庁楽部へも受け継がれ,とくに右舞や篳篥に伝承は息づいている。四天王寺における雅楽は,明治以降,民間演奏団体の雅亮会に受け継がれている。
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