共工(読み)きょうこう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「共工」の意味・わかりやすい解説

共工
きょうこう

中国の古代神話に登場する神。共工は帝(てい)の位をめぐって顓頊(せんぎょく)と激しく争ったとき、勢いあまって不周山に激突した。ところが不周山は天を支える柱であり、また地をつなぐ綱であったので、共工がぶち当たって以後、天は西北に、地は東南に傾いてしまった。そして太陽、月、星はことごとく西北方向に移動し、中国の大地を貫流する諸河川はすべて東南の方へ流れるようになったという。これは中国の地形の由来を説く説明神話となっている。しかし別の記録によれば、共工は大洪水を引き起こして人民を苦しめ、天下害悪を及ぼしたとされている。このため共工は驩兜(かんとう)、三苗(さんびょう)、鯀(こん)とともに四凶、つまり4柱の邪悪な神霊とされ、舜(しゅん)帝によって四方辺境に放逐されたとも伝えられている。また共工はしばしば蛇形をとって表現されるほか、子の后土(こうど)の性格が鯀の子である禹(う)と共通点があるなど、鯀との類似性が多く、水と縁故が深い。元来、中国で古くから信仰された水に関係のある神格であったのではないか、といわれている。

[桐本東太]

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改訂新版 世界大百科事典 「共工」の意味・わかりやすい解説

共工 (きょうこう)
Gōng gōng

中国の神話にみえる洪水神。《国語》魯語(ろご)に〈共工氏の九有(九州)に伯(覇)たるや,その子を后土という。故に祀(まつ)りて以て社と為す〉とみえ,いずれも蛇形の神とされている。《淮南子(えなんじ)》天文訓に顓頊(せんぎよく)と帝たることを争って敗北,怒って頭を天柱触れ,天が北西に傾いたという。《荀子(じゆんし)》成相には禹(う)と争ったとし,女媧(じよか説話では秩序の破壊者であったとされるが,おそらく姜(きよう)姓の奉ずる神であろう。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「共工」の意味・わかりやすい解説

共工
きょうこう
Gong-gong

中国,古代の伝説上の人物。せんぎょくと帝位を争い,力が余って天を支える不周山に触れ,そのため天は西北に地は東南に傾き,日月や星は西方に移動し,川は東方に流れるようになったという。中国人の自然の観察から生れた伝説。ほかにも多くの伝説が残されている。また共工は官名であるという説もある。

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百科事典マイペディア 「共工」の意味・わかりやすい解説

共工【きょうこう】

中国神話上の人物あるいは蛇形の洪水神。【せん】【ぎょく】(一説に高辛)と帝位を争った時,力余って不周山に衝突,天をささえる柱と大地をつなぐ綱が切断されて天は北西に,地は南東に傾いた。別伝では,尭の代に大洪水を起こし誅殺(ちゅうさつ)されたという。

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世界大百科事典(旧版)内の共工の言及

【中国神話】より

…西安半坡(はんぱ)遺跡の彩陶土器はその文化のきわめて初期のものであるが,その画文に魚や人面魚身の像がみられ,鯀・禹の洪水説話が,夏系の古い伝承であることを示している。
[姜姓と夏・苗]
 共工は羌系の洪水神で,夏系の禹と対立する神であった。夏系の顓頊と帝たることを争い,敗れて不周の山に頭を触れ,天が北西に傾いたという。…

【天柱】より

…中国の神話,伝説において,天は大地の四方の果てにある柱によって支えられ,逆に大地は天に結ばれた4本の維(い)(太い綱)によってぶらさげられていると考えられた。《淮南子(えなんじ)》は,太古,共工が顓頊(せんぎよく)と帝になることを争って敗れると,腹を立てて不周山にぶつかり,天柱が折れ,地維が切れて,大地が東南に傾いた。その結果,大地の東南の部分が海となり,天下の川はすべてそこに注ぐのだという。…

【山】より

…漁民が海に出て使う沖言葉と,猟師などが山に入って使う山言葉とが,各地で不思議な一致をみせているのは,両者の間に交渉のあったことを示している。山岳信仰修験道山の神山人【坪井 洋文】
【中国】
 顓頊(せんぎよく)と天下の覇者の地位を争った共工が,腹だちまぎれに不周山にぶつかり,天を支える柱が折れ,地をつなぎとめる綱がきれ,そのため天は西北に傾き,地は東南に傾いたという伝説にもうかがわれるように,古代の中国人にとって,山は天と地をつなぐ存在であると考えられた。中国の西北方に存在すると想像された崑崙山(こんろんざん)も,それは大地の中心に位置する天柱であって,天帝の下都が置かれ,天上の神仙世界に向かう通路であるとされた。…

※「共工」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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