一杯・一盃(読み)いっぱい

精選版 日本国語大辞典 「一杯・一盃」の意味・読み・例文・類語

いっ‐ぱい【一杯・一盃】

[1] 〘名〙
① 杯、茶碗、コップなど、一つの容器に入れた酒、茶、飯など。また、一つの容器にはいる分量
※正法眼蔵(1231‐53)行持下「日食粥一杯なるゆゑに」 〔荘子‐至楽〕
② ちょっと酒を飲むこと。また、形式ばらないで、気軽に酒を飲むこと。
※中華若木詩抄(1520頃)中「酒興のうかみたる時は、故人が来れかし。一盃のまんと思ふ也」 〔庾信‐燕歌行〕
③ 思う存分のこと。言いたい、また、したい限りのこと。
※玉塵抄(1563)一六「宮中を一はいにしたほどに近臣が讒じたぞ」
※洒落本・駅舎三友(1779頃)出立「灰(へへ)ふきから大蛇(てへじゃ)の出るやうな一ぱいをならべぬひて来たよ」
④ 金一両。また、明治以後は一円。
※浮世草子・元祿大平記(1702)五「祝儀は〈略〉宿へ三歩あるひは一ぱい」
⑤ 二合五勺はいる枡(ます)一ぱいの分量。
※御国通辞(1790)「小なから 二合五勺 一盃(いっぱい)
⑥ (「いっぱい食う」また、「いっぱい食わせる」の意) だまされること。また、だますこと。
浄瑠璃・夏祭浪花鑑(1745)七「腹の立つ。むまむまと一ぱい」
性交、入浴などの一回。
※洒落本・当世嘘之川(1804)五「それでもいっぱいしに来たのじゃあろがな」
※東京方言集(1935)旧市域の語彙〈永田吉太郎・斎藤秀一〉「あっしは湯へいっぱいはいって来ます」
⑧ イカ、タコ、カニなどの一匹。
⑨ 船一そう。
※日本橋(1914)〈泉鏡花〉五九「大船一艘(パイ)海産物積んで」
⑩ 商売を一時やめること。特に、近世の米市場で正米、帳合米とも商いを一時やめること。
※洒落本・箱まくら(1822)上「むちゃくちゃしたる館のすすはらひの為に、いっぱいとかいふ心もありて」
[2] 〘副〙
① 一定の容器や場所などに物が十分に満ちているさま。たくさん。
※康頼宝物集(1179頃)下「啼悲みける涙、大なる手洗に一ぱい有けると聞しに」
※足利本論語抄(16C)子罕第九「知と思ふ気が胸中に一杯ををうぞ」
② (「に」「の」を伴うこともある) ある限りを尽くすさま。できる限り。ありったけ。じゅうぶん。
史記抄(1477)一五「いっぱい弓を引きふくらめたぞ」
③ 時間や空間、数量などに関して、限度すれすれになっているさま。ぎりぎり。
※洒落本・箱まくら(1822)上「『皆さん。おしまい』『モウうちました』『一ぱいじゃといな』」
婦系図(1907)〈泉鏡花〉前「向うの壁に充満(イッパイ)の、偉(おほい)なる全世界の地図」
[3] 〘接尾〙 (名詞に付いて) そのものの限度まで全部、または、限度ぎりぎりの意を表わす。
(イ) ある物、場所などが、すっかり何かに満たされる意を表わす。
※俳諧・猿蓑(1691)五「糸桜腹いっぱひに咲にけり〈去来〉」
(ロ) ある時間、期間の限度、または、その限度までずっと、の意を表わす。「時間いっぱい」
※浄瑠璃・傾城反魂香(1708頃)中「七日といふもいまいまし。来月一ぱい借(かす)ぞや」
(ハ) ある事柄や状態の限度ぎりぎりまで出す意を表わす。「精いっぱい」
※浄瑠璃・五十年忌歌念仏(1707)上「心はりちぎ一ぱいに、せんじつめたる水間さと

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