ルーミスシジミ(英語表記)Panchala ganesa

改訂新版 世界大百科事典 「ルーミスシジミ」の意味・わかりやすい解説

ルーミスシジミ
Panchala ganesa

鱗翅目シジミチョウ科の昆虫ムラサキシジミに似ているがひとまわり小型で開張2.7~3.2cm。翅の裏面淡色前翅の暗色斑がよく目だつ。日本産の亜種名P.g.loomisiは,採集者のアメリカ人宣教師ルーミスH.Loomisにちなんだもので,和名にも用いられている。ヒマラヤから中国南・西部台湾および日本に分布する。日本では房総半島以西の本州四国,九州の山地に分布し,離島では隠岐島,屋久島に見られる。産地はごく限られ,一般に個体数も少ない。かつて奈良市の春日山に多産し,ここでは天然記念物に指定されていたが1960年以後姿を見せなくなり,ほぼ絶滅したものとされている。その原因は薬剤散布によるものと考えられている。照葉樹林にすみ,幼虫の食樹はイチイガシウラジロガシなど。年2~3回発生し,成虫は6~9月に羽化する。成虫で越冬する。幼虫は食樹の新芽をつづって巣をつくり,その中で生活する。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ルーミスシジミ」の意味・わかりやすい解説

ルーミスシジミ
るーみすしじみ
tailless bushblue
[学] Panchala ganesa

昆虫綱鱗翅(りんし)目シジミチョウ科に属するチョウ。日本では関東地方以南の暖地の照葉樹林に生息するチョウであるが、その生息地は限られており、千葉・奈良・三重・和歌山・島根・山口・愛媛・高知・福岡・大分・熊本・宮崎・鹿児島の諸県、および隠岐(おき)諸島・屋久(やく)島の二島にその産地が知られている。奈良県春日(かすが)山の本種は1932年(昭和7)以来、国の天然記念物に指定されているが、現在ではすでに絶滅したといわれている。国外では台湾(山地)、中国西部、ヒマラヤに分布する。

 和名は、日本産亜種の最初の発見者、アメリカの宣教師ルーミスH. Loomisにちなむ。はねの開張は25~29ミリメートル程度。普通のムラサキシジミに似ているが、それよりも小形、はねの表の色彩は青色で紫色を帯びない。普通、年3回の発生(6月、8月、9月)で、秋に羽化したものは成虫態(チョウの状態)で冬を越す。幼虫の食草はイチイガシ、ウラジロガシなどの常緑性のカシ類、自然状態でアカガシアラカシも食べる報告もある。

白水 隆]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ルーミスシジミ」の意味・わかりやすい解説

ルーミスシジミ
Panchala ganesa

鱗翅目シジミチョウ科。ムラサキシジミに似るが,より小型で,翅の輝きが強い。前翅の開張幅 25~29mm。前・後翅とも外縁に沿って幅広い黒褐色部があり,その内方は美しい青色である。裏面は灰白色で,同色系の斑紋が並ぶ。前翅端は角張っている。広葉樹林にすみ,日中は下草や地面に止っており,夕方になると樹上を活発に飛ぶ。幼虫はイチイガシあるいはウバメガシの葉を食べる。台湾からネパールにかけてが主産地で,日本では本州,四国,九州に局地的に分布する。奈良県春日山の棲息地は国の天然記念物に指定されている。

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百科事典マイペディア 「ルーミスシジミ」の意味・わかりやすい解説

ルーミスシジミ

鱗翅(りんし)目シジミチョウ科の1種。開張27mm内外。黒褐色で,前後翅の基半部は美しい青藍色に輝く。裏面は灰褐色,不規則な斑紋がある。幼虫はイチイガシなどを食べ,成虫は6月から2〜3回発生,成虫で越冬する。関東以西に分布するが本州では房総半島,奈良市春日山など分布地は数ヵ所に限られ,すでに絶滅またはそれに近い状態と考えられる生息地は1ヵ所にとどまらない。海外では台湾,中国南西部,ヒマラヤにすむ。絶滅危惧II類(環境省第4次レッドリスト)。

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世界大百科事典(旧版)内のルーミスシジミの言及

【春日山】より

…春日山一帯は約1000種の植物の生育する原生林に覆われ,特別天然記念物に指定されている。またルーミスシジミの生息地として天然記念物に指定され,モリアオガエルも生息している。山内には古代からの春日山信仰を物語る小祠や石仏が多い。…

※「ルーミスシジミ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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