フントの規則(読み)フントノキソク

デジタル大辞泉 「フントの規則」の意味・読み・例文・類語

フント‐の‐きそく【フントの規則】

基底状態にある原子電子配置を決める規則一つ。原子内に同じエネルギーを持つ電子軌道複数ある場合、各軌道に、同じ向きスピンを持つ電子が1つずつ入った後に、逆向きのスピンを持つ電子が入る、というもの。フント経験則として示した。フントの法則。→構成原理

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改訂新版 世界大百科事典 「フントの規則」の意味・わかりやすい解説

フントの規則 (フントのきそく)

原子番号Zの原子は原子核Z個の電子とからなり,電子は原子核のまわりを運動している。電子の運動は量子条件を満たす軌道運動に限られる。軌道には1s,2s,2pなどの名前がつけられている。1s軌道,2s軌道にはそれぞれ2個,2p軌道には6個の電子が収容可能で,その他の軌道にもそれぞれ定員があり,電子はできるだけエネルギーの低い軌道に入る。一つの電子配置においては,個々の電子の軌道運動のエネルギーは一定であるが,電子間の相互関係によって,原子全体のエネルギーは高い状態になることもあり,低い状態になることもある。ドイツのフントFriedrich Hund(1896~1997)は,1925年に原子の基底状態(もっともエネルギーの低い状態)について,原子スペクトルの実験データから,次の2項目の規則的現象を見いだした。すなわち,(1)もっともエネルギーの低い電子配置において,電子の合成スピン最大の状態が原子の基底状態である。(2)合成スピン最大の状態がいろいろある場合は,その中で合成軌道角運動量の最大の状態が原子の基底状態である。

 これをフントの規則と呼び,ごく少数例外はあるが,一般に,原子の世界を支配している法則と見られている。今日の知識によれば,2個以上の電子のスピンや軌道角運動量がそろっている場合には,パウリの原理が働いて,電子間の距離が大きくなり,クーロン反発のエネルギーが低下して,原子のエネルギーが低くなるのである。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フントの規則」の意味・わかりやすい解説

フントの規則
フントのきそく
Hund's rule

原子のエネルギー準位に関して,E.フントが原子スペクトルのデータから経験的に導き出した規則。原子のなかで,量子数 nl が決まった軌道の中に x 個の電子があり,1<x<2l であれば,スピン量子数 S方位量子数 L が異なるいくつかの状態が存在する。このうち,S が最大のものが最も安定であり,S が最大のもののなかでは,L が最大のものが最も安定という傾向がみられる。また微細構造のなかでは,外殻での電子の詰まり方が半分以下のときは,全角運動量 J が小さいものほど安定であり,詰まり方が半分以上のときは,J が大きいものほど安定となる。

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化学辞典 第2版 「フントの規則」の解説

フントの規則
フントノキソク
Hund's rule

原子の電子配置が不完全殻をなしている場合には,一般に全軌道角運動量量子数Lおよび全スピン量子数Sの異なるいくつかの準位(項)が生じるが,それらのなかでエネルギーのもっとも低いのは最大のSをもつ準位であり,また最大のSをもつ準位がいくつか存在する場合には,それらのなかで最大のLをもつものがエネルギー的にもっとも安定であるという経験則.F. Hundによって見いだされた.

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法則の辞典 「フントの規則」の解説

フントの規則【Hund's rule】

同じ主量子数 n と,同じ方位量子数 l をもった電子が電子殻を形成しているときの,等価な電子からなるエネルギー準位の順番を与える規則.最大多重度,つまり最大の S をもつ状態が最低のエネルギーとなり,それらが複数存在しているときは最大の L をもつ状態が最低のエネルギーとなる.

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