ハシナガイルカ(英語表記)Stenella longirostris; spinner dolphin

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハシナガイルカ」の意味・わかりやすい解説

ハシナガイルカ
Stenella longirostris; spinner dolphin

クジラ目ハクジラ亜目マイルカ科スジイルカ属。体長は雄約 2.4m,雌約 2mに達する。体重は約 77kgに達する。出生体長は 75~80cm。背部は黒灰色,体側は灰色で,尾柄部では体側と背部の色がぼかされる。腹部白色。嘴 (くちばし) の上面と下面吻端,ならびに胸鰭 (むなびれ) は黒灰色である。また眼から嘴と前頭部との境に向う細い黒色帯があるほか,胸鰭つけ根から眼に向ってやや薄い黒灰色の帯がある。体型は細長い流線形。噴気孔は1個で頭部正中線上にある。嘴は非常に長く,前頭部の傾斜はゆるやかである。背鰭は高大で,体の中央に位置し,先端はとがる。尾柄部の上下面にあるキール (稜状の隆起) は著しく,特に性的成熟に達した雄は,肛門後方の隆起が顕著である。歯数がラプラタカワイルカと並んでハクジラ類中最多であり,上下顎骨にとがった円錐歯が左右 45~62対並ぶ。イルカ類では最も活動的で,高くとびはね着水までに7回ほどきりもみ状に回転する。群れの大きさは数頭から数千頭で,太平洋東部の熱帯海域ではマダライルカと混群をなすことがある。夜間に索餌活動を行い,日中は休息する。中層性の魚類やスルメイカ類を捕食する。出産期は春から秋。亜熱帯および熱帯の全大洋域に分布し,北緯 40゜から南緯 40゜までに出現する。太平洋東部では,キハダの群れが付随するために巾着網により多数混獲され,現存数が減少傾向にある。

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改訂新版 世界大百科事典 「ハシナガイルカ」の意味・わかりやすい解説

ハシナガイルカ (嘴長海豚)
spinner dolphin
Stenella longirostris

ハクジラ亜目マイルカ科の哺乳類。インド洋大西洋,太平洋の熱帯~亜熱帯に分布する吻(ふん)の長い外洋性の小型イルカ。しばしば水面に跳躍し,体をきりもみさせる(英名spinnerの由来)。ハワイ近海から小笠原,九州南方にかけては,体長2m前後で,背面が黒褐色,腹面が白色で,中間の体側部が幅広い灰白帯となる型が分布する。この背びれはふつうのイルカ型であるが,東太平洋には,背びれが前方に傾斜する型が生息する。タイ国沿岸の個体は体色は日本近海と同様であるが,体長は1.4m以下と小型である。歯は,上下左右に各45~65本。妊娠期間10.6ヵ月。体長約80cmで生まれた子は5~12歳で成熟し,以後2~3年に1回出産する。200~1000頭の群れで生活し,ハダカイワシやイカなどの中・表層性生物を捕食する。しばしば船首波に乗る。東部熱帯太平洋では,本種の群れはキハダマグロの群れといっしょにいるため,マグロ群の指標生物となり,巻網でいっしょにとられる。このため100万頭以上いた資源は数分の1に減少したので,アメリカ政府はその操業を規制している。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハシナガイルカ」の意味・わかりやすい解説

ハシナガイルカ
はしながいるか / 嘴長海豚
spinner dolphin
[学] Stenella longirostris

哺乳(ほにゅう)綱クジラ目マイルカ科のハクジラ。体長2メートル、体重80キログラムまでの吻(ふん)の長いイルカ。インド洋、太平洋、大西洋の熱帯域に分布する。英名は、水面に跳躍して体をきりもみする習性に由来する。背面は黒色、腹面は白く、中間は灰色である。歯は上下左右おのおの50~60本。5~6年で成熟し、2~3年に1子を産む。魚、イカ、エビなどを食べる。

[粕谷俊雄]

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