ショア(Howard Shore)(読み)しょあ(英語表記)Howard Shore

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ショア(Howard Shore)
しょあ
Howard Shore
(1946― )

カナダの映画音楽作曲家、指揮者、サックス奏者。トロント生まれ。影響を受けた音楽家として武満(たけみつ)徹、ジョン・ケージニーノ・ロータの名を挙げる一方、「映画音楽の源流オペラにあり」と言明し、イタリア・オペラに対する熱狂も隠さない。こうした幅広い興味がジャンルを問わぬ守備範囲の広さと弛(たゆ)まぬ実験的姿勢をショアにもたらし、鬼才の名を欲しいままにしている。

 アルト・サックスを学ぶためアメリカ、ボストンのバークリー音楽院に進学するが作曲志望に転向。同音楽院卒業後、ロック・グループ、ライトハウスのメンバーとなり、同バンドの解散まで活動。1975年から5年間にわたってバラエティ・テレビ番組「サタデー・ナイト・ライブ」の音楽監督を務めた。同番組が輩出した人気グループ「ブルース・ブラザーズ」はショアの命名による。後年、ショアはインタビューで「毎週、舞台音楽を手がけたようなもので、よい修業になった」と述懐しているが、この時の体験が後に『ミセス・ダウト』(1993)、『エド・ウッド』(1994)、『アナライズ・ミー』(1999)などのコメディ作品の音楽に生かされることとなった。また、旧友デービッド・クローネンバーグDavid Cronenberg(1943― )監督と20年以上にわたってコンビを組み続け、国際的に広く知られるようになる。代表作に、十二音音楽に基づくスコア弦楽五重奏が演奏した『ザ・ブルード/怒りのメタファー』(1979)、テープループ技法(ある音素材を録音したテープを数珠(じゅず)つなぎにして再生し、通常の楽器演奏では得られない音響を生み出す技法)を使用した『スキャナーズ』(1981)、もっぱらシンクラビア(録音した音素材を変調可能にする電子鍵盤楽器)だけで音楽をつけた『ヴィデオドローム』(1982)、プッチーニのオペラ作品へのオマージュを見せた『ザ・フライ』(1986)、オーネット・コールマンソリストに招きフリー・ジャズの実験を行った『裸のランチ』(1991)、エレクトリック・ギター六重奏とハープ三重奏の組み合わせという奇抜な楽器編成で書かれた『クラッシュ』(1996)などがあり、1作ごとに映画音楽の新しい表現形式を模索する姿勢が高く評価されている。

 クローネンバーグ作品で大きな注目を集めてからは、もともと得意だったコメディ以外にも作曲依頼が増えはじめ、『羊たちの沈黙』(1990)や『セブン』(1995)を代表とするサイコ・スリラー作品から『エスター・カーン/めざめの時』(2000)のような室内劇風の人間ドラマまで手堅くまとめ、そのいずれもが高いクオリティを保つ。『ザ・フライ』以降は、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団を自ら指揮して録音を行うことが多い。アカデミー賞とは長く無縁であったが、3時間の長尺をオペラ的手法で重厚にまとめた『ロード・オブ・ザ・リング』(2001)でアカデミー最優秀作曲賞に輝いた。また、『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』(2003)でも同賞を受賞している。その他の作品として演奏会用作品にピアノ独奏のための「ピアノ4」(1991)など。92年(平成4)、『裸のランチ』公開に合わせてコールマンと来日公演を行った。

[前島秀国]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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