改訂新版 世界大百科事典 「オフブロードウェー」の意味・わかりやすい解説
オフ・ブロードウェー
Off-Broadway
ニューヨークの演劇のうち,ブロードウェーの商業演劇以外のものの総称。定員300名以下という,ブロードウェーの大劇場よりはるかに小さい劇場が活動の場であることが多く,製作費や入場料もブロードウェーより低い。オフ・ブロードウェーの劇場はマンハッタン区全域に散在するが,特にグリニチ・ビレッジに多い。上演される作品は無名の作家のもの,有名作家の実験的なもの,ブロードウェーでは上演されにくい古典や外国の名作が中心で,演出者や俳優もブロードウェーの場合に比べれば有名でないことが多い。ただし,大スターが前衛的な作品を選んで,安い出演料でオフ・ブロードウェーの劇場に登場することも時にはある。オフ・ブロードウェー演劇は1920年代にはすでにあったが,本格化したのは50年代初めである。ただ,実験的とはいっても,ブロードウェーとの差は程度の差であり,観客の入りによって興行を続けるかどうかを決めるロングラン・システムをとるなど,本質において商業演劇であることには変りはなかった。このために,もっと前衛的な傾向の演劇が60年代初めから盛んになった。これをオフ・オフ・ブロードウェーOff-Off-Broadwayと呼ぶ。最初は,喫茶店,教会,アパートの地下室など,本来は劇場でない場所で,ごく短い期間だけ劇を上演するというかたちをとり,作品もまったく無名の作家のものがほとんどであった。この時期のアメリカ社会全体の動きを反映して,ベトナム戦争,人種問題,性の解放など,なまなましい題材を扱ったものが多く,芸術的には在来のリアリズムの枠を壊す傾向が目立った。だが社会の変化に伴って,オフ・オフ・ブロードウェー,オフ・ブロードウェーはいずれもかつての熱気を失い,活動は沈滞している。しかし見方を変えれば,以前は単に例外的な現象でしかなかったものが,確実に定着したとも言える。
執筆者:喜志 哲雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報