首(くび)(読み)くび

日本大百科全書(ニッポニカ) 「首(くび)」の意味・わかりやすい解説

首(くび)
くび

解剖学上では頸(クビ)の字をあて、頭部胸部の間の部分をいう。正確には下顎(かがく)の下縁、乳様突起(耳介後方の突出骨部)、外後頭隆起(後頭骨中央部で明らかに頭皮下に触れる隆起部)を結ぶ線が上の境界線、胸骨柄上縁と鎖骨上縁から背部の第7頸椎棘状(けいついきょくじょう)突起の先端を結ぶ線が下の境界線となる。しかし、頸部の形、外見は年齢や男女によって、あるいは個人によっても差異がある。一般に年少者では短く、他部位と比べて割合に太い。横断面でみると、年少者と女性では、成人男子に比べて円形に近い。

[嶋井和世]

頸部の構造

頸部は大別して前面の前頸部と後面の後頸部(項、うなじ)に分けられる。体表から明瞭(めいりょう)にみられるもっとも特徴的な頸部の構造として胸鎖乳突筋がある。クビを左方か右方に回転したとき、耳介後部の乳様突起から同側の胸骨上縁に向かって盛り上がったように走る筋束が胸鎖乳突筋であり、これによって前頸部と側頸部の境界ができる。やせている人の場合では、とくにこの筋の盛り上がりは著明となる。胸鎖乳突筋は頸部にある最強の筋で、頭を側屈して反対側に回旋したり、両筋を同時に働かせて頭の後屈を行うほか、鎖骨を持ち上げて吸息運動を助ける。ところで、分娩(ぶんべん)の際に、胎児のこの筋が過度に伸展して筋肉出血がおこると、筋線維の変性で短縮硬化が生じ、斜頸(先天性筋性斜頸)となることがある。頸部の皮膚は移動性の大きいことが特徴であるが、前頸部の皮下には薄い膜状の広頸筋下顎骨の下縁から頸部側面を下方に広がるように向かい、胸部の上方まで達している。この筋は皮膚に付着している皮筋として、収縮すると前頸部に多数の縦ひだをつくる。前頸部正中線上のやや上方には、喉頭(こうとう)隆起とよぶ隆起部がみられる。これは、盾形の甲状軟骨の左板と右板が正中線で合する部分が突出したもので、思春期以後の男性にとくに著明であり、女性や子供では目だたない。これは甲状軟骨の左右板の合する角度が男性では90度、女性では120度であるため、男性の場合、突出が目だつわけである。俗に「のどぼとけ」とか「アダムリンゴ」とよばれるこの喉頭隆起は、嚥下(えんげ)運動の際、かならず上下する。

 甲状軟骨の上方には、体表から触れることができる舌骨がある。U字形で、喉頭部を前方から囲むように位置するが、皮下脂肪の多い人では触れにくい。甲状軟骨のすぐ下方には輪状軟骨があり、体表から触れることができる。この軟骨の下から気管が始まり、食道入口もこの高さで、気管の後方にある。このように、頸部内部では臓器がきわめて複雑に構成されているが、中軸となるのは7個の頸椎である。これを取り囲んで多数の頸筋群があり、頭部や舌の運動、下顎の運動、あるいは胸郭を挙上する吸息筋としての働きなどをしている。頸椎前面には咽頭(いんとう)―食道があり、その前方に喉頭―気管が通っている。甲状軟骨中央部から気管上部にかけては、その前面に甲状腺(せん)が付着し、甲状腺の両側後縁の上下に1対ずつの上皮小体(副甲状腺)があり、甲状腺に付着している。甲状腺は、普通では体表から触れないが、腺腫(せんしゅ)で肥大すると触れるようになる。

[嶋井和世]

血管と神経

食道両側には内側から順に、総頸動脈、迷走神経、内頸静脈が縦走している。胸鎖乳突筋の中央前縁部で総頸動脈の拍動に触れることができる。頸部の動静脈のほとんどはいっしょに走るが、浅層の静脈は頸部皮下静脈として発達している。このため、深部の上大静脈の循環障害や心臓疾患などによって静脈圧が高くなると、外頸静脈の怒張する(膨らむ)のが体表からも見られることがある。頸部には迷走神経のほか、副神経(僧帽筋と胸鎖乳突筋を支配)、舌下神経(舌筋支配)、舌咽神経、交感神経、横隔神経や頸部皮膚感覚をつかさどる頸神経などが錯綜(さくそう)して走っている。

[嶋井和世]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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