領国貨幣(読み)りょうごくかへい

改訂新版 世界大百科事典 「領国貨幣」の意味・わかりやすい解説

領国貨幣 (りょうごくかへい)

江戸幕府が制定した統一貨幣である金銀銭貨の幕府貨幣に対して,江戸初期に甲州加賀越後出羽などの大名領国で鋳造・発行された金銀貨を領国貨幣と総称する。領国貨幣の多くは元禄期(1688-1704)に消滅し,幕府貨幣に統一されていったが,元禄期以後にも引き続いて鋳造された場合も見られる。領国貨幣の中で最も代表的な甲州金は戦国期の武田氏の時代に始まり,松木・野中・山下・志村の4家が甲州金の金座をつとめた。慶長期(1596-1615)以後はそのうち松木家だけが金座の役職を命ぜられている。甲州金には一分金・二朱金・一朱金・朱中金(1朱の2分の1)の4種類があり,武田信玄時代の貨幣単位であった糸目(朱中の2分の1)・小糸目(糸目の2分の1)・小糸目中(小糸目の2分の1)は見られない。慶長期における幕府貨幣による幣制統一を反映したものと考えられる。加賀の金貨加賀藩の金銀吹座において鋳造され,加賀小判・加賀梅輪内小判・加賀梅鉢小判があった。銀貨には加賀・能登越中の3ヵ国通用銀として花降(はなふり)銀・朱染紙封銀など数多くのものが鋳造された。また加賀銀とならぶ領国貨幣の秋田銀には窪田銀・院内銀・野代銀・湯沢銀・横手銀・角館銀・秋田新銀などが見られた。1668年(寛文8)に京都銀座役人の狩野七郎右衛門が幕府に差し出した諸国の灰吹銀に関する調書には,前記の出羽秋田・加賀・能登・越中の銀貨のほかに,陸奥(津軽・会津・福島)・出羽(米沢)・越後(新潟・村上・高田)・佐渡信濃・飛驒・播磨但馬因幡美作石見・土佐・豊後・日向・対馬の諸国の灰吹銀が挙げられている。これらの地方限り通用の灰吹銀は,幕府により設立された銀座に買い集められて丁銀(ちようぎん)に造り変えられ,幕府貨幣の銀貨となった。このようにして,大部分の領国貨幣は元禄期において幕府貨幣へと切り替えられ,幕府による幣制統一が完成するに至った。
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