日本大百科全書(ニッポニカ) 「鋳造」の意味・わかりやすい解説
鋳造
ちゅうぞう
casting
foundry
金属を加熱して溶融し、これを目的の形をもたせた鋳型に流し込み、冷却、凝固させて製品をつくる方法で、塑性加工、粉末冶金(やきん)、溶接などと並ぶ重要な金属加工法の一つである。しかも溶融金属は鋳型の形状に応じていかなる複雑な形をもとりうるので、形状複雑な工業製品や、製作者の創作意欲のままにつくりあげられる美術工芸品など、われわれの身の回りには鋳造によってつくられた金属製品はきわめて多い。これらを総称して鋳物という。
鋳物は溶融金属が凝固したあとは熱処理を施すことはあるが、塑性加工などによりそれ以上の変形を加えることはなく、凝固したままの組織で、すなわち鋳造組織で十分な強度をもたねばならない。したがって二相組織などにするため比較的合金量が多いのが特徴である。鋳鉄は鋼よりも炭素量、ケイ素量が多く、アルミニウム合金鋳物も10%以上のケイ素を含むなどがその例である。また銅合金も青銅鋳物では10%までのスズを含み、黄銅鋳物では40%までの亜鉛を含む。
[井川克也]
鋳造炉
アルミニウム合金、銅合金の溶融にはるつぼ炉や低周波電気炉が用いられる。るつぼ炉は、黒鉛製のるつぼの周囲で重油あるいはコークスを燃焼させるもので、構造が簡単で古くから使われている。低周波誘導電気炉は、通常の配電網の50または60ヘルツの周波数の交流を鉄心に巻いた一次コイルに流し、鉄心の間隙(かんげき)に設けたチャンネルとよばれる溶湯の道を短絡二次回路として大電流を誘導させて昇温する。鋳鉄の溶融にはキュポラcupolaとよばれる直立した円筒形炉が古くから用いられている。この中にコークスと地金とを入れて空気を送り込み、コークスを燃焼させて地金を溶融し炉底から溶湯を取り出す。また、1960年ごろから、るつぼ型低周波電気炉が広く用いられている。これは前述のチャンネル型とは異なり鉄心を用いず、るつぼ型の炉の外周にコイルを巻き、これに低周波電流を流し、るつぼ内の鋳鉄に二次電流を誘起させて昇温溶融させる。鋼の溶融には三相交流を用いるエルー式電気アーク炉あるいは1000ヘルツ以上の周波数の交流電流を用いるるつぼ型高周波誘導電気炉を用いる。
これらの炉によって溶融された金属は、耐火れんがで裏張りされた取鍋(とりべ)に移され、鋳型のところまで運搬され、取鍋を傾けるか、あるいは取鍋の底につけたストッパーを引き上げることによって、鋳型に注入される。これを鋳込みという。
[井川克也]
鋳型
一方では鋳型の製作が行われる。もっともよく使われる鋳型材料は鋳物砂(いものずな)とよばれる珪砂(けいさ)を主体とするもので、このほか特殊なものとしてはジルコン砂、オリビン砂、クロマイト砂なども用いられる。20~70メッシュ前後の粒度の砂に粘結剤として粘土を4~8%、水分を2~6%加えよく混練して生型(なまがた)用砂とする。つくろうとする鋳物と同じ形状をした模型を木、プラスチックまたは金属でつくり、これを原型と称する。ただし、鋳型寸法で凝固した金属は室温まで冷却する間に収縮するので、原型はその分大きくつくっておかねばならない。その割合は鋼鋳物で1.5~2%、鋳鉄鋳物で0.5~1%、銅合金鋳物で0.8~1.5%、アルミニウム合金鋳物で0.9~1.75%である。したがって原型模型を木でつくる場合の木型工場では、あらかじめこの分長く目盛った物差しを使い、これを鋳物尺または伸尺(のびじゃく)という。
[井川克也]
造型機
この原型を定盤の上に置き、鋳枠を置いてこの中に生型用砂を入れてよく搗(つ)き固め、その後原型を抜き取れば、鋳型が完成する。人力で搗き固めることを手込めというが、現在では種々の造型機(モールディングマシン)を用いる。
そのもっとも簡単なものを一例としてあげると、まず下半分の原型を用いて生砂型を上下振動の衝撃力によって込める。これを反転し、上型の模型の上に生型用砂を入れてスクイズヘッドとテーブルとを近づけて上型の砂を締め付けて込める。次に模型を取り付けた定盤(マッチプレート)に振動を加えながら上型を模型から抜き上げてサイドベンチに置き、ついで定盤と下型模型とを同じく振動を与えながら下型から抜き取る。ここで必要な中子(なかご)を収め、上型をかぶせ、鋳込みやすいように湯溜(ゆだま)りをのせたり、鋳枠が不要な場合は抜き取ったりして、鋳型が完成する。
模型の上に鋳型砂を込める場合、製品の鋳肌をきめ細かなものにするため、とくに細かい砂で調製した鋳物砂をある厚さで模型の上にかぶせることがよく行われる。この砂を肌砂(はだすな)といい、その後ろ側に込める砂を裏砂(うらすな)という。
[井川克也]
鋳造方案
鋳型の溶湯を流し込むための湯口(ゆぐち)、垂直に流れ込んだ溶湯が製品となるべき鋳型空洞の周りに流れていくための水平な湯道(ゆみち)、さらに湯道から製品の鋳型空洞に流れ込むための堰(せき)、製品となるべき空洞を溶湯が満たし、凝固が始まると金属は一般に収縮するので、それにより不足する溶湯を補う目的で押湯(おしゆ)という部分を、製品の最後に凝固する箇所付近に余分につけておく。これら一連の鋳型各部の設計は鋳物作りの成否に大きく影響する。このような鋳型の設計を鋳造方案という。押湯の効果を高めるためには、鋳物の凝固順序を十分考慮し、冷やし金(がね)を鋳型中に入れて必要部分を早く冷やしたり、余肉をつけて必要部分を徐冷したりするなど鋳造方案上の種々のくふうがなされる。また金属の凝固時に放出されるガスや鋳型から吸収されるガスによって生ずる鋳物の気泡巣(ブローホールblow hole)の形成も避けねばならないので、鋳型に細い孔(あな)をあけてガス抜きとしたり、粗めの砂を使って鋳型の通気度をよくしたり、あるいは鋳型を乾燥したり、溶湯を鋳込み前に脱ガスしたりする必要がある。
鋳型内で凝固した製品を取り出すと表面に砂などが付着しているので、これを清掃するために鋼粒をぶつけたり(ショットブラストshot blasting)、砂と水の混合物をぶつけたり(ハイドロブラストhydroblasting)する。
[井川克也]
新しい鋳造法
このようにして鋳造によって製品がつくられるが、鋳物工場の生産性は、もっとも人手と時間のかかる造型工程に支配される面が大きい。そのためこれを合理化し能率化するために種々の方法が開発されてきた。
その一つに低加圧鋳造法がある。これは、金型あるいは繰り返し使用できる耐火物製鋳型を溶湯保持炉の上に設置し、湯口を下に伸ばして溶湯中に浸漬(しんせき)する。装置全体を気密室に収め、溶湯面に大気圧よりわずかに高い圧力をかけると、溶湯は湯口中を上昇し、鋳型中に押し上げられる。鋳型中で凝固したのち、溶湯面の圧力を除くと、湯口中の未凝固溶湯は保持炉中に戻る。この方法は溶湯歩留りもよく、比較的高融点の銅合金にも使えるので新しい鋳造法として発展が見込まれている。
次に生砂型の粘結剤は粘土と水であるが、さらに強力でしかも強い搗き固めを要しない粘結剤が使われるようになってきた。無機質粘結剤としてはケイ酸ソーダ、セメント、石膏(せっこう)などであり、有機質粘結剤としてはフラン樹脂、フェノール樹脂、乾性油などである。
[井川克也]