(読み)きかわ

精選版 日本国語大辞典 「鞴」の意味・読み・例文・類語

きかわ きかは【鞴】

〘名〙 鞴(ふいご)のこと。踏韛(たたら)。〔字鏡集(1245)〕

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デジタル大辞泉 「鞴」の意味・読み・例文・類語

ふい‐ごう〔‐がう〕【×鞴】

ふいご」に同じ。
「大息ついだるその響き、―吹くが如くなり」〈浄・国性爺

ふい‐ご【×鞴/×韛/吹子/革】

《「ふきがわ」の変化した「ふいごう」の音変化》火力を強めるために用いる送風装置。箱の中のピストンを動かして風を送る。古代から金属精錬加工に使用された。

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改訂新版 世界大百科事典 「鞴」の意味・わかりやすい解説

鞴/吹子 (ふいご)

人類は砂金(自然金),自然銅,隕鉄(いんてつ)などを見つけ,初めて金属を使うことを知った。次に炭を燃焼させて原料の鉱石を溶かし,金属を得られるようになったが,それには,送風つまり空気を多量に送って酸素を補給し,温度を上げる必要があった。そのためには,皮袋,うちわ(団扇),火吹竹などを使い,一時に多くの空気を吹きつける方法が考案された。日本では,昔から金属の製錬を〈金(かね)を吹く〉と呼びならわしているが,その実態を的確に表したものであろう。第1の皮袋は,動物を丸はぎにして得られ,空気を詰めて渡河用浮袋とした民俗例からも,きわめて古い時代から使われてきたことがわかる。奈良時代の史料に〈吹皮〉と記載され,牛,馬など大動物の皮を縫い合わせて使用しており,その呼名も〈布岐加波(ふきかわ)〉〈布岐賀波(ふきがわ)〉〈布以賀宇(ふいがう)〉と記録されている。終りの呼び方が縮まって〈ふいご〉となったものと考えられる。大型皮袋を固定して使う場合,押し縮める方向が縦と横との違いで,二つに大別できる。前者はおもにヨーロッパの蛇腹ふいご,後者はおもに中国の鼓ふいご系統に,いずれも発展している。また,固定した小型皮袋は,木あるいは粘土製の胴にゆるくはられ,それをすばやく鼓のようにたたく方式の皮ふいごとして発達,おもにアフリカで使用されている。エジプトのトトメス3世の大臣レクマラの墓の浮彫では,青銅製の扉を鋳造する情景が描かれ,足踏み式の皮ふいごが4個使われている。これらは皿ふいごと呼ばれているが,鼓ふいごの片面をもっぱら使用する方式と考えるべきであろう。なお,小型皮袋でも固定せず自由に操作する系統のふいごは,アコーディオン式の手ふいごとして,ごく限られた範囲,たとえば金銀細工あるいは家庭の厨房(ちゆうぼう)用に使われている。

 第2の〈うちわ〉の系統は,幅広い板状のもので強くあおぐ操作を基本としているが,その場合の力点,支点のとり方によって分類できる。長い板の一端を力点として力を加え,他端を支点として固定,その板を斜めに上下できるようにし,板の両側を土壁などで気密に保てば,板の下部にある空気を強く押し出す結果が得られる。中国で使われた水排,すなわち水車駆動による板ふいごをはじめとして,東北,朝鮮半島方面でこの形式のふいごが使用された。また,板の中央を支点,他の両端を力点とする方式は,踏みふいごあるいは土ふいごとも呼ばれ,日本では梵鐘の鋳造などに使われたが,とくに送風の効率化を図るため元禄年間(1688-1704)に開発されたたたら製鉄用のてんびん(天秤)ふいごは,2個の踏みふいごをてんびんのさおで連結し,1動作で両方のふいごを操作できるよう考案し,省力化に成功している。次に,板を組み合わせ箱を作り,その中へ往復可能の板状ピストンを備えた箱ふいごは,板ふいごの系統ではあるが,大工道具の台鉋(だいかんな)の出現ときわめて関係が深い。板表面の平滑仕上げは台鉋の発明によるところが大で,中国では技術革新の時期である宋代からこの形式のふいごが登場したと考えられる。箱ふいごの良好な気密性,それに弁と風の分配機構とによって,板ピストンを押しても引いても連続して多量の強風発生が可能となった。中国では箱の底部に弁と分配機構があったが,日本ではとくに箱底部の外側に分配機構を突出させ,その断面でいわゆる〈ふいご型〉ともいうべき独特の箱ふいごが開発されている。高圧多量の送風は,酸素供給の増大,それに伴って溶解温度上昇を実現,金属生産を一段と飛躍せしめた。鎌倉から室町時代にかけての日本刀,鉄仏の生産増加は,新しいふいごの登場によるところが大きい。その後,箱ふいごには気密をよくするため,秋口里山で捕獲したタヌキ毛皮摺動(しゆうどう)部分に使うなど改良が重ねられている。

 第3の火吹竹の系統は,自生するアシの使用に起源をもち,竹などの円筒状の幹を利用し,それに羽毛などで作ったピストンを組み合わせたポンプ状のふいごで,東南アジアなど竹の自生地帯と密接な関連のある方式である。本体の筒を縦に立てる場合と横に水平に使う場合とに大別できる。自生する竹の太さにも制限があったので,複数の筒を使うか,また,それらを連結しててんびん式に使う方式などが開発されている。一方,長い板4枚で角筒を作り,太さの制限をのがれるくふうもされている。これら板の使用は台鉋に関連するのはいうまでもない。ふいごは金属の製錬のみならず金属加工,鋳物(鋳造),鍛冶(鍛造)などにおいて不可欠の用具であり,それぞれの用途に応じた規模,機構をもった製品が,各地のふいご屋で作られた。最も著名な国内の産地は大坂天満で,鞴屋町という町名があったが,ふいごのことを別名〈伝馬〉と呼んだのも,産地天満がなまったものである。旧暦11月8日には,ふいごを使う職人によって〈鞴祭〉が行われており,当日は仕事を休み,ふいごを清めて祭る民俗行事となっている。
執筆者:

未開社会で用いられている原始的な形式のふいごには,獣皮を縫い合わせて作った一つないし二つの皮袋を手または足で圧して送風する皮袋型,木製の円筒にピストンをしっかりはめたポンプ型,2枚の木板を獣皮でつないだアコーディオン型などがある。アフリカで広く用いられているのは,粘土製の羽口をつけた通風管の元が二つに分かれ,そこに牛の皮で作った二つの皮袋がとりつけられたものである。これを手で交互に押して送風する。また東南アジアで使われているふいごには,気室が2個の竹筒から成り,鳥の綿毛をまいた棒ピストンが弁の作用をしているものもある。未開社会では,ふいごも鍛冶仕事と同様,重要な象徴的意味を帯びている。たとえばドゴン族では,炉が女性の胎内と考えられるのに対応して,ふいごは男性器とされる。またコンゴ古王国ではふいごが身体を浄化する力をもつと考えられ,キプシギス族では最も強力な呪力と結びつけられている。
鍛冶屋
執筆者:

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百科事典マイペディア 「鞴」の意味・わかりやすい解説

鞴【ふいご】

吹子とも書く。金属製錬などに使う簡単な送風装置。エジプトのファラオの墓標の記録,日本書紀の天の岩戸の条の天羽鞴(あめのはぶき)の記事などがあり,きわめて古くから使われたと考えられる。これらは皮袋形のもののようで,鉄器の出現と関連が深いとされる。のち手押形,足踏形などが作られ,たたら製鉄では天秤(てんびん)ふいごと呼ばれる大規模なものが使われた。手工的な鍛冶に用いる箱ふいごは木製の長い箱の中をピストンを往復させて風を押し出すポンプ式のものである。
→関連項目鍛冶屋鉄鋼

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【鞴祭】より

…旧暦11月8日の行事。鍛冶・鋳物師・たたら師・白銀屋など,ふいごを使う職人のあいだで行われ,さらに風呂屋・のり屋・石屋など,広く火をたく職人のあいだにも普及していた。この日は天からふいごが降ってきた日だといい,業者はふいごにいろいろのもの,とくにミカンを供えて,これを集まって来る子どもたちにまいてやるふうがあった。…

※「鞴」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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