鎮壇具(読み)チンダング

デジタル大辞泉 「鎮壇具」の意味・読み・例文・類語

ちんだん‐ぐ【鎮壇具】

寺院などを建立する際に、地鎮のためにその土地に埋めた宝石や道具類。奈良時代に盛んに用いられた。

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精選版 日本国語大辞典 「鎮壇具」の意味・読み・例文・類語

ちんだん‐ぐ【鎮壇具】

〘名〙 奈良時代、地鎮の際に埋納した品々。都城・寺院などの建立の際に金銀、玉類、鏡、刀剣などの貴重品を除魔のため埋置したことが「続日本紀」などにみられる。金鋺、銀鉢、瑞花鏡などを出土した奈良興福寺の鎮壇具が代表的。

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改訂新版 世界大百科事典 「鎮壇具」の意味・わかりやすい解説

鎮壇具 (ちんだんぐ)

建物を建てる際,地の神をまつるために地下に数々の財宝を埋める。それらの埋納物を一般に鎮壇具と称する。このまつりは仏教だけで行われたのではなく,神祇,陰陽道,道教によっても行われたが,発見される鎮壇具の多くは,仏教による供養に際して埋められたものである。発掘調査で出土した最古の例は飛鳥の川原寺塔跡出土品である。ここでは掘込地形(じぎよう)によって基壇を築く過程で,無文銀銭や金銅円板などを埋納している。7世紀後半のことと思われる。奈良時代には,寺院の堂塔造営に際してこうした供養が盛んに行われたようであり,奈良の興福寺,元興寺,東大寺,法華寺,西大寺などから各種の埋納品が発見されている。とくに興福寺中金堂や東大寺金堂(大仏殿)からは,まさに財宝と称するにふさわしい金銀をはじめとする多くの品々が発見されている。奈良時代には,宮殿,官衙,邸宅などの造営に際しても同様な供養が行われている。この時代に行われた供養は《陀羅尼集経》にもとづいたようであり,ここに示された埋納物は金,銀,真珠,珊瑚(さんご),琥珀(こはく),水晶瑠璃(るり)などの七宝とされている。

 平安時代以降,仏教では密教によって供養が行われ,三鈷輪宝(さんこりんぽう)や橛(けつ)などの法具が用いられる。ただ,真言宗天台宗とでは供養法や埋納物が異なる。埋納物の面では法具は共通するものの,真言宗では瓶,五宝(金,銀,真珠,瑠璃,水晶または琥珀),五穀,五薬,五香が埋められ,天台宗では七宝,五穀,五香が埋められる。注意しなければならないのは儀軌に〈鎮壇〉の語がみえるのは真言宗だけということである。真言宗では壇を築く以前の供養を地鎮として瓶のみを埋め,壇を築いた後の供養を鎮壇として密教法具をはじめとする各種の品々を埋納している。一般には中世以降も〈地鎮〉と称したようである。埋納物は時代が下るにしたがって,種類も量もしだいに少なくなる傾向をみせる。
地鎮祭
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鎮壇具」の意味・わかりやすい解説

鎮壇具
ちんだんぐ

寺院の建立に際し,地鎮のため堂塔の地下に埋められた品物。奈良時代では金,銀,瑠璃などの財宝を主体に,鏡,利器,合子など多種多彩で,興福寺中金堂,東大寺金堂などから発見されたものが代表例。平安時代以降は,密教の作法に基づき,ほぼ五穀,七宝の類に輪,けつなどの法具が配されたが,五宝,五薬,五穀の十五物,さらに五香を加えて二十物とした例もある。興福寺菩提院大御堂から発見された鎌倉時代の例では,金箔,稲穀を納めた銅瓶を中心に輪宝 10,けつ8,瓦器わん 11,土師器小皿 11が配されていた。

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世界大百科事典(旧版)内の鎮壇具の言及

【建築儀礼】より

…古代の伊勢神宮の造営では,山口祭(やまぐちまつり)(杣山(そまやま)の入口でその神をまつる儀式),木本祭(きのもとまつり)(正殿の忌柱を切るときの祭り),鎮地祭(ちんじさい)などが行われた。古代寺院の造営でも,基礎工事では鎮壇具を地中に埋めて安全を祈り,完成のときには造立供養(ぞうりゆうくよう)が行われた。平安時代以降の建築工事では,礎(いしずえ)(礎石を据えるとき),手斧始(ちようなはじめ)(事始(ことはじめ),木作始(きづくりはじめ)とも呼び,材木加工の開始),立柱(りつちゆう)・柱立(はしらだて)(柱を立てるとき),上棟(じようとう)・棟上(むねあげ)(棟木をのせるとき)が主要な儀式で,日時をあらかじめ陰陽師が卜占し,当日は建築工匠と工事関係者が工事場に集まって儀式を行った。…

※「鎮壇具」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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