日本大百科全書(ニッポニカ) 「部曲(中国古代)」の意味・わかりやすい解説
部曲(中国古代)
ぶきょく
中国古代の私家に属する「賤民(せんみん)」の一種。女性の部曲は客女(きゃくじょ)という。南北朝末期に一つの身分として成立し、唐代まで存在した。最下層の奴婢(ぬひ)と同じく独立した戸籍をもつことができず、均田法による土地の班給も受けられず、世襲的に主家に隷属した。ただし奴婢と違って、公式には売買されず、家族をもち、姓を有するなど、法的な扱いでは奴婢の上位に置かれる、いわば上級賤民であった。由来については諸説がある。まず、部曲の語が、元来、軍隊編成にかかわるものであったことからみて、南北朝期に私兵として活躍した奴婢が上昇したものとする説。また衣食に窮して他家に養われるに至った者が下降したとする説。奴婢に没落した者が不完全な形で解放されたことから生まれたとする説などである。唐代の法律には詳細な部曲に関する規定がある一方、具体的な姿を記す史料に乏しく、新出土のトゥルファン文書の研究など、課題は多く今後に残されている。
[尾形 勇]
『濱口重国著『唐王朝の賤人制度』(1966・東洋史研究会)』▽『堀敏一著『均田制の研究』(1975・岩波書店)』▽『尾形勇著『中国古代の「家」と国家』(1979・岩波書店)』