通・徹・透(読み)とおす

精選版 日本国語大辞典 「通・徹・透」の意味・読み・例文・類語

とお・す とほす【通・徹・透】

〘他サ五(四)〙
[一] 一方から他方にとどかせる。
① 物の表から裏までしみこむようにする。また、突いて裏へ抜けるようにする。つらぬく。
※万葉(8C後)一一・二四四三「隠処(こもりど)の沢泉なる岩根ゆも通(とほし)て思ふ吾が恋ふらくは」
源平盛衰記(14C前)三四「是より放たん矢は、〈略〉己等が鎧をとをさん事」
② 細い管、針のめど、穴などの一方の口からさし入れて他方の口へ出るようにする。
※枕(10C終)二四四「七曲にわだかまりたる玉の〈略〉これに緒とほして賜はらん」
③ すみずみにまで達するようにする。
※守護国界主陀羅尼経平安中期点(1000頃)一「光明一切の世界に照し徹(トホシ)たまふこと」
※現実拒否の文学(1956)〈大井広介〉「ゲラに眼を通す頃になると」
④ 物事に深く通じてさとる。
※法華義疏長保四年点(1002)二「文殊は是れ過去の仏なり。能く仏事を達(トホシ)たまへり」
⑤ 薄い物、透明な物、すきまのあるものなどを間においてこちらからあちらへある作用、動作を行なう。透かしたり、漉(こ)したりする。
※万葉(8C後)七・一〇七三「玉垂の小簾(をす)の間通(とほし)ひとり居て見るしるしなき暮月夜(ゆふづくよ)かも」
※うたかたの記(1890)〈森鴎外〉下「曇りし窻の硝子をとほして見ゆ」
⑥ こちらからあちらへとどくようにする。
※源氏(1001‐14頃)蛍「南の町もとをして、はるばるとあれば、あなたにもかやうの若き人どもは見けり」
※金(1926)〈宮嶋資夫〉一三「相場を通(トホ)す小僧の声が、高く響いた」
⑦ 鉄道、道路などを敷設する。「鉄道を通す」
※津軽の野づら〈深田久彌〉あすならう「街道からそこへ新しく通した道は」
⑧ 正しい筋道がつくようにする。「筋を通す」
⑨ ある人や物事を仲立ちにする。介する。
※都会の憂鬱(1923)〈佐藤春夫〉「私もその識者を通してお前の才能を信用する」
⑩ 料理屋などで、客の注文を帳場に知らせる。
今戸心中(1896)〈広津柳浪〉七「お誂(あつらへ)は何を通しませうね」
[二] ある所を過ぎて先へ進むようにする。
① ある所を過ぎて行かせる。通行させる。
※大鏡(12C前)三「後涼殿のきたの馬道よりとをさせ給て、あさがれひのつぼにひきおろさせ給て」
※平家(13C前)六「道をふさぎ、人をとをさぬよし申たりければ」
② 人を家の中や部屋へ入れる。座敷にあげる。
※浮世草子・傾城禁短気(1711)四「玄関へ通しませい」
③ 資格を認めて先の段階に進むことを許す。試験で合格させる。
[三] 人々や相手に認めさせる。
① 認めて通用させる。また、議案など認めて成立させる。
洒落本傾城買二筋道(1798)冬の床「きずいきままも里のならいと、とふしてやるぞよ」
※尋常小学読本(明治三七年)(1904)八「この帝国議会は、法律のしたごしらへや、国の費用のしたぎめなどについて、会議をいたします。そして、『そのままでよい。』と思ふものはとほし」
② 抵抗を排して、自分の希望、意見などを押し進める。「無理を通す」
日葡辞書(1603‐04)「ノゾミヲ touosu(トヲス)
[四] ある動作や、状態を一定期間、またはいくつかの事柄にわたって続ける。
① ある動作・状態をある期間にわたってずっと続ける。つらぬく。
続日本後紀‐嘉祥二年(849)三月二六日「其長歌詞曰〈略〉茜(あかね)刺す 終日(ひねも)すからに 烏玉(ぬばたま)の 狭夜通(とほす)まで」
※二老人(1908)〈国木田独歩〉下「純然たる独身者で到頭六十余歳まで通(トホ)して来た」
② いくつかの事柄にわたって、続けてする。
御湯殿上日記‐文明一五年(1483)六月二五日「御れん歌ののち御れんくあり、人すともかわる、侍従中納言はいつれにもとをしてしこう」
③ (補助動詞のように用いる) 動詞の連用形に付いて、ずっとし続ける、終わりまでする意を添える。
※万葉(8C後)一九・四一八三「霍公鳥(ほととぎす)飼ひ通(とほせ)らば今年経て来向ふ夏はまづ鳴きなむを」
※青春(1905‐06)〈小栗風葉〉秋「夜一夜暴(あれ)(トホ)した雨風は」

とお・る とほる【通・徹・透】

〘自ラ五(四)〙
[一] 一方から他方にとどく。
① 物の表から裏までしみこむ。また、突いて裏へ抜ける。
※万葉(8C後)一五・三七一一「わが袖は手本(たもと)等保里(トホリ)て濡れぬとも恋忘れ貝取らずは行かじ」
※平家(13C前)九「二刀は鎧の上なればとをらず、一刀はうち甲へつき入(いれ)られたれ共」
② 細い管、穴などが中空で一方の口から他方の口まで通じる。また、詰まっていたものがとれたり、取り除かれたりして通じる。
※枕(10C終)二四四「七曲(ななわた)にわだかまりたる玉の、中とほりて左右に口あきたるが」
道草(1915)〈夏目漱石〉五三「もう二三日食物が通(トホ)らなければ」
③ 音や光などが遠い所、奥深い所にまで達する。
※源氏(1001‐14頃)梅枝「横笛吹き給ふ。折に合ひたる調子、雲井とをるばかり吹き立てたり」
※日葡辞書(1603‐04)「コウクヮイ ココロニ touoru(トヲル)
④ 物事に深く通じて熟達する。
※宇治拾遺(1221頃)一三「文をならひよみたれば、ただ通りに通りて、才ある人になりぬ」
⑤ 薄い物や透明な物を間において向こうが見える。すきとおる。また、光などが、物を通してさしこむ。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)五「妙なる色暎(て)り徹(トホリ)て」
※枕(10C終)二〇一「かたはらの光の、ものの上(かみ)などよりとほりたれば」
⑥ 筋が、一方から他方へまっすぐにつく。
※藪の鶯(1888)〈三宅花圃〉八「ツト入来りし男年頃廿四五なるべく、鼻筋とほり色白く」
※今年竹(1919‐27)〈里見弴〉二夫婦「頑固な、然し柾(まさ)の通った」
⑦ 鉄道、道路、配管などが、設けられる。敷設される。通ずる。「鉄道が通る」
※女方(1957)〈三島由紀夫〉三「十一月下旬のことで、すでに楽屋にはスチームがとほってゐる」
⑧ 筋道がついて意味、内容が理解される。また、道理にかなう。「意味が通る」
※野の花(1901)〈田山花袋〉一「何処から話したなら一番筋が通って」
⑨ 料理屋などで客の注文が帳場に知らされる。
※歌舞伎・月梅薫朧夜(花井お梅)(1888)二幕「通ってをりますから、もう参りませう」
[二] ある所を過ぎて、先へ進む。
① 過ぎて、その先へ進む。通行する。
※古事記(712)下・歌謡「天飛(あまだ)む 軽をとめ しただにも 寄り寝て登富礼(トホレ) 軽をとめども」
※徒然草(1331頃)二一八「本寺の前をとほる下法師に」
② 室内にはいる。座敷にあがる。
※二人女房(1891‐92)〈尾崎紅葉〉中「奥方の居間に通(トホ)れば」
③ 資格が認められて先の段階に進めるようになる。試験に合格する。
※思出の記(1900‐01)〈徳富蘆花〉四「試験━此が如何であらふか。無事に通れば可」
[三] 世間や相手の人に認められたり知られたりする。
① 希望がかなう。また、主張などが認められる。
※徒然草(1331頃)一四一「おのづから、本意とほらぬ事多かるべし」
② 世間に認められて通用する。また、相手に理解される。
※風姿花伝(1400‐02頃)三「この花の公案なからん為手(して)は、上手にてはとほるとも」
※滑稽本・浮世床(1813‐23)初「あれでさへ家業になって通(トホ)る」
③ 広く知られる。
※洒落本・北華通情(1794)「ひろとくのうとうとしい、おいでてゐるも、よくとをったものじゃノ」
※硝子戸の中(1915)〈夏目漱石〉一七「大変な羞恥屋(はにかみや)で通(トホ)ってゐたので」
④ 物わかりのいい性格である。さばける。また、その方面の通(つう)である。
※評判記・吉原すずめ(1667)上「かい手の心におひて、とをり者あり、とをらざるあり」

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