辻本満丸(読み)つじもとみつまる

日本大百科全書(ニッポニカ) 「辻本満丸」の意味・わかりやすい解説

辻本満丸
つじもとみつまる
(1877―1940)

有機化学者。東京生まれ。第一高等学校を経て、1901年(明治34)東京帝国大学応用化学科を卒業、同年東京工業試験所に入り、終生同所で油脂研究に没頭した。日本における油脂化学の父である。研究報告は内外に発表したもの172編、うち1編を除いてはことごとく油脂に関するものである。有名なスクアレンC30H50発見(1916)は動物界における炭化水素最初の発見として注目に値する。1915年(大正4)工学博士、1920年恩賜賞を受賞した。彼の発見したものはイワシ酸ほか13種に及ぶ。広い趣味中、特筆すべきものは登山で、日本山岳会設立者の一人であり、南アルプス鳳凰(ほうおう)山で採取した植物59種のなかには学界未知のものもあり、そのなかのキキョウ科の1種はホウオウシャジンと命名された。高山植物種子の油も研究している。

[都築洋次郎]

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改訂新版 世界大百科事典 「辻本満丸」の意味・わかりやすい解説

辻本満丸 (つじもとみつまる)
生没年:1877-1940(明治10-昭和15)

応用化学者。東京の生れ。1901年東京帝国大学工科大学応用化学科を卒業,工業試験所技手をへて技師となり,15年第二部長となる。30年退官するが,その後も嘱託としてとどまり,広く動植物油脂化学に関する研究を続ける。とくにサメ肝油中の不飽和炭化水素の研究は著名で,1916年にその組成を決定し,スクアレンと命名した。この研究により18年に日本化学会桜井賞を受賞。さらに20年には〈油脂の研究〉に対して学士院恩賜賞が授けられた。その研究は学術面のみならず,油脂工業発展にも大きな役割を果たした。
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百科事典マイペディア 「辻本満丸」の意味・わかりやすい解説

辻本満丸【つじもとみつまる】

化学者。東京生れ。東大卒。1901年東京工業試験所に入り,油脂成分の研究を行う。クロコザメの肝油から初めて不飽和度の高い炭化水素スクアレンC3(/0)H5(/0)を発見。また,現在DHAとして知られるイワシ酸を発見し,油脂の臭気と脂肪酸成分の関係について研究,魚油水素添加より硬化油をつくり日本の油脂工業に貢献した。初期登山家としても知られる。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「辻本満丸」の解説

辻本満丸 つじもと-みつまる

1877-1940 明治-昭和時代前期の応用化学者。
明治10年12月4日生まれ。農商務省工業試験所にはいり,油脂化学を研究。「サメ肝油中の炭化水素(スクアレン)の研究」で大正7年日本化学会桜井褒賞,「油脂の研究」で9年学士院恩賜賞。昭和15年4月24日死去。64歳。東京出身。東京帝大卒。

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世界大百科事典(旧版)内の辻本満丸の言及

【スクアレン】より

…多くのサメ,とくにフジクジラ,カラスザメ,カスミザメなどの深海性のサメの肝油の不ケン化物などに存在する不飽和炭化水素。1916年辻本満丸によって発見された。スクアレンは動物界から初めて取り出されたイソプレン系化合物で,その生合成経路の面からもきわめて興味あるものである。…

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