轍鮒(読み)テップ

デジタル大辞泉 「轍鮒」の意味・読み・例文・類語

てっ‐ぷ【××鮒】

《「荘子外物から》わだちの水たまりであえいでいるふな危急がさしせまっていることのたとえ。轍魚。轍の鮒。

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精選版 日本国語大辞典 「轍鮒」の意味・読み・例文・類語

てっ‐ぷ【轍鮒】

〘名〙 (「荘子‐外物」の荘子と魏の文公会話に見える故事による語。わだちの中の鮒(ふな)の意から) 車のわだちの跡の水たまりにいる鮒のように危機がさしせまっていること。また、全く将来希望がない状態にあること。また、生活の道に困る人のたとえ。
扶桑集(995‐999頃)九・落第後簡吏部藤郎中〈三善善宗〉「如今干祿君知否、轍鮒何須江漢流
読本唐錦(1780)二「あはれ旧交の情によりて少し扶助をなし轍鮒(テッフ)苦みを忘れさせたまはらば」 〔徐陵‐在北斉与梁太尉王僧弁書〕

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普及版 字通 「轍鮒」の読み・字形・画数・意味

【轍鮒】てつぷ

わだちの水たまりにいる鮒。窮地の者にたとえる。〔荘子、外物〕(荘)するに、車轍中に鮒魚り。、之れに問ひて曰く、鮒魚よ來(きた)れ、子(し)何爲(なんす)るぞと。對(こた)へて曰く、我は東波臣なり。君豈に斗升の水りて、我を活(い)かさんかと。

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故事成語を知る辞典 「轍鮒」の解説

轍鮒

危機が差し迫っていることのたとえ。

[使用例] 潜水艦の中で酸素イオンかの足りない空気に轍鮒の苦しみをめるのとは大変なちがいである[中谷宇吉郎地球の円い話|1940]

[由来] 「荘子―外物」に見える話から。紀元前四世紀、戦国時代の中国での話。思想家の荘子が食べものに困り、ある君主の所へ穀物を貸してもらいに行きました。すると、「近日、税金を取り立てるから、それが入ったらお金を貸そう」という答え。そこで、荘子は次のような話をしました。「私がここへ来る途中、『しゃてつの中にぎょ有り(車が通ったあとにできたわだちにたまった水の中に、ふながいました)』。その鮒がすこしばかり水が欲しいと言うので、『これから南の方に行くから、川の水を逆流させて届けてあげよう』と言いましたら、その鮒は『ちょっとの水さえあれば、生き延びられるんです』と怒っていましたよ」。悠長なことを言っている君主への批判を通じて、荘子は、現実離れした議論しかしない他の学者たちを、非難しています。

〔異形〕轍鮒の苦しみ/轍鮒の急。

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