蒸気自動車(読み)じょうきじどうしゃ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「蒸気自動車」の意味・わかりやすい解説

蒸気自動車
じょうきじどうしゃ

石炭石油などの熱エネルギーを高圧蒸気に変え、ピストンを作動させて走る自動車。歴史的には1769年に、フランスのルイ15世軍の技術大尉でベルギー人のN・J・キュニョーが砲車牽引(けんいん)を目的に試作したものが第一号とされる。19世紀の中ごろにはイギリスやヨーロッパ諸国で大型のスチーム・コーチによる長距離大量輸送が行われ、とくにイギリスでは盛んであった。その後しだいに小型の個人用のものもつくられるようになったが、19世紀末にガソリン自動車が実用化された結果、急速に駆逐された。蒸気エンジンはもともと自動車に適したトルク特性をもつので、変速機が不要で、運転が容易である。唯一の欠点は、ボイラーに着火してから走れるようになるまで時間がかかることであったが、1888年にフランスのレオン・セルポレが発明したフラッシュ(瞬間)ボイラーでは1分たらずで走り出せた。このボイラーは小型軽量で、ガソリンエンジンと遜色(そんしょく)なかったが、簡便さでそれに劣った。しかし、セルデンGeorge B. Selden(1846―1932。特許関係弁護士。1895年にガソリン自動車の基本原理にかかわる特許を取得。ガソリン自動車の製造者は1台ずつ使用料を支払わなければならなかった。1911年、フォードらによって特許無効がかちとられた)の特許のあったアメリカでは1910年代まで蒸気自動車は生産され、そのため発達も著しく、そのよさを好む人のために1920年代の末まで少数がつくられた。

 排出ガス大気汚染社会問題となった1970年代、主としてアメリカで蒸気自動車の研究が盛んに行われたが、今日に至るまで実用化されていない。

[高島鎮雄]

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百科事典マイペディア 「蒸気自動車」の意味・わかりやすい解説

蒸気自動車【じょうきじどうしゃ】

蒸気機関原動機とする自動車。1769年フランスのキュニョー三輪の自動車を作ったのが最初とされる。以後改良を重ね,19世紀にはバスなどとして欧米で実用された。しかし機関容積,重量の大きいのが欠点で,ガソリン自動車(ガソリンカー)の出現とともにこれに押されて姿を消した。

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世界大百科事典(旧版)内の蒸気自動車の言及

【キュニョー】より

…マリア・テレジアの軍隊で工兵士官をつとめ,1763年ころ退役。69年ニューコメン式の大気圧機関にシリンダー2個をつけ,さらに鎖でピストン軸に連結されたつめとつめ車でピストンの直線運動を回転運動に変換,これを用いて世界最初の蒸気自動車を完成した。これは前輪駆動の三輪車で,4人を乗せて時速4kmの速さで走ったが,蒸気釜の製作が悪く15分ごとに水を補給せねばならなかった。…

【交通】より

…1885年,ドイツのベンツとダイムラー,イギリスのE.バトラーによって,内燃機関を動力とするガソリン自動車がほとんど同時に造られた。蒸気機関を車に搭載した蒸気自動車は馬車に代わるものとして,人々の関心を集めてきたが,そのわずらわしい操作や騒音などのため,内燃機関をのせた自動車が現れるとその影がうすれた。とくに1908年,アメリカで造られたT型フォードは操作が簡単でじょうぶであり,大量生産によって価格が安かったため人々の人気を呼び,その後19年間に1500万台が売られた。…

【自動車】より

…その後17世紀に入ると,ニュートンも蒸気を噴射してその反動で走る自走車を構想したといわれており,また1668年ころにはベルギー人のイエズス会宣教師F.フェルビーストが,蒸気を羽根車に吹きつけて動力を発生する衝動式蒸気タービンの模型自走車を製作している。もちろんこれらは図面や模型にとどまり,近代の自動車の定義に沿うもので,かつ実際に人が乗って走る車両を対象にすると,18世紀に入ってからの蒸気自動車が自動車の始まりということになる。
[実用化の時代]
 1769年フランスのN.J.キュニョーは,砲車を運ぶ蒸気三輪自動車を製作し,人が操って走ることに初めて成功した。…

※「蒸気自動車」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」