色悪(読み)いろあく

精選版 日本国語大辞典 「色悪」の意味・読み・例文・類語

いろ‐あく【色悪】

〘名〙
歌舞伎役柄一つ外見は色男で、実際は悪人の役。「四谷怪談」の伊右衛門など。色敵(いろがたき)。悪色事師(あくいろごとし)
※歌舞妓年代記(1811‐15)一「此(この)春より山中(やまなか)名字(みゃうじ)に改(あらため)、色悪(イロアク)といふは是(これ)を始(はじめ)とす」
② 女を迷わせてもてあそぶ男。色魔
社会百面相(1902)〈内田魯庵〉ハイカラ紳士「渠奴(きゃつ)中々の色悪(イロアク)で〈略〉咖啡店の女を誑(だら)して」

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デジタル大辞泉 「色悪」の意味・読み・例文・類語

いろ‐あく【色悪】

歌舞伎の役柄の一つで、外見は二枚目性根は悪人の役。「かさね」の与右衛門、「四谷怪談」の伊右衛門など。いろがたき。
女性を迷わせてもてあそぶ男。色魔しきま
「中々の―で…、咖啡店カフエーの女をたらして」〈魯庵社会百面相

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改訂新版 世界大百科事典 「色悪」の意味・わかりやすい解説

色悪 (いろあく)

歌舞伎の役柄。敵役の一つ。表面は二枚目であるが,色事を演じながら,実は残酷な悪人で,女を裏切る悪人の役。〈色敵(いろがたき)〉と混同されるが,色敵は三角関係のライバルという意味であって微妙にニュアンスが違う。代表的な役は,《法懸松成田利剣(けさかけまつなりたのりけん)》(《色彩間苅豆(いろもようちよつとかりまめ)》)の与右衛門,《東海道四谷怪談》の民谷伊右衛門である。この二つの役がともに4世鶴屋南北の作品であるところからみてもわかるように,江戸後期の文化の爛熟期に完成された役柄。河竹登志夫《色悪考》にも詳述されたが,通説では,この役柄の開祖は女方・二枚目を得意にした水木竹十郎(1674-1721・寛文4-享保6)で,工藤祐経を演じた時初めてこの役柄が登場したという。敵役を得意とした7世市川団蔵は,民谷伊右衛門を初めから敵役で演じるのは間違いで,お岩に惚れているのが変心するところに色悪の性根があると語っている。
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世界大百科事典(旧版)内の色悪の言及

【敵役】より

…《菅原伝授手習鑑》の〈車引〉の時平や《妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)》の蘇我入鹿,《暫(しばらく)》のウケなど。〈色悪(いろあく)〉は美男の悪人で二枚目のあでやかさに悪の凄みを加えた役どころで,《累(かさね)》の与右衛門,《東海道四谷怪談》の伊右衛門など。〈端敵(はがたき)〉または〈平敵(ひらがたき)〉は安手な悪人で,実悪と対照的に〈赤っ面(あかつつら)〉にすることが多い。…

※「色悪」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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