自切(読み)ジセツ(英語表記)autotomy

翻訳|autotomy

デジタル大辞泉 「自切」の意味・読み・例文・類語

じ‐せつ【自切/自×截】

動物が、外敵に襲われるなどの強い刺激を受けると、体の一部自ら切り捨てて生命を守る現象トカゲの尾、カニの脚などにみられる。自割

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改訂新版 世界大百科事典 「自切」の意味・わかりやすい解説

自切 (じせつ)
autotomy

動物が敵に襲われたとき,みずから体の一部を切って落とす現象。トカゲの尾,カニのはさみなどの例がよく知られているが,ミミズ(胴部),ヒトデ(腕),直翅(ちよくし)目などの昆虫(肢)などでもよく見られる。単に機械的に脱落が起こるのではなく,多くの場合,自切の起こる部位は一定しており,その部位から先が自動的に脱離しやすい構造脱離節とよばれる)になっている。捕食者からの刺激によって,特定の中枢を介する自切反射が解発され,その構造に関係する筋肉が収縮して,自切が起こる。動物を麻酔しておくと,自切は起こらない。脱離節には隔膜などがあって,自切に伴う出血を最小限にとどめるとともに,傷の治癒も早く,再生能力も高くなっている。しかし,必ずしももとの器官が完全に再生するわけではなく,トカゲの再生した尾には椎骨がない。自切は捕食者の注意をそらすことによって身を守るためのものと考えられるが,捕食者のほうも獲物に自切をひき起こさないような攻撃行動のパターンを備えていることがある。たとえば,食虫類のヒミズは,獲物のミミズを捕らえたらまず頭を食べ,自切反射の起こるのを防いでいる。また,ウズムシ類,多毛類など,自切によって無性的に殖えたり,生殖巣を含んだ部分をみずから切り離したりして繁殖したりする(生殖自切)動物もある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「自切」の意味・わかりやすい解説

自切
じせつ

動物が自ら体の一部を切断する現象をいう。通常は防衛反射または逃避反応の特殊な例として、外敵に襲われた場合または身体の一部に重大な傷害を受けた場合におこる防護自切をいうが、生殖または個体の増殖のため生じる生殖自切を含む場合がある。脊椎(せきつい)動物ではトカゲの尾が防護自切をすることが知られているが、この場合は尾の数か所が椎骨中央で切断しやすくなっている。このように、多くの場合、自切は脱離節とよばれる一定の場所でおこる。節足動物のカニの類では、反射(自切反射)による自切が全歩脚に発達し、基節が座節と癒合した面で脱離する。自切反射がおこるには、少なくとも二つの筋肉の協調した働きにより生じ通常の歩行には関係しない太い神経の興奮が必要である。この興奮なしには、外部から強い力で引いても脱離面では破壊されず、力学的に弱い場所が脱離面となるのではないことがわかる。一方、ヒトデの腕やミミズのように特定の脱離面がないものもある。また生殖自切の例も、頭足類の交接腕や条虫類の片節など多くの無脊椎動物にみられる。

[村上 彰]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「自切」の意味・わかりやすい解説

自切
じせつ
autotomy; self-amputation

動物が危険に際し体の一部をみずから切断,放棄して身を守る現象。動物が外敵に捕えられるのを免れるための適応。扁形,環形,軟体,棘皮,節足動物など無脊椎動物に多くみられるが,脊椎動物ではトカゲの尾でみられる。切れた部分が活発に動いて敵の目をひきつける場合も少くない。多くの場合,切断する個所は予定されていて,カニやクモの肢では第2関節のところにあらかじめ切れる場所があり,捕えられると筋肉の激しい収縮により切れる。トカゲでは尾椎骨に脱離節といわれる切れやすい部分がある。自切のあと,再生芽が形成され再生するが,トカゲの尾では,椎骨,鱗など完全にもとのものと同じではない。

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百科事典マイペディア 「自切」の意味・わかりやすい解説

自切【じせつ】

自割とも。動物が敵に付属肢や尾などを捕らえられ,または破壊された際などに,その部位を自ら切断して放棄する現象。ミミズ,カニ,バッタなど無脊椎動物に多いが,トカゲ,ヤモリの尾でもみられる。自切の起こる部位は一定しており,自動的に切り離されやすい構造(脱離節)になっている。中枢神経系と関連して起こり,失われた器官は多くの場合再生される。

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世界大百科事典(旧版)内の自切の言及

【カニ(蟹)】より

…この間がカニ類にとって外敵に襲われやすい危険な時期である。脱皮のときに,自切したはさみ脚や歩脚が再生する。
[自切]
 石などが落ちて脚が傷つけられたりすると,付け根近くの基節と底節の間にある特定の脱落面で脚を切り落として体液の流出を防ぐ。…

※「自切」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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