日本大百科全書(ニッポニカ) 「多毛類」の意味・わかりやすい解説
多毛類
たもうるい
環形動物門の1綱Polychaetaを構成する動物群。環形動物のなかでもっとも大きい基本群である。多毛類の一部が淡水中や陸上にあがって貧毛類(ミミズ)となり、貧毛類のうち、あるものが34体節をもったヒル類になったと考えられている。
多毛類の体は多くの体節に分かれ、おのおのの節にはいぼ足があり、これに数本から数十本の剛毛が生えているところからこの名がある。多毛類は大部分が海産で、石の下、海藻の根元、砂や泥の中に管をつくってその中で生活するもの、また一生プランクトンとして海中を漂っているものなど生活様式は多様である。大部分の種類は体長が2~20センチメートルであるが、小形のものでは5ミリメートルぐらい、大きなものではイソメ科の1メートル以上に達するものもある。現在、世界では約6000種、日本では約800種が知られている。
[今島 実]
形態
頭部には感触手、副感触手、目があるが種類によって形も異なり、またその機能にも著しい差異がみられる。頭部から胴部が続き、体の末端までほぼ同じ形の体節が連続しているものと、胴が胸部と腹部の二つに分かれ、それぞれ異なった形の体節からなっているものがある。前者を遊在類、後者を定在類と区別しており、定在類の大部分は管をつくってその中で生活している。いぼ足の形も種類によってさまざまであるが、いずれもキチン質の剛毛束をもち、これをいぼ足から出したり引っ込めたりして移動する際に役だてる。また、ある種類では、いぼ足にえらがあって酸素や二酸化炭素の交換を助けているが、えらをもたないいぼ足では、毛細血管が網の目のように張り巡らされている。背行血管から側血管に移った血液は体壁やいぼ足の毛細血管を通るときに酸素を取り入れ腹行血管に入る。血液は背行血管では前方に、腹行血管では後方に流れる。血液にはヘモグロビンが含まれているので赤い色をしているが、種類によってはクロロクルオリンを含んで緑色をしているものもある。
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生理・生態
消化管は口、咽頭(いんとう)、食道、腸、肛門(こうもん)と体の真ん中を縦に通っている。口の構造と頭部の付属器官によって食物の種類が違っていて、肉食のもの、泥を食べてその中の有機物を消化吸収するもの、プランクトンをとらえるものなどがあり、ゴカイやイソメの類では大きな鎌(かま)形の歯があって、これで食物を挟んでまる飲みにする。ウロコムシ類では共生するものが多く、カイメン、ウニ、ヒトデの体表で生活している。発光する種類があり、ツバサゴカイや浮遊性のオヨギゴカイはよく知られた例であるが、最近シリス科のOdontosyllis属の種類が富山湾魚津(うおづ)の海岸で発光することが報告された。
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生殖
一般に雌雄異体であるが、外形的な差はほとんどみられない。しかし、ゴカイやイソメの類は生殖の時期になると体形が変化して水中を泳ぐのに都合のよい生殖型になり、雌と雄がそれぞれ泳ぎながら卵あるいは精子を放出し、受精が行われる。バチとかパロロというのはこの生殖型をいう。また、クロムシやギボシイソメのように、ゼラチン質の袋の中に卵を保護して砂泥上や海藻に産み付けるものもある。一方、体から新しい個体を生じ、やがては親から離れていく無性生殖も行われる。
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利用
多毛類のうちのゴカイ類、イソメ類など約20種類ほどは、魚の釣り餌(え)として古くから利用されている。近年、釣り人口の急増のため、韓国、中国、フィリピンなどから輸入するほか、高知県や愛媛県ではイソゴカイの養殖が盛んに行われている。
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