臙脂(読み)えんじ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「臙脂」の意味・わかりやすい解説

臙脂
えんじ

インド、西アジアに産するエンジムシ(ラックスラック)より採取される赤色の染料(ラック・ダイlac dyes)。エンジムシは同地方で樹枝に寄生するカイガラムシに似た小虫で、これがついて固まって層をなしている枝(スティック・ラックstick lac)を煮出して、塗料にするラックをとるときに同時に採取される。わが国には近世以後に中国から輸入され、生(しょう)臙脂と称して顔料として絵画や友禅の彩色などに用いられた。これは、製造の過程で染料を綿に吸収させて乾燥したもので、使用に際してはこれを熱湯で処理して染料を滲出(しんしゅつ)し、湯煎(ゆせん)して煮つめたものが用いられた。

 臙脂と同じく赤色を出す動物性の染料に、南米産のコチニールがあり、両者がよく似ているので混同されることが多いが、わが国で江戸時代に用いられたのはもっぱら臙脂(ラック・ダイ)で、コチニールが用いられ始めたのは明治以後のことである。

山辺知行

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色名がわかる辞典 「臙脂」の解説

えんじ【臙脂】

色名の一つ。色名の一つ。JISの色彩規格では「つよい」としている。一般に、赤みをややおさえ、みを増した濃い赤色をさす。中国から伝わった古くからある色名で、キク科ベニバナからつくられた臙脂のほかに、カイガラムシ科の昆虫から作られた生しょう臙脂などがある。近年では中南米産カイガラムシ科エンジムシの雌のコチニールが使用される。和服だけではなく、洋服、靴、小物、インテリア、家電製品など日常の品々に用いられている。

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デジタル大辞泉 「臙脂」の意味・読み・例文・類語

えん‐じ【×臙脂/×燕脂】

エンジムシの雌から採取する赤色染料。生臙脂しょうえんじ
紅花べにばなから作った染料。べに。
紫と赤を混ぜた絵の具。
臙脂色」の略。
[類語]真っ赤赤色せきしょく紅色こうしょくくれないべに真紅しんく鮮紅せんこう緋色しゅあけあかね薔薇ばら小豆あずき暗紅あんこう唐紅からくれないレッドスカーレットバーミリオンマゼンタローズワインレッド

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世界大百科事典 第2版 「臙脂」の意味・わかりやすい解説

えんじ【臙脂】

紅色の染料,また紅(べに)などをもいう。燕支燕脂,胭支,焉支など同音の表記がある。16世紀,中国明代の本草学者である李自珍によれば,臙脂には4種あるというが,主要なのは紅藍花および紫鉱よりとれる顔料としての臙脂である。紅藍花(紅花黄藍ともいう)は日本でいうクレナイ,ベニバナで,花汁を粉に染めて顔の化粧に用いる。紅藍花は,いわゆる〈張騫ちようけん)もの〉で西域から中国に将来された。葉はアザミ,花はショウブに似る。

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普及版 字通 「臙脂」の読み・字形・画数・意味

【臙脂】えんじ

べに。べに色の顔料。唐・杜甫〔曲江、雨に対す〕詩 林雨をけて、臙脂濕(うるほ)ひ 水(すいかう)(あさざ)風に牽かれて、帶長し

字通「臙」の項目を見る

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世界大百科事典内の臙脂の言及

【絵具】より

…鉛白は塩基性炭酸鉛を主成分とするものだが変色することがあり,絵巻などの古典作品の顔の色が黒く変わっているのを見ることがある。 これらの岩絵具のほかに,赤色にはラックカイガラムシから色素を抽出したえんじ(臙脂),黄色にはガンボジ(海籐樹)の樹脂液から得る籐黄(とうおう)があり,青色には植物染料の藍を顔料として用いる。白色にはハマグリやカキの貝殻を焼いて作った蛤粉(ごふん)(胡粉)があり,主成分は炭酸カルシウムで,近世以降現代まで日本画で多用されている。…

【サボテン】より

…ダイリンチュウ(大輪柱)Selenicereus grandiflorus Br.et R.から,ドイツでは冠状動脈瘤(どうみやくりゆう)の薬を作る。臙脂(えんじ)(カーミン)はノパレア・コケニリフェラNopalea cochenillifera (L.) S.D.につくエンジムシDactylepius coccusからとれる赤色の染料だが,現在は合成染料が多い。
[栽培]
 排水のよい用土を使い,土の表面が乾いたら灌水する。…

※「臙脂」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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