紅
べに
ベニバナの花からとる紅色の色素。ベニバナは黄と紅の二つの色素を含み、その特色は、紅色素は水には溶けないが、アルカリ性の液には溶け、これに酸を加えて沈殿させてとる。わが国では山形市郊外がその代表的な産地で、俗に「最上(もがみ)の紅花(べにばな)」といわれている。紅は布帛(ふはく)類を紅染めにしたり、化粧の材料にしたり、食料品を赤く染めて祝儀に用いたりする。紅染めにするには、ベニバナを水に浸して黄色素が出るのをみて袋に入れ、これをもみ出す。半日以上経過してから、アルカリ剤を加えて放置しておく。一晩たって、これを絞ると花が白くなり、水は褐色を呈するようになる。この水に、さらに酸を加えると鮮紅色となる。この中に布帛を入れて、しばらく放置したものを薄い酢酸液に浸し、水洗いして乾燥するとできあがる。この方法を繰り返すとしだいに濃くなり、望む色合いが出るようになる。
[遠藤 武]
化粧用の紅はまず紅餅(もち)づくりから始まる。7月上旬に黄色いベニバナの花をむしり取り、水で洗って花の毛羽を取り去り、これを足で踏んでから莚(むしろ)を敷いた箱に広げて、一晩ねかせると花は発酵して赤くなる。これを臼(うす)で搗(つ)いて餅のようにし、両手で団子のように丸め、この上から莚をかけて踏むと、平たい餅の形となる。これが紅餅で、乾燥させたものを紅屋に運ぶのである。紅屋では、紅餅を一晩水につけて黄色素を絞り、残った餅に木灰(アルカリ)を加え、ぬるま湯を注いでその上澄みをとる。さらに木灰を加えて何回となく絞り、夾雑物(きょうざつぶつ)を取り去るために麻布を入れ、少しずつ酸を加えて麻に染め付けてから、これをろくろで水切りをし、固まった麻に酸を加えて絞ると、赤黒い液が得られる。これに酸を加えると液は真っ赤となり、紅分が沈殿する。これを羽二重(はぶたえ)で漉(こ)すと紅が残る。これを猪口(ちょこ)、茶碗(ちゃわん)などに塗り付けたものが小町紅で、江戸時代には寒(かん)に売り出されるのをとくに寒紅とか丑紅(うしべに)と称し、女性たちは競って購入した。
[遠藤 武]
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べに【紅】
〘名〙
① 紅花から製した鮮紅色の顔料。染料や、頬紅・
口紅など化粧品の原料とし、また、食品の着色などに用いる。臙脂
(えんじ)。〔訓蒙図彙(1666)〕
② 紅花から製した鮮紅色の顔料をおしろいに混ぜ合わせたもの。頬紅。ももいろおしろい。〔十巻本和名抄(934頃)〕
③ 口紅。古くは、猪口(ちょく)、皿、茶碗などに塗りつけたものを、指や筆で溶いて用いた。
※歌舞伎・裏表柳団画(柳沢騒動)(1875)二幕「旦那のお口の端へ紅(ベニ)がついて居りますぜ」
※俳諧・冬の日(1685)「朝月夜双六うちの旅ねして〈杜国〉 紅花(べに)買みちにほととぎすきく〈荷兮〉」
※俳諧・百囀(1746)歌仙「白いつつじに紅のとび入〈芭蕉〉
陽炎の傘ほす側に燃にけり〈支考〉」
くれない くれなゐ【紅】
〘名〙 (「呉(くれ)の藍(あい)」の変化した語)
※万葉(8C後)一一・二八二七「紅(くれなゐ)の花にしあらば衣手に染めつけ持ちて行くべく思ほゆ」
② 赤く鮮明な色。紅花の汁で染めだした紅色。臙脂色。
※三高逍遙の歌(1906頃)〈沢村胡夷〉「紅萌ゆる岡の花 早緑匂ふ岸の色」
※雑俳・柳籠裏(1783‐86)五月二八日「しわひ所とてくれなひが上手也」
④ 香木の名。分類は伽羅(きゃら)。香味は甘辛。六十一種名香の一つ。〔香名秘録〕
こう【紅】
〘名〙 くれない。べにいろ。紅色。
※花柳春話(1878‐79)〈織田純一郎訳〉二〇「眼辺に紅(コウ)を帯ぶ」 〔司馬相如‐大人賦〕
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デジタル大辞泉
「紅」の意味・読み・例文・類語
もみ【▽紅/紅=絹】
《ベニバナをもんで染めるところから》紅で染めた無地の平絹。女物長着の胴裏や袖裏に用いる。もみぎぬ。
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紅【べに】
ベニバナからとる赤い色素。主成分はカルタミンで,古くから化粧料,画料,染料とされた。花弁を圧搾して餅(もち)紅(板紅)を作り,灰汁(あく)に浸して色素を析出,酸を加えて沈殿させ絹布でこす。これを泥紅といい,猪口(ちょこ)や貝殻に塗り口紅とした。産地では山形県の最上(もがみ)紅が,製造では京都の京紅が有名。現在ではほとんど使用されない。→口紅/頬紅(ほおべに)
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紅(べに)
日本のポピュラー音楽。歌は女性演歌歌手、藤あや子。1996年発売。作詞:坂口照幸、作曲:水森英夫。
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出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報
出典 講談社色名がわかる辞典について 情報