胸膜炎(読み)きょうまくえん(英語表記)Pleurisy

精選版 日本国語大辞典 「胸膜炎」の意味・読み・例文・類語

きょうまく‐えん【胸膜炎】

〘名〙 肋膜炎をいう。
軍隊病(1928)〈立野信之〉四「好きで胸膜炎になったのぢゃねえってことを」

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デジタル大辞泉 「胸膜炎」の意味・読み・例文・類語

きょうまく‐えん【胸膜炎】

胸膜の炎症。結核肺炎インフルエンザがんなどでみられ、胸痛・呼吸困難・せき・発熱などの症状がある。胸膜腔に滲出液しんしゅつえきがたまる湿性肋膜炎と、たまらない乾性肋膜炎に分けられる。肋膜炎。

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六訂版 家庭医学大全科 「胸膜炎」の解説

胸膜炎
きょうまくえん
Pleurisy
(呼吸器の病気)

どんな病気か

 胸膜とは、肺の表面をおおう臓側(ぞうそく)胸膜と、胸壁、横隔膜(おうかくまく)縦隔(じゅうかく)をおおう壁側(へきそく)胸膜からなっています。両胸膜に囲まれた部分が胸膜腔で、ここに胸水がたまる病気を胸膜炎と呼びます。

原因は何か

 胸膜炎の原因としては、感染症、悪性腫瘍が主なものであり、膠原病(こうげんびょう)肺梗塞(はいこうそく)石綿肺(せきめんはい)も胸水がたまる原因になります。低蛋白血症(ていたんぱくけっしょう)や、うっ血性心不全でも胸水がたまります。

 感染症のなかでは、結核(けっかく)や細菌感染によるものが多く、悪性腫瘍では肺がんによるものが多いといわれ、それぞれ、結核性(けっかくせい)胸膜炎、細菌性胸膜炎、がん性胸膜炎と呼ばれています。

症状の現れ方

 最初の症状としては胸痛が多く、この胸痛は深呼吸や(せき)増悪(ぞうあく)するのが特徴です。原因が感染症であれば、発熱を伴います。咳も出ますが痰は少なく、胸水が増えてくると呼吸困難を感じるようになります。

検査と診断

 胸膜炎は、医師の聴打診のみでも診断がつくことがあります。胸水のたまった部位が打診で濁音(だくおん)を示し、呼吸音が弱くなり、特徴的な胸膜摩擦音(まさつおん)臓側胸膜と壁側胸膜がすれる音)が聞かれる場合です。

 胸部X線検査で胸水がたまっているのが明らかにされます(図45)。胸水が少量の場合には、胸部CT検査で初めて診断がつく場合もあります。

 胸膜炎の原因を調べるために、胸水検査が行われます。肋骨と肋骨の間から細い針を刺し、胸水を採取します。採取した胸水が血性であれば、結核や悪性腫瘍を疑います。

 次いで胸水の比重や蛋白濃度を調べ、いずれも高値(比重1.018以上、蛋白3.0g/㎗以上)であれば滲出液(しんしゅつえき)と呼び、感染症、悪性腫瘍などを疑います。いずれも低値であれば漏出液(ろうしゅつえき)と呼び、低蛋白血症やうっ血性心不全が原因です。

 胸水中の白血球分類が行われ、好中球が増えていれば細菌感染が原因であり、リンパ球が増えていれば、結核や悪性腫瘍が原因として考えられます。

 悪性腫瘍や結核の確定診断は、胸水から悪性細胞や結核菌を証明することです。また、胸水中のADA(アデノシン・デアミナーゼ)の上昇(50U以上)は、結核を診断する有力な方法です。

 胸水の検査だけで診断が得られない場合には、胸腔鏡を用いて胸腔内を肉眼的に観察し、病変と思われる部位を生検して確定診断をする場合もあります。

治療の方法

 細菌感染によるものであれば、抗菌薬の点滴が行われます。抗菌薬は、初期にはペニシリンやセフェム系の薬剤が投与される場合が多く、起炎菌がわかれば、より感受性のある薬剤が選択されます。重症例にはカルバペネムという強力な抗菌薬が投与されます。

 結核が原因であれば、ストレプトマイシンリファンピシンイソニコチン酸ヒドラジドエタンブトール、ピラジナマイドなどの抗結核薬で治療します。

 悪性腫瘍が原因であれば、胸腔ドレナージを行います。胸腔ドレナージとは、肋骨と肋骨の間から細いチューブを胸腔内に挿入し、器械で胸水を体外に汲み出す方法です。胸水が減った時点で、アドリアマイシンなどの抗がん薬やピシバニールを注入し、胸水が再びたまるのを予防します。同時にシスプラチンなどの抗がん薬の全身投与を行います。

 細菌や結核による胸膜炎の予後は一般的には良好ですが、悪性腫瘍によるものでは極めて不良です。

病気に気づいたらどうする

 深呼吸や咳で増悪する胸痛を自覚すれば、胸膜炎を疑い、早めに内科を受診します。とくに喫煙者の方が前期の症状を感じれば、悪性腫瘍によるものの可能性があるので、至急に内科を受診します。

沖本 二郎


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改訂新版 世界大百科事典 「胸膜炎」の意味・わかりやすい解説

胸膜炎 (きょうまくえん)
pleurisy

胸膜に起こる炎症で,肋膜炎とも呼ばれ,胸膜腔内に滲出液(胸水)が貯留する。滲出液が膿性の場合には膿胸(または化膿性胸膜炎),血性の場合には血性胸膜炎と呼ばれる。なお,外傷や大動脈瘤破裂などにより胸膜腔内に血液が貯留するものは,とくに血胸と呼ばれる。

胸膜炎の原因はいろいろあるが,最も多いのは結核性胸膜炎,癌性胸膜炎であり,近年後者が増加している。そのほか,肺炎,肺化膿症,心膜炎,肺梗塞(こうそく)や,慢性関節リウマチ,全身性紅斑性狼瘡(ろうそう),皮膚筋炎などの膠原(こうげん)病でも胸膜炎を起こすことがある。また,原因が明らかでない胸膜炎を特発性胸膜炎とよぶが,実際は結核性胸膜炎であることが多い。これに対し,明らかな肺結核病巣が胸膜に波及して生じた胸膜炎は随伴性胸膜炎と呼ぶばれる。

胸痛,発熱,呼吸困難がおもな症状である。徐々に発症することが多いが,突然発症することもある。胸痛はほとんどにみられる症状であり,深呼吸や咳,体動などによって増強する刺すような痛みを訴えるが,滲出液の貯留が進むと軽減する。結核性胸膜炎や膠原病性胸膜炎では38~39℃の発熱が2~3週間続くが,膿胸では40℃に達することもまれではない。癌性胸膜炎では胸痛や発熱を伴わないことも多いが,癌の浸潤が肋間神経に及ぶと,持続性の激しい胸痛を起こす。呼吸困難は滲出液が急激または大量に貯留する場合に強く,チアノーゼを伴うこともある。そのほか,全身倦怠感,食欲不振などをしばしば訴える。

 胸膜炎では聴診上,呼吸音は減弱または消失し,打診でも濁音を呈する。赤血球沈降速度(血沈)は著明に亢進する。胸部X線写真では,滲出液が少ない場合には肋骨横隔膜角部の消失を示すのみであるが,増加に伴い,境界不鮮明な濃厚均等影を示すようになる。胸腔穿刺(せんし)は胸膜炎の原因の精査の目的で行われる。穿刺液については色調,比重などをはじめ,細菌学的検査,細胞診や生化学検査などが行われる。また最近,壁側胸膜の針生検も診断のために,しばしば行われる。

胸膜炎の予後は原疾患に左右されるが,特発性胸膜炎の予後は良好であり,数週~数ヵ月で治癒する場合が多い。治療には安静・臥床,鎮痛解熱剤の投与とともに,原疾患に対する治療を行う。滲出液が大量に貯留し,呼吸困難やチアノーゼがみられる場合や,長期間貯留する場合には,胸腔穿刺や持続ドレナージによる排液を行う。滲出液の吸収を促進し,胸膜癒着を予防するために,副腎皮質ステロイドホルモン剤を併用することもある。そのほか,膿胸では以上の内科的療法では効果がみられず,肺剝皮(はくひ)術などの外科的療法を要することもある。
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家庭医学館 「胸膜炎」の解説

きょうまくえん【胸膜炎 Pleurisy】

[どんな病気か]
 胸膜に炎症がおこり、内・外側の二重になった胸膜のすき間(胸膜腔(きょうまくくう))に水(胸水(きょうすい))がたまってきた状態が、胸膜炎です。
 中等量以上に胸水がたまると、胸部の圧迫感や息切れが現われます。胸痛(きょうつう)は胸膜炎の初期にみられることが多いのですが、胸水がたまるとともに胸痛はむしろ軽くなります。胸痛は深呼吸やせきによって悪化します。
[検査と診断]
 聴診器で呼吸音が聞き取りにくく、胸を打診(だしん)しても健康な人のような澄んだ音がしませんが、体位を変えると、これらの音が変わってくることが大きな特色です。
 少量の胸水の検出には、胸部X線写真が役立ちます。また、胸部CT検査は、X線写真ではとらえにくい肺内の病像や少量の胸水を検出するのに有用です。超音波検査は少量の胸水を確認したり、排出するためのカテーテルチューブなどを肺に入れる場所を決めるときに役立ちます。
 胸水がみられたときに、もっとも重要な検査は胸水の採取です。胸水の性状、含まれる糖の値、細菌の有無、細胞の種類や数などを調べるためです。
[治療]
 日本では肺炎とわかると早くから抗生物質が使われるためか、肺炎にともなう胸水をみる機会は、それほど多くありません。しかし、肺炎に対する適切な治療が遅れると、膿胸(のうきょう)(「膿胸」)になることもあるので、注意が必要です。
 結核性胸膜炎(けっかくせいきょうまくえん)は、まだかなりみられる病気で、胸水をみたときには、かならず考える必要があります。胸膜のすぐ内側の結核病巣が胸膜腔へと広がると、胸膜炎をおこして胸水がたまります。この場合には、抗結核薬による治療が行なわれます。
 また、がんにともなう胸水としては、肺がん、乳がんなどが胸膜に転移したがん性胸膜炎によるものが多くみられます。抗がん剤による化学療法は無効であることが多いため、症状をとる対症療法が主体になります。胸水を排除すると、息切れは軽くなりますが、胸水は再びたまります。それを防ぐには胸膜を癒着(ゆちゃく)させます。胸水を抜いた後に、種々の薬剤を胸膜腔中に入れ、人工的に胸膜炎をおこし、胸膜腔の閉鎖を行ないます。
 全身性エリテマトーデスは、胸膜炎を合併しやすいことが知られています。これには、副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン(ステロイド薬)が効きます。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「胸膜炎」の意味・わかりやすい解説

胸膜炎
きょうまくえん

胸膜の炎症で、かつては肋膜(ろくまく)炎とよばれていた。外傷や腫瘍(しゅよう)などによっておこるもの、周辺の組織の疾患に続発するもの、遠隔臓器の疾患によっておこるものなどがあるが、もっとも多いのは肺炎、結核、インフルエンザによるものである。炎症の結果生ずる胸水を滲出(しんしゅつ)液といい、心臓や肝臓や腎臓(じんぞう)などの疾患の結果生ずる胸水は漏出液という。胸膜炎の症状は側胸痛、とくに深吸気時の疼痛(とうつう)、軽度の呼吸困難、咳(せき)、発熱などである。胸水が急速に多量貯留する場合は著明な呼吸困難、チアノーゼ、不安感を伴う。炎症の初期または治療期に滲出液がなく、胸膜の表面に線維素性滲出物が存在する状態を乾性胸膜炎という。これは急性肺炎によるものがほとんどであり、このとき聴診すれば摩擦音が聞かれる。滲出性の胸水で膿(のう)性の場合を膿胸という。

 滲出性胸膜炎では、打診上、エリス‐ダモアソーEllis-Damoiseau曲線、ガーランドGarland三角など、脊柱(せきちゅう)より外方に向かう特定部位に特有の濁音があり、聴診上は呼吸音が減弱または消失する。診断には、胸部X線写真、胸水の性状の検査、細菌学的検査、胸膜生検、胸部以外の疾患に対する検索などが必要である。治療には安静がたいせつで、安静によって軽快する場合が多い。原因療法が必要で、感染の場合は抗生物質が有効であり、心不全のときは強心剤、癌(がん)性胸膜炎では放射線、抗癌剤、免疫療法などを使用する。胸水による呼吸困難があるときは穿刺(せんし)排液する。経過は基礎疾患にもよるが、一般に1、2か月で治癒する。

[山口智道]

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百科事典マイペディア 「胸膜炎」の意味・わかりやすい解説

胸膜炎【きょうまくえん】

肋(ろく)膜炎とも。胸膜の炎症の総称で,液体の貯留する湿性胸膜炎と,貯留のない乾性胸膜炎があるが,前者が多い。結核,肺炎,悪性腫瘍(しゅよう)等の原因で起こり,各疾患に特徴ある貯留液(胸水)を伴う。治療は安静と栄養,胸膜穿刺(せんし)による貯留液の排除,抗生物質投与のほか,原疾患の治療が必要となるものも。
→関連項目癌性胸膜炎胸膜全身性エリテマトーデス肋間神経痛

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内科学 第10版 「胸膜炎」の解説

胸膜炎(胸膜疾患)

定義・概念
 胸膜は肺の表面を覆う臓側胸膜と,胸壁・横隔膜・縦隔を覆う壁側胸膜からなっており,胸膜炎は胸膜に起こる炎症の総称である.胸水のあるものを湿性胸膜炎,ないものを乾性胸膜炎という.臨床的に明らかな胸膜炎では胸水を伴う湿性胸膜炎がほとんどで,乾性胸膜炎は胸膜炎の病初期をみている場合が多い.感染症(一般細菌,結核菌,ウイルス,真菌など),悪性腫瘍,膠原病などさまざまな原因で起こる.胸水を採取し鑑別診断を行う(表7-14-1).胸水の項【⇨2-27】も参照されたい.[矢野聖二]
■文献
Light RW: Pleural diseases. 4th ed. Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, 2001.

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知恵蔵mini 「胸膜炎」の解説

胸膜炎

肺を包んでいる膜(胸膜)が炎症を起こす病気。多くの場合、肺と胸膜の間に水が溜まり胸水という病態をとる。かつては肋膜炎(ろくまくえん)と呼ばれた。原因としては、細菌感染と悪性腫瘍が主であり、その他の原因疾患として膠原病(こうげんびょう)、肺梗塞、石綿肺、低蛋白血症などがある。特に、細菌感染によるものを細菌性胸膜炎、結核菌によるものを結核性胸膜炎、悪性腫瘍によるものを癌性胸膜炎と呼ぶ。背中の痛み、胸の痛みに始まることが多く、この場合、咳や深呼吸で痛みが強まる。感染症性の場合、発熱を伴い、胸水が増えてくると呼吸困難を生じる。治療は、それぞれ原因となる病気(細菌感染、結核、癌など)に対処するとともに、胸水を体外に排出する胸腔ドレナージが行われることもある。

(2014-6-3)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「胸膜炎」の意味・わかりやすい解説

胸膜炎
きょうまくえん
pleurisy

胸膜の炎症性疾患の総称で,肋膜炎ともいう。原因は,結核と肺炎から続発する一般細菌性のものがほとんどで,そのほかウイルス感染症,肺膿瘍,悪性腫瘍などが原因になる。滲出性胸膜炎 (滲出液のたまるもの) ,膿胸 (膿がたまるもの) ,乾性胸膜炎 (滲出液のないもの) に分類される。胸膜の腫瘍では,血性の滲出液がたまって血胸の形をとることが多い。症状は鋭い胸痛や発熱,咳,滲出液の圧迫による呼吸困難などで,滲出液が吸収され,胸膜に癒着が起ると,胸壁が引張られるような感じがする。まず原疾患の治療を行うが,滲出液の貯留による呼吸困難が強ければ,胸腔穿刺によって直接排液を行い,そのあとに治療薬や副腎皮質ホルモンを注入することもある。

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世界大百科事典(旧版)内の胸膜炎の言及

【胸水】より

…また,卵巣繊維腫などの骨盤内腫瘍で漏出性胸水を伴うことがあり,メイグス症候群Meigs syndromeとよばれる。滲出液は種々の胸膜炎膿胸においてみられる胸水で,その原因によって外観は黄色透明~混濁,膿性,血性などさまざまであるが,一般に比重は1.018以上,タンパク質含有量3.0g/dl以上と,漏出液に比べ,高比重,高タンパク質であり,細胞成分も多い。その他,胸水にリンパ液が混じり,脂肪分の多い特有のミルク色を呈することがあり,乳糜(にゆうび)胸水とよばれる。…

【胸膜】より

…胸膜に炎症が起こったり,心不全などの場合には,胸膜腔に大量の水がたまる(胸水)。胸膜炎のあと,2枚の胸膜が癒着したりすると,肺の伸縮運動がうまく行えなくなるため,肺活量の減少が起こる。また,なんらかの原因で肺側の胸膜が破れると,肺内の空気は胸膜腔に流れ込み,肺は縮小する(気胸)。…

※「胸膜炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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