職場集団(読み)しょくばしゅうだん(英語表記)work organization

最新 心理学事典 「職場集団」の解説

しょくばしゅうだん
職場集団
work organization

職場を構成するものは,リーダー(管理者),メンバー,課題や目標の三つである。活動に付随して生まれるリーダーとメンバーの関係やメンバー相互の関係も,職場を構成する。これらの関係の良否は,日々の活動に影響を与える。その三つの中で,課題や目標が最重要である。職場として,自らが取り組む課題と目標を,明瞭に意識化する必要がある。

 今日,職場をオープンシステムとしてとらえ,職場を構成する第4のものとして外的環境を加えなければならない。変化する外的環境への無関心は,職場の孤立を意味する。外的環境には,まずは自組織内の他部門や他職場が含まれる。また,組織外としては,社会の価値動向,市場動向,技術動向,顧客(利用者),株主,他組織(競合的関係と協力的関係)などがある。経済のグローバル化が高進していることから,海外の各種の状況や動向も,考慮しなければならない外的環境である。

【組織コミュニケーションorganizational communication】 組織や職場における活動は,そのすべてがコミュニケーションである。組織内でのコミュニケーションと組織外とのそれに分けられる。また,活動をグローバルに展開している組織では,価値観や慣行が異なり,また相互理解や協同のとらえ方なども異なる社会や個人との異文化コミュニケーションにも気を遣うことになる。

 組織内コミュニケーションとしては,⑴円滑で効果的な活動のために,組織外の動向や情報を考慮しながら,日常的に,垂直方向(方向明示,指示,報告,伺い,提案など)と水平方向(連絡,依頼,要請,相談など)のコミュニケーションがなされる。それらのコミュニケーションの場が会議やミーティングである。そこでは,話題を広げる拡散的議論と,結論を明確にして現実の活動につなげる収束的議論の使い分けが求められる。また,⑵雇用制度の内容と運用,たとえば女性の定着や活用促進,仕事と家庭の両立(ワーク・ファミリー・バランス)への配慮などは,成員だけでなく,組織外部に対してもメッセージ性をもつ。さらに⑶人事や教育の制度も,強力なメッセージ性をもち,成員の発想,モチべーション,能力習得,組織との関係などに影響し,組織全体の競争力獲得と成長を左右する可能性が高い。

 他方,組織外とのコミュニケーションも重要である。⑴組織の活動状況(製品やサービス)や活動成果(組織業績など)の情報公開がある。情報の操作,隠蔽,虚偽報告は,信用や信頼を裏切るものであり,組織の存続に致命的となる。⑵理念や行動指針の制定と公表もある。組織内の成員に向けたものでもあるが,それ以上に組織外への明瞭なメッセージである。社会貢献,倫理の確立(コンプライアンス),地球環境保護や低炭素社会への対応,組織の利害関係者(顧客や株主など)を尊重する姿勢が示される。⑶組織外からの情報収集,すなわち社会や技術動向の変化,顧客(利用者)の反応や要望の収集と分析が適切になされ,戦略決定や活動計画に反映させることは,効果的な組織活動にとって基本的かつ不可欠である。

リーダーシップleadership】 職場の課題の達成に向けて,活動を効果的に進める働きかけが,リーダーシップである。効果的なリーダーシップとはどのようなものかの議論は,当然に,職場を構成するリーダー,メンバー,課題,それぞれに着目してなされてきている。

 第1は,どのような個人特性をもつリーダーが効果を上げるかについてである(個人特性論)。効果を上げる個人特性は,そのリーダーが活動する課題状況が何を求めるのかによって違いがある。「知能」の高さが一定程度の説明力をもっていることを除けば,普遍的に効果を上げる個人特性や能力があるとは結論づけられていない。その他に⑴情動的知能emotional intelligence(EI)の効果や,⑵リーダーの知能(分析的知能)を経験(実務的知能)やストレス状況と関連づける議論もなされている。

 第2は,どのような行動(働きかけ)を行なうリーダーが効果を上げるかについてである(行動特性論)。リーダーの行動には,課題に志向した行動とメンバーに志向した行動の二つがあるとされている。これら2種類の行動が,集団の生産性やメンバーの満足度とどう関係するかが数多く検討されている。そして,二つのリーダー行動が生産性やメンバー満足度に及ぼす効果性は,メンバー志向行動がメンバー満足度に与える効果は確認できるが,その他の効果については,結論的なことはいえないとされている。

 第3は,リーダー行動の効果性を,職場を構成するメンバーあるいは課題の特性の違いに注目して議論するものである(状況適合論)。その一つは,効果的なリーダーシップ・スタイルは,メンバーの成熟段階(課題遂行における経験や能力保持の度合い)により異なるとするライフサイクル理論である。メンバーの成熟度が低いときはリーダー主導の課題志向的な働きかけが,成熟度が高いときはメンバーの自律性を信じ,メンバー中心で進める働きかけが,それぞれ適している。

 あるいは,リーダーと,個々のメンバーとの関係の依存性や親密さに注目するリーダー-メンバー交換Leader-Member eXchange(LMX)理論がある。高水準の交換関係は,メンバーの欲しがるもの(おもしろくやりがいのある仕事,責任や権限,情報の共有,判断や意思決定への関与昇給,勤務条件,個人的な激励や承認,キャリア支援など)を,リーダーが用意することで生まれる。これらがあると,メンバーは,並み以上の従順さと犠牲で応える。このやりとりが続くことで,両者の交換関係は一段と濃密になる。

 さらには,メンバーの従事する職務課題の特性に着目して効果性を検討する通路-目標理論path-goal theoryもある。課題に志向し,課題,役割,進め方を明確にする「構造づくり行動」は,メンバーにとって,役割や課題が曖昧な状況において,モチベーション,満足感,業績を高める効果を生む。他方,メンバーに志向する「配慮行動」は,役割や職務課題が明瞭な状況,すなわちルーティン課題において,単調感を緩和するなどによって効果を生む。

 今日,外的環境の変動が顕著であることから,組織構造や職場活動の革新を図る変革型リーダーシップの重要性が説かれている。その実践にあたって,実績に裏づけられた有能さ,新ビジョンの提示,高い期待や信頼の表明と伝達,メンバーの発想やモチベーションを湧かせ,明瞭な役割モデルを示すカリスマ的リーダーシップの効果も検討されている。

 これまで,職場の効果性や業績の源泉についてリーダーシップの観点から見てきた。リーダーは,適切な課題や目標設定のために高い視点と広い視野が必要である。そしてそれ以上に,リーダーとしての誇りと倫理性が求められる。組織内外の状況がいかに厳しくとも,目前の成果を出すことのみに気を奪われ,視野狭窄となり,自分たちの論理や都合だけを優先し,社会からの期待や社会への責任を忘れることは許されないのである。 →集団 →組織行動
〔古川 久敬〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「職場集団」の意味・わかりやすい解説

職場集団
しょくばしゅうだん
work group

企業体の単位組織である職場を結合契機としてつくられる社会集団。職場は、企業を運営する単位組織であり、第二次集団として、明確に規定された地位、権限、職務に基づく行動様式の体系を備えている。また、職場活動に必要な物理的手段や施設を備えた空間的広がりをもつ。さらに、職場を構成する人々が役割を分担して協業活動を行う場でもある。そこで、同じ職場に配属されている人々の間に、職務や地位の類似性、空間的配置の近接性、作業の協業性などを基盤として、単なる職務上の部分的接触を超えた直接的、全体的な関係が成立し、相互間の役割期待が定着して社会規範がつくられ、自然発生的な第一次集団が出現する。これが職場集団である。企業組織の一部としてつくられた第二次集団でありながら、成員にとっては生活の場としての第一次集団的性格をもつところに、その特色がある。

 職場集団は、成員の心理的安定を維持する機能や、組織と個人を媒介する機能を果たしているが、人間関係の集積結果である職場集団の凝集性の高さは、成員や集団の効率を左右する重要な要因である。今日、労働の単調化に対する対応策として、QC(品質管理)サークルなど各種の小集団管理方式がとられているが、これは、権限委譲に基づく自主管理体制を推し進めることによって、職場集団のもつ第一次集団性に訴えて効率の維持、上昇を図ろうとする方策である。

[本間康平]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例