日本大百科全書(ニッポニカ) 「紅藻植物」の意味・わかりやすい解説
紅藻植物
こうそうしょくぶつ
red algae
[学] Rhodophyta
植物分類学上の1門として扱われる藻類(紅藻類)。世界で約4000種、日本には約1000種の海産種と約20種の淡水産種が生育する。紅藻植物は、光合成色素としてクロロフィルaのほか、r-フィコシアニンとr-フィコエリスリンなどの色素をもち、葉緑体は2枚の膜に包まれ、中に一重のラメラ(薄い層)をもつ。海の深い所に生育するものはフィコエリスリンを多量に含むために、体は赤色となる。紅藻植物の生殖細胞には鞭毛(べんもう)がないために、有性生殖は自己遊泳性のない精子と卵によって行われる。紅藻植物では、卵細胞を造果器とよび、受精卵から生じる胞子を果胞子とよぶ。紅藻植物の受精後の果胞子形成過程には、(1)受精卵自体が直接分割していくつかの果胞子となる、(2)受精卵は分裂して多数の細胞からなる造胞糸を形成し、造胞糸が果胞子を形成する、という二つの様式があり、この様式によって紅藻植物は次の二つに大別される。
(1)の様式がウシケノリ類(原始紅藻類)であり、(2)の様式が真正紅藻類(ウミゾウメン類)である。
ウシケノリ類は、体制と生殖方法によって、チノリモ目、ベニミドロ目、ウシケノリ目、オオイシソウ目に分けられ、真正紅藻類は助細胞の有無と、助細胞の位置によって、ウミゾウメン目、テングサ目、カクレイト目、スギノリ目、ダルス目、イギス目に分けられる。助細胞とは、真正紅藻類の果胞子体発生の際に特殊な機能をもつ細胞構造をいう。カクレイト目、ダルス目、イギス目では、受精後、受精卵より連絡糸が生じて受精卵の近くにある助細胞に複相の核を移入し、助細胞から造胞糸が形成される。紅藻植物の配偶体の核相は単相であるが、受精してから果胞子を生ずるまでの時期は雌の配偶体上に寄生的に生じた複相(2n)体であり、これを果胞子体とよぶ。この果胞子体から果胞子が発芽すると複相の胞子体が生ずる。
紅藻植物の生活史は多様である。ウシケノリ類の代表的なものはアサクサノリ型で、果胞子は放出されたあと、貝殻中に穿孔(せんこう)して生活する。真正紅藻類の果胞子は発芽して四分(しぶん)胞子体となる。ウミゾウメンの四分胞子体は配偶体に比べて小さく、顕微鏡的な大きさであるが、テングサやイトグサの四分胞子体は配偶体と同形同大である。
紅藻植物には産業上有用なものが多い。アサクサノリは水産物のトップクラスを占め、テングサ、オゴノリなどからは寒天を製し、食用とするほかに、医用細菌の培養や電気泳動の基質とする。
[吉崎 誠]