海馬(読み)かいば(英語表記)hippocampus

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「海馬」の意味・わかりやすい解説

海馬
かいば
hippocampus

大脳皮質側頭葉の奥深くにある大脳古皮質の一領域近年,脳生理学における記憶メカニズムの研究は海馬を中心に進んできており,少なくとも新しい記憶の貯蔵装置としての海馬の役割は疑う余地がなくなった。てんかん治療の目的で左右の海馬を切除すると,患者は手術以後の新しい事柄を記憶できない前向性健忘症になる。さらに,海馬の一部の CA1という領域だけが破壊された症例でも典型的な前向性健忘症になる。このような臨床例のほか,サルを用いた実験でも海馬の破壊が記憶障害を引起すことが確かめられている。こうした事実から,海馬は新しい記憶が長期記憶として安定するまでの間,近時記憶の貯蔵装置として働いていると考えられている。

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精選版 日本国語大辞典 「海馬」の意味・読み・例文・類語

かい‐ば【海馬】

〘名〙
① 魚「たつのおとしご(龍落子)」の異名。この雌雄を袋へ入れるなどして産婦が持つと産が軽くすむとされる。〔山槐記‐治承二年(1178)一一月一二日〕
② 「セイウチ(海象)」の異名。〔南島志(1719)〕
大脳辺縁系で古皮質に属する部位。本能的な行動や記憶に関与する。断面の形が①に似る。
※脳の話(1962)〈時実利彦〉一八「側頭葉と海馬を中心にした領域が、特に、記憶の統合作用の領域として分化している」

うみ‐うま【海馬】

〘名〙
① 魚「たつのおとしご(龍落子)」の異名。〔物類称呼(1775)〕
② 海産の大きなカメ。うみぼうず。あおうみがめ。〔大和本草批正(1810頃)〕

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デジタル大辞泉 「海馬」の意味・読み・例文・類語

かい‐ば【海馬】

セイウチ別名
タツノオトシゴの別名。
大脳辺縁系の一部で、側脳室の近くにある部位。古皮質に属し、本能的な行動や記憶に関与する。形がタツノオトシゴに似ることから、16世紀にイタリアの解剖学者アランティウスが命名した。アンモン角
[補説]3で、形が神話の海馬ヒッポカンポスに似るところからいうという説もある。

とど【海馬/胡獱】

アシカ科の哺乳類。雄は体長約4メートル、体重1トンに達する。体は黒褐色で、頭の幅が広くて後頭部が低く、ひげがある。繁殖期には1頭の雄が多数の雌を従える。太平洋北部で繁殖し、冬に北海道などでもみられる。
[類語]海驢あしか膃肭臍おっとせい海豹あざらしセイウチ

うみ‐うま【海馬】

タツノオトシゴの別名。

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動植物名よみかた辞典 普及版 「海馬」の解説

海馬 (トド)

学名Eumetopias jubatus
動物。アシカ科の海獣

海馬 (ウミウマ)

動物。ヨウジウオ科の海水魚。タツノオトシゴの別称

海馬 (アシカ)

動物。アシカ科の動物の総称

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栄養・生化学辞典 「海馬」の解説

海馬

 脳の部位の名称で,側頭葉の下内部,側脳室下角底面の部位.

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世界大百科事典 第2版 「海馬」の意味・わかりやすい解説

かいば【海馬 hippocampus】

脳の内部にある古い大脳皮質部分で,その原始型は魚類両生類にもみられる。ギリシア神話に登場する海神ポセイドンが乗る海の怪物ヒッポカンポスHippokamposの下半身についている魚の尾の形にこの部分が似ているので名づけられた。海馬にはさらに海馬采,海馬足,海馬鉤などの部分的名称が与えられている。 海馬は,昔から嗅覚(きゆうかく)機能に関与するとされてきたが,嗅覚系の発達のよくないヒトやクジラなどにもよく発達しており,嗅覚との関連は薄いものである。

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普及版 字通 「海馬」の読み・字形・画数・意味

【海馬】かいば

竜の落とし子。

字通「海」の項目を見る

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世界大百科事典内の海馬の言及

【睡眠】より

…この状態になると音刺激ではなかなか起きないが,肉のにおいをかがせると目覚める。 大脳辺縁系(海馬)を刺激すると,寝場所を探し,毛づくろいをするなどの行動がひき起こされる。大脳核のなかの尾状核の刺激では静止状態がひき起こされる。…

※「海馬」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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