改訂新版 世界大百科事典 「てんかん」の意味・わかりやすい解説
てんかん
epilepsy
漢字で癲癇と書く。世界保健機関WHOの定義(1973)に準拠すると,てんかんは脳の過剰なニューロン発射に由来する反復性の発作つまりてんかん発作を主徴とする慢性の脳疾患であるが,病因は単一ではない。発熱に伴う痙攣(けいれん)(熱性痙攣),病変が急性進行性の脳炎や脳腫瘍,脳浮腫が進行しつつある急性期の頭部外傷はてんかんとはされず,低血糖,低カルシウム血症,尿毒症その他の代謝疾患もてんかんとはされない。これらは原疾患名で呼ばれるが,発作症状自体はてんかんにおけると同様の症状を示すので,てんかん発作と呼ばれる。また,反復性発作ということからは,一生に一度のような単発性ないし機会性痙攣もてんかんとはされない。
なおてんかん(およびそれに似た神経性発作)は,古くは神聖病として知られていた。ヒッポクラテスは,この病気が奇態な病気ではあるが,〈つきもの〉あるいは〈神業〉によって生ずるものではなく,他のいろいろの病気と同じく自然的原因によるものであることを強調して,呪術師たちがこの病気を神聖化して取り扱うのを非難し,この病気が脳に発することを唱えた。
病因による分類
主として素因に由来する真性てんかんgenuine epilepsyと脳器質障害による症候性てんかんsymptomatic epilepsyがある。症候性の場合も,同程度の脳障害によっててんかんになる人とならない人があって,てんかんになるには,ある程度遺伝的素因が関与する。真性は一次性,本態性,特発性ともいわれ,症候性は二次性,残遺性ともいわれる。一次性全般てんかんはてんかん性放電が全脳に一度に波及するもので,汎性視床投射系を介すると考えられることから中心脳性てんかんともいわれる。かつて真性,症候性の出現率の比は約3対1とされたが,現在では前兆を伴う全般強直間代痙攣を症候性てんかんとみなすなどの診断技術の進歩によって,真性は50%以下とみられるようになった。
発現率
発現頻度は0.3~0.5%であるが,最近1%という数字もある。一卵性双生児での一致率は60%,片親が本態性てんかん患者である場合の子での出現率は11.0%,同胞の場合は4.1%である。発病年齢は青春期と幼小児期に多く,20歳までに70~80%が発病する。25歳以上で発病するものを晩発てんかんlate onset epilepsyといい,進行性の脳疾患である可能性があるから,精密検査が必要である。
症状と種類
持続が1~2分のてんかん発作,数時間から数週間持続するてんかん挿間症,および慢性てんかん精神病,てんかん性認知症(てんかん性痴呆)と性格変化の4種類がある。ただし,発作でも感情発作は持続が数時間から数週間と長いことがあり,認知発作や自律神経発作も数十分と長いことがある。
てんかん発作
痙攣発作だけでなく,意識,運動,感覚,自律神経,感情など,ほとんどすべての精神的,身体的な症状が発作として現れる。昼夜のリズム,月経など性ホルモンの変動,睡眠不足や過労,感覚刺激や緊張からの解放などが発作の誘因となる。
1964年,国際てんかん連盟International League Against Epilepsy(ILAE)によっててんかんの国際分類が提唱され,69年の改訂を経て,81年,第2次の改訂案が提出された。この改訂案は部分発作を意識減損の有無によって,意識減損のない単純部分発作と意識減損のある複雑部分発作に分けたのがその特色である。意識減損は注意や反応様式が変化して外部刺激に正常に反応しえないことと定義されたが,感情発作のほか記憶障害発作,認知発作,錯覚発作などの軽度の意識障害を示す発作型までが単純部分発作に分類されたため,若干の異論を生じている。なお,この分類はてんかんそのものの分類ではなく発作の分類なので,当然,真性,症候性ということでは分けられていないことに注意する必要がある。てんかんは症状の面で全般てんかんと部分てんかんに分けられるが,それ以上は発作型で分けられることが多い。
全般てんかん
真性,症候性ともに発作は意識減損を初発症状とし,運動症状が出現する場合は両側性である。脳波には発作波を発作の最初から全般性にみる。部分発作から二次的に全般化する発作は,本来の全般発作から区別され,あくまでも部分発作から発展する型とされる。
(1)全般強直間代発作 大発作grand mal(フランス語)のことで,てんかん発作の約50%を占める。突然意識を失って転倒し,約20秒間の強直性全身痙攣(上肢屈曲位,下肢伸展位を示す強直期)と約40秒間の間代性全身痙攣(間代期)をきたす。その後,数十秒から数分で意識を回復するが,入眠したり(終末睡眠),もうろう状態を呈することがある(発作後もうろう状態)。発作時,眼球が上転して白目となり,まぶたが開いていることが特徴的で,本発作の頓挫型(不全型)と欠神発作とは眼症状の違いで鑑別される。初期叫声と呼ばれる叫び声をあげることがあるが,あとは呼吸は停止しており,口唇はチアノーゼを示す。呼気で呼吸を再開し,口腔,咽頭にたまっていた唾液を吹き出すが,吸気時にはこれを気管内に吸引するおそれがあるから,発作が終わったら頭部を横にするほうがよい。尿を失禁したり,舌をかんだりすることがある。数日ないし数時間前に頭重やいらいらがあるのを前駆期といい,発作の数秒前から頭痛やめまいがあったり,きらきらする光点をみたりするのを前兆auraという。しかし,この前兆の本態は部分発作なので,前兆のある発作は,部分発作が二次的に全般化した発作ということになる。発作間欠期の脳波には基礎波への散発性θ波の混入,θ波やδ波の群発,不規則棘(きよく)徐波結合,6Hz棘徐波結合,PCR(photoconvulsive responseの略)などをみる。強直期の発作時脳波には全般性に10Hz前後の律動波が出現,θ波を交えるようになると間代期に移行し,δ波が間欠的に出現して発作を終了する。
(2)定型欠神発作 純粋小発作pure petit mal(フランス語),ピクノレプシーpyknolepsyのことで,一次性全般てんかんの一型。代表的な発作型であるが,頻度は5%以下と少ない。欠神発作とは突然意識を消失ないし減損し,まぶたは開いて前方を凝視するもので,行動は中断され,刺激に対する反応は多くは失われる。ふつう呼吸の停止はない。持続は2,3秒から30秒くらいである。7~12歳の女児に発病し,発作は1日数回から数十回起きるが,知能障害や性格障害をきたすことは少ない。また,途中で大発作を合併するものもあるが,大半は成人するまでに治癒ないし軽快し,予後は比較的良好である。定型欠神発作以外に,自動症,ミオクローヌス,脱力,強直,自律神経症状を欠神発作に伴う型がある。脳波所見は共通で,発作間欠期には全般性の棘波や短い3Hz棘徐波結合の混入を示し,過呼吸や睡眠で賦活される。基礎律動は通常正常である。発作時には3Hz棘徐波結合が全般性に出現する。
(3)ウェスト症候群 全般てんかんにはさらに,非定型欠神発作,ミオクローヌス発作,間代発作,強直発作,脱力発作(失立発作)があるが,これらはいくつかまとまってウェスト症候群,レノックス症候群といった特徴ある小児の年齢依存性てんかんを形成することがある。これらはそれぞれ特有の脳波異常を示し,脳波-臨床単位である。症候性が80%,特発性が20%とされる。ウェスト症候群はBNS痙攣,点頭痙攣,乳幼児前屈型小発作ともいわれ,生後1年未満,とくに3~9ヵ月に発病することが多い。発作時,全身を一瞬ぴくんとさせ,(イスラム教徒が礼拝するときのように)両手を挙げ,頭部と上半身を前屈させる。発作の持続は1~3秒と短いが,群をなして反復出現する。胎児期,周産期の脳の器質的障害から発展することが多い。精神遅滞があり,難治性である。発作間欠期の脳波にはヒプスアリスミアhypsarrhythmia(棘波や高振幅徐波があちこちに無秩序に出現する高度の律動異常)がみられるが,発作時には逆に中断され,脱同期化することが多い。
(4)レノックス症候群 成人型はまれで,2~8歳で発病する。頭部と上半身を前屈して両手を外転する強直痙縮,意識減損の始まりと終りが緩徐な非定型欠神発作,そして強直発作,ミオクローヌス発作,脱力発作などのうちのいくつかの発作型を併せもつ症候群である。強直痙縮と非定型欠神発作が基本的な発作型である。脱力発作はミオクローヌスで始まることが多く,跳ねるように倒れて脱力する(ミオクローヌス脱力発作)。ウェスト症候群から移行することがあり,成長するにつれ,強直間代痙攣や強直発作などの他の発作型に移行する。脳の器質的障害から発展するものが多く,精神遅滞を示すが,特発性の精神遅滞の軽い一群がある。一般に難治性で,発作のために知能や運動機能がいっそう悪化する。発作間欠期の脳波には汎性遅棘徐波発射(小発作異型)と呼ばれる特徴的な波が出現する。これは100~150msの鋭波と350~400msの徐波からなる全般性の鋭徐波結合で,偽律動性といって,周波数が1.5Hzから2.5Hzの間を動揺する特性がある。浅眠時にはシリーズをなして頻発する。徐波睡眠(ノンレム睡眠)では約10Hzの律動的な棘波群発が出現する(大田原俊輔,1970)。発作時の脳波には,強直痙縮では10Hz前後の全般性の漸増律動が出現し,振幅の増減を示すが,全般性の20Hzの律動性棘波や脱同期化を示すこともある。非定型欠神発作では前述の汎性遅棘徐波結合を発作時脳波とするが,漸増律動や脱同期化のこともある。脱力発作には周波数変動の大きい汎性多棘徐波結合がみられる。
(5)ウンベルリヒト=ルントボルク症候群 家族性進行性ミオクローヌスてんかんともいわれるが,本態はラフォラ小体が証明される脳遺伝性疾患,黒内障白痴のような脳の脂質代謝障害,非特異的脳変性疾患など脳の進行性疾患であり,てんかんの概念からはずすべき症候群である。
部分てんかん
発作の初発症状と脳波所見が局在性脳障害を現すてんかんをいう(この場合,局在性脳障害が異常な興奮の源となって発作を生じるので,このような限局性の脳障害部位をてんかんの焦点focusという)。意識減損のない単純部分発作を示すものと意識減損のある複雑部分発作を示すもの,および,これから大発作に発展するものがある。
(1)複雑部分発作 以前,精神運動発作といわれていたもののうち,意識障害の明らかな意識減損発作と自動症automatismをさす。意識減損発作は数十秒から1~2分のあいだ意識が消失する発作で,発作中は精神活動も身体活動も停止し,健忘を残す。定型欠神発作より持続の長いことが多く,3Hz棘徐波結合をみない。自動症は意識減損発作に加えて,舌なめずりや咀嚼(そしやく)し飲み込む運動,不安や恐怖の表情,ポケットやボタンをまさぐる運動,歩行,〈ホラ〉〈キタ〉などの発語を示すもので,それぞれ,口部自動症(食行動自動症),表情自動症,身振り自動症,歩行自動症,言語性自動症といわれる。難治性で,長年の抗てんかん薬の服用が必要であり,性格変化や知能の低下をきたすことが多い。脳波所見は意識減損発作,自動症とも同様で,発作間欠期に前側頭部棘波をみる。検出率は覚醒時30%,睡眠時88%で,睡眠記録が有用である。発作時には,全般性の5~7Hz突発性律動波,14~20Hz速波,平たん化,無変化の4型の脳波パターンを示す。
(2)単純部分発作 この型の発作には以下の4群がある。(a)ジャクソン発作(焦点発作として有名なもので,焦点は運動野にある)や向反発作(焦点と反対側に回転する)のような運動症状を示すもの,(b)身体感覚,視覚,聴覚,嗅(きゆう)覚の特殊な異常症状を示すもの,(c)上腹部異常感覚などの自律神経症状を示すもの,(d)言語障害,既視体験,未視体験,夢幻状態,感情障害,情景的な幻視などを示すもの,の4群がある。発作間欠期には症状発現に対応する部位に棘波や棘徐波結合をみ,発作時には同部位に10Hz前後の局在性律動波をみることが多い。なお,変わった型のてんかんにコシェニコフてんかんがある。これはジャクソン型の焦点運動発作の間欠期に手や顔面など発作の初発部に限局して,1Hz前後のミオクローヌスが持続的にみられるものである。数時間から数日間続き,対応する部位の脳波に棘波や棘徐波を連続してみることがある。
反射てんかん
てんかん発作を生ずる焦点(てんかん原焦点)が感覚野にあり,感覚刺激で焦点が賦活され,発作が起きるのを反射てんかんといい,強直間代痙攣を示す光原性てんかん(木の間をもれる日光などによってひき起こされる)やテレビてんかん(テレビによってひき起こされる),複雑部分発作を示す音原性てんかん(特定の音や音楽などによってひき起こされる)などがある。テレビや音楽などに熱中するという精神的な要因も促進的に関与する。
てんかん発作重積状態
意識を回復する間もなく発作が反復したり,発作が異常に長く続く状態をいう。全般強直間代発作(大発作)重積状態では,しだいに半側痙攣や頓挫型の発作に移行するが,これは発作の軽快ではなく,脳の疲弊や脳浮腫を示す。40℃もの高熱,大脳の嵌頓(かんとん)ヘルニアによる瞳孔左右不同症をみるに至り,死亡する。最近,ジアゼパム20~30mgの急速静注(静脈内注射)により,比較的容易に治療できるようになった。欠神発作重積状態には,定型欠神発作重積状態と発作性昏迷ictal stuporとか棘徐波昏迷spike-wave stupor(ニーデルマイヤーE.NiedermeyerとカーリフェーR.Khalifeh,1965)と呼ばれる状態がある。後者は成人にもみられ,昏迷状態を呈する。脳波も3Hzでない不規則な棘徐波結合を示す。
てんかん挿間症epileptic episode(episodic psychosis)
てんかん発作は持続が1,2分以内と短いのに対し,挿間症は数時間から数週間と長い精神症状からなる病相episodeで,てんかん患者の数%にみられる。急性てんかん精神病とも称されたが,WHOのてんかん用語集は,挿間症とてんかん発作との間には必ずしも一義的な因果関係がないとし,てんかんにおける急性精神病(挿間症)acute psychosis(psychotic episode)in epilepsyとするほうが望ましいとした。挿間症にはランドルトH.Landolt(1964),ブリュンズJ.H.Bruens(1973),ケーラーG.K.Köhler(1980)などの分類があるが,まだ決定的な分類はない。
ランドルトの分類(表)で〈発作後もうろう状態〉とは,大発作が1,2回起きたのち,数週間もうろう状態が続くものであるが,〈器質因性もうろう状態〉とはおもに抗てんかん薬の過剰投与や脳浮腫によるもうろう状態などを示し,抗てんかん薬による運動失調や眼振,構音障害などの中毒症状を伴い,脳波には徐波化の著しい増加をみる。〈生産的精神病性もうろう状態〉は統合失調症様状態を示していて,意識障害が目だたず,健忘を残さない点,通常のもうろう状態の概念とは異なっている。抗てんかん薬で発作が抑制されると代わって出現することがある。〈てんかん性不機嫌症〉は,原因なく不機嫌となり,衝動的な行動や乱暴を行うもので,誘因があればさらに刺激的となる状態である。
ランドルトは器質因性もうろう状態とてんかん性不機嫌症に強制正常化forcierte Normalizierung(ドイツ語)という現象を見いだした。強制正常化とは,発作が抑制され,脳波上も発作波が消失し,ときに基礎律動も正常化するようになると,代わって精神症状が出現するもので,alternative psychosis(ヤンツD.Janz,1969)ともいわれる。これは発作に対する脳の抑制機構の過剰反応とも,発作として解消されるべきエネルギーの変形とも解釈されている。しかし最近では,てんかん性不機嫌症はむしろ発作準備性が高まった発作前に起きるとされる(木戸又三,1967)。とくに大発作では不機嫌症の持続は短いがこの傾向が強い。これに対して,複雑部分発作では不機嫌症の持続が長く,強制正常化の場合と発作前の場合とがある。
慢性てんかん精神病
通常,大発作が発症して十数年してから発病する。発作の頻度はむしろ少ない。途中で側頭葉症状を呈する部分発作を交えることはある。躁うつ病像を呈することはまれで,統合失調症(精神分裂病)像を呈する。宗教的,神秘的な妄想が目だったり,疎通性がよいという特徴がある。統合失調症のはっきりとした強制正常化は少なく,発作頻度,脳波所見,精神症状の関係は一定ではない。出産時障害,頭部外傷,脳炎などの既往歴とCTスキャンでは脳萎縮像をみることが多く,側頭葉障害の役割が重視される。一方で,生理的,社会的,薬理学的な因子の関与も重視されることから,WHOは慢性てんかん精神病をてんかん者の慢性精神病chronic psychosis in an epileptic individualと呼ぶように勧めている。統合失調症負因は統合失調症者より低く,病前性格でも分裂気質はとくに強くはない。
てんかん性認知症(てんかん性痴呆)と性格変化
てんかん性認知症
真性てんかんでは認知症はみられず,発作そのものは認知症をきたすことはない。しかし,発作によって二次的に脳浮腫や脳低酸素症を生ずると,幼若脳ではとくに脳損傷と知能障害を生じやすい。幼児では痙攣重積状態のあと,精神発育が停止したり,運動機能が脱落することがある。半球萎縮を生ずることもある。
てんかん性性格変化
本態変化epileptische Wesensänderung(ドイツ語)ともいわれ,てんかん者の約半数にみられる。執拗にこだわる粘着性,回りくどく,なかなか話の中核に触れることのできない迂遠さ,不機嫌に怒りっぽくなりやすい爆発性がその特徴である。しかし,これらの性格変化は頭部外傷や老年認知症にもみられるので,単に素因に基づくものではなく,脳の器質障害による症状とみられている。側頭葉性の発作症状をもつ部分てんかんにみることが多い。そのほか,家庭や社会といった成育環境も性格形成に関与する。
執筆者:石黒 健夫
治療と抗てんかん薬antiepileptic drug
治療法としては薬物療法が主役であるが,症候性てんかんに対しては手術などの原因療法を行う。生活上の一般注意としては,睡眠を十分とり,過食,アルコール類や過度の運動などを慎まなければいけない。もちろん発作が起こった際危険にさらされるようなスポーツや職業などは避けるべきである。
薬物としててんかんの痙攣発作を抑制するために用いられるのが抗てんかん薬(抗痙攣薬)である。これにはフェノバルビタールおよびその化学構造を一部変えた化合物が用いられる。フェノバルビタールは長時間型バルビツレートで,抗てんかん薬として最初に用いられ,現在でも広く用いられている。大発作に有効である。薬物代謝酵素の活性を高めるので,他薬との併用の際に留意しなくてはいけない。フェニトインはバルビツレートから6位の=COを除去した形の薬物で,催眠作用を呈さない用量で有効である。大発作に効くが,小発作はかえって悪化する。歯肉肥厚の副作用がある。プリミドンはフェノバルビタールが還元された形の薬物である。てんかんの諸型に効くが,とくに大発作,精神運動発作に有効である。副作用としては,皮疹,吐き気,嘔吐,脱力,感情障害がある。トリメタジオンは小発作に有効で,大発作をかえって悪化させる。バルプロ酸は各種てんかん発作およびそれに伴う性格行動障害の治療に用いられる。そのほか,抗不安薬であるジアゼパムなどベンゾジアゼピン系薬物もてんかん治療に用いられるようになり,この領域で重要な薬物となっている。
執筆者:福田 英臣
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報