てんかん

改訂新版 世界大百科事典 「てんかん」の意味・わかりやすい解説

てんかん
epilepsy

漢字で癲癇と書く。世界保健機関WHOの定義(1973)に準拠すると,てんかんは脳の過剰なニューロン発射に由来する反復性の発作つまりてんかん発作を主徴とする慢性の脳疾患であるが,病因は単一ではない。発熱に伴う痙攣(けいれん)(熱性痙攣),病変が急性進行性の脳炎や脳腫瘍,脳浮腫が進行しつつある急性期の頭部外傷はてんかんとはされず,低血糖,低カルシウム血症,尿毒症その他の代謝疾患もてんかんとはされない。これらは原疾患名で呼ばれるが,発作症状自体はてんかんにおけると同様の症状を示すので,てんかん発作と呼ばれる。また,反復性発作ということからは,一生に一度のような単発性ないし機会性痙攣もてんかんとはされない。

 なおてんかん(およびそれに似た神経性発作)は,古くは神聖病として知られていた。ヒッポクラテスは,この病気が奇態な病気ではあるが,〈つきもの〉あるいは〈神業〉によって生ずるものではなく,他のいろいろの病気と同じく自然的原因によるものであることを強調して,呪術師たちがこの病気を神聖化して取り扱うのを非難し,この病気が脳に発することを唱えた。

主として素因に由来する真性てんかんgenuine epilepsyと脳器質障害による症候性てんかんsymptomatic epilepsyがある。症候性の場合も,同程度の脳障害によっててんかんになる人とならない人があって,てんかんになるには,ある程度遺伝的素因が関与する。真性は一次性,本態性,特発性ともいわれ,症候性は二次性,残遺性ともいわれる。一次性全般てんかんはてんかん性放電が全脳に一度に波及するもので,汎性視床投射系を介すると考えられることから中心脳性てんかんともいわれる。かつて真性,症候性の出現率の比は約3対1とされたが,現在では前兆を伴う全般強直間代痙攣を症候性てんかんとみなすなどの診断技術の進歩によって,真性は50%以下とみられるようになった。

発現頻度は0.3~0.5%であるが,最近1%という数字もある。一卵性双生児での一致率は60%,片親が本態性てんかん患者である場合の子での出現率は11.0%,同胞の場合は4.1%である。発病年齢は青春期と幼小児期に多く,20歳までに70~80%が発病する。25歳以上で発病するものを晩発てんかんlate onset epilepsyといい,進行性の脳疾患である可能性があるから,精密検査が必要である。

持続が1~2分のてんかん発作,数時間から数週間持続するてんかん挿間症,および慢性てんかん精神病,てんかん性認知症(てんかん性痴呆)と性格変化の4種類がある。ただし,発作でも感情発作は持続が数時間から数週間と長いことがあり,認知発作や自律神経発作も数十分と長いことがある。

痙攣発作だけでなく,意識,運動,感覚,自律神経,感情など,ほとんどすべての精神的,身体的な症状が発作として現れる。昼夜のリズム,月経など性ホルモンの変動,睡眠不足や過労,感覚刺激や緊張からの解放などが発作の誘因となる。

 1964年,国際てんかん連盟International League Against Epilepsy(ILAE)によっててんかんの国際分類が提唱され,69年の改訂を経て,81年,第2次の改訂案が提出された。この改訂案は部分発作を意識減損の有無によって,意識減損のない単純部分発作と意識減損のある複雑部分発作に分けたのがその特色である。意識減損は注意や反応様式が変化して外部刺激に正常に反応しえないことと定義されたが,感情発作のほか記憶障害発作,認知発作,錯覚発作などの軽度の意識障害を示す発作型までが単純部分発作に分類されたため,若干の異論を生じている。なお,この分類はてんかんそのものの分類ではなく発作の分類なので,当然,真性,症候性ということでは分けられていないことに注意する必要がある。てんかんは症状の面で全般てんかんと部分てんかんに分けられるが,それ以上は発作型で分けられることが多い。

真性,症候性ともに発作は意識減損を初発症状とし,運動症状が出現する場合は両側性である。脳波には発作波を発作の最初から全般性にみる。部分発作から二次的に全般化する発作は,本来の全般発作から区別され,あくまでも部分発作から発展する型とされる。

(1)全般強直間代発作 大発作grand mal(フランス語)のことで,てんかん発作の約50%を占める。突然意識を失って転倒し,約20秒間の強直性全身痙攣(上肢屈曲位,下肢伸展位を示す強直期)と約40秒間の間代性全身痙攣(間代期)をきたす。その後,数十秒から数分で意識を回復するが,入眠したり(終末睡眠),もうろう状態を呈することがある(発作後もうろう状態)。発作時,眼球が上転して白目となり,まぶたが開いていることが特徴的で,本発作の頓挫型(不全型)と欠神発作とは眼症状の違いで鑑別される。初期叫声と呼ばれる叫び声をあげることがあるが,あとは呼吸は停止しており,口唇はチアノーゼを示す。呼気で呼吸を再開し,口腔,咽頭にたまっていた唾液を吹き出すが,吸気時にはこれを気管内に吸引するおそれがあるから,発作が終わったら頭部を横にするほうがよい。尿を失禁したり,舌をかんだりすることがある。数日ないし数時間前に頭重やいらいらがあるのを前駆期といい,発作の数秒前から頭痛やめまいがあったり,きらきらする光点をみたりするのを前兆auraという。しかし,この前兆の本態は部分発作なので,前兆のある発作は,部分発作が二次的に全般化した発作ということになる。発作間欠期の脳波には基礎波への散発性θ波の混入,θ波やδ波の群発,不規則棘(きよく)徐波結合,6Hz棘徐波結合,PCR(photoconvulsive responseの略)などをみる。強直期の発作時脳波には全般性に10Hz前後の律動波が出現,θ波を交えるようになると間代期に移行し,δ波が間欠的に出現して発作を終了する。

(2)定型欠神発作 純粋小発作pure petit mal(フランス語),ピクノレプシーpyknolepsyのことで,一次性全般てんかんの一型。代表的な発作型であるが,頻度は5%以下と少ない。欠神発作とは突然意識を消失ないし減損し,まぶたは開いて前方を凝視するもので,行動は中断され,刺激に対する反応は多くは失われる。ふつう呼吸の停止はない。持続は2,3秒から30秒くらいである。7~12歳の女児に発病し,発作は1日数回から数十回起きるが,知能障害や性格障害をきたすことは少ない。また,途中で大発作を合併するものもあるが,大半は成人するまでに治癒ないし軽快し,予後は比較的良好である。定型欠神発作以外に,自動症,ミオクローヌス,脱力,強直,自律神経症状を欠神発作に伴う型がある。脳波所見は共通で,発作間欠期には全般性の棘波や短い3Hz棘徐波結合の混入を示し,過呼吸や睡眠で賦活される。基礎律動は通常正常である。発作時には3Hz棘徐波結合が全般性に出現する。

(3)ウェスト症候群 全般てんかんにはさらに,非定型欠神発作,ミオクローヌス発作,間代発作,強直発作,脱力発作(失立発作)があるが,これらはいくつかまとまってウェスト症候群,レノックス症候群といった特徴ある小児の年齢依存性てんかんを形成することがある。これらはそれぞれ特有の脳波異常を示し,脳波-臨床単位である。症候性が80%,特発性が20%とされる。ウェスト症候群はBNS痙攣,点頭痙攣,乳幼児前屈型小発作ともいわれ,生後1年未満,とくに3~9ヵ月に発病することが多い。発作時,全身を一瞬ぴくんとさせ,(イスラム教徒が礼拝するときのように)両手を挙げ,頭部と上半身を前屈させる。発作の持続は1~3秒と短いが,群をなして反復出現する。胎児期,周産期の脳の器質的障害から発展することが多い。精神遅滞があり,難治性である。発作間欠期の脳波にはヒプスアリスミアhypsarrhythmia(棘波や高振幅徐波があちこちに無秩序に出現する高度の律動異常)がみられるが,発作時には逆に中断され,脱同期化することが多い。

(4)レノックス症候群 成人型はまれで,2~8歳で発病する。頭部と上半身を前屈して両手を外転する強直痙縮,意識減損の始まりと終りが緩徐な非定型欠神発作,そして強直発作,ミオクローヌス発作,脱力発作などのうちのいくつかの発作型を併せもつ症候群である。強直痙縮と非定型欠神発作が基本的な発作型である。脱力発作はミオクローヌスで始まることが多く,跳ねるように倒れて脱力する(ミオクローヌス脱力発作)。ウェスト症候群から移行することがあり,成長するにつれ,強直間代痙攣や強直発作などの他の発作型に移行する。脳の器質的障害から発展するものが多く,精神遅滞を示すが,特発性の精神遅滞の軽い一群がある。一般に難治性で,発作のために知能や運動機能がいっそう悪化する。発作間欠期の脳波には汎性遅棘徐波発射(小発作異型)と呼ばれる特徴的な波が出現する。これは100~150msの鋭波と350~400msの徐波からなる全般性の鋭徐波結合で,偽律動性といって,周波数が1.5Hzから2.5Hzの間を動揺する特性がある。浅眠時にはシリーズをなして頻発する。徐波睡眠(ノンレム睡眠)では約10Hzの律動的な棘波群発が出現する(大田原俊輔,1970)。発作時の脳波には,強直痙縮では10Hz前後の全般性の漸増律動が出現し,振幅の増減を示すが,全般性の20Hzの律動性棘波や脱同期化を示すこともある。非定型欠神発作では前述の汎性遅棘徐波結合を発作時脳波とするが,漸増律動や脱同期化のこともある。脱力発作には周波数変動の大きい汎性多棘徐波結合がみられる。

(5)ウンベルリヒト=ルントボルク症候群 家族性進行性ミオクローヌスてんかんともいわれるが,本態はラフォラ小体が証明される脳遺伝性疾患,黒内障白痴のような脳の脂質代謝障害,非特異的脳変性疾患など脳の進行性疾患であり,てんかんの概念からはずすべき症候群である。

発作の初発症状と脳波所見が局在性脳障害を現すてんかんをいう(この場合,局在性脳障害が異常な興奮の源となって発作を生じるので,このような限局性の脳障害部位をてんかんの焦点focusという)。意識減損のない単純部分発作を示すものと意識減損のある複雑部分発作を示すもの,および,これから大発作に発展するものがある。

(1)複雑部分発作 以前,精神運動発作といわれていたもののうち,意識障害の明らかな意識減損発作と自動症automatismをさす。意識減損発作は数十秒から1~2分のあいだ意識が消失する発作で,発作中は精神活動も身体活動も停止し,健忘を残す。定型欠神発作より持続の長いことが多く,3Hz棘徐波結合をみない。自動症は意識減損発作に加えて,舌なめずりや咀嚼(そしやく)し飲み込む運動,不安や恐怖の表情,ポケットやボタンをまさぐる運動,歩行,〈ホラ〉〈キタ〉などの発語を示すもので,それぞれ,口部自動症(食行動自動症),表情自動症,身振り自動症,歩行自動症,言語性自動症といわれる。難治性で,長年の抗てんかん薬の服用が必要であり,性格変化や知能の低下をきたすことが多い。脳波所見は意識減損発作,自動症とも同様で,発作間欠期に前側頭部棘波をみる。検出率は覚醒時30%,睡眠時88%で,睡眠記録が有用である。発作時には,全般性の5~7Hz突発性律動波,14~20Hz速波,平たん化,無変化の4型の脳波パターンを示す。

(2)単純部分発作 この型の発作には以下の4群がある。(a)ジャクソン発作(焦点発作として有名なもので,焦点は運動野にある)や向反発作(焦点と反対側に回転する)のような運動症状を示すもの,(b)身体感覚,視覚,聴覚,嗅(きゆう)覚の特殊な異常症状を示すもの,(c)上腹部異常感覚などの自律神経症状を示すもの,(d)言語障害,既視体験,未視体験,夢幻状態,感情障害,情景的な幻視などを示すもの,の4群がある。発作間欠期には症状発現に対応する部位に棘波や棘徐波結合をみ,発作時には同部位に10Hz前後の局在性律動波をみることが多い。なお,変わった型のてんかんにコシェニコフてんかんがある。これはジャクソン型の焦点運動発作の間欠期に手や顔面など発作の初発部に限局して,1Hz前後のミオクローヌスが持続的にみられるものである。数時間から数日間続き,対応する部位の脳波に棘波や棘徐波を連続してみることがある。

てんかん発作を生ずる焦点(てんかん原焦点)が感覚野にあり,感覚刺激で焦点が賦活され,発作が起きるのを反射てんかんといい,強直間代痙攣を示す光原性てんかん(木の間をもれる日光などによってひき起こされる)やテレビてんかん(テレビによってひき起こされる),複雑部分発作を示す音原性てんかん(特定の音や音楽などによってひき起こされる)などがある。テレビや音楽などに熱中するという精神的な要因も促進的に関与する。

意識を回復する間もなく発作が反復したり,発作が異常に長く続く状態をいう。全般強直間代発作(大発作)重積状態では,しだいに半側痙攣や頓挫型の発作に移行するが,これは発作の軽快ではなく,脳の疲弊や脳浮腫を示す。40℃もの高熱,大脳の嵌頓(かんとん)ヘルニアによる瞳孔左右不同症をみるに至り,死亡する。最近,ジアゼパム20~30mgの急速静注(静脈内注射)により,比較的容易に治療できるようになった。欠神発作重積状態には,定型欠神発作重積状態と発作性昏迷ictal stuporとか棘徐波昏迷spike-wave stupor(ニーデルマイヤーE.NiedermeyerとカーリフェーR.Khalifeh,1965)と呼ばれる状態がある。後者は成人にもみられ,昏迷状態を呈する。脳波も3Hzでない不規則な棘徐波結合を示す。

てんかん発作は持続が1,2分以内と短いのに対し,挿間症は数時間から数週間と長い精神症状からなる病相episodeで,てんかん患者の数%にみられる。急性てんかん精神病とも称されたが,WHOのてんかん用語集は,挿間症とてんかん発作との間には必ずしも一義的な因果関係がないとし,てんかんにおける急性精神病(挿間症)acute psychosis(psychotic episode)in epilepsyとするほうが望ましいとした。挿間症にはランドルトH.Landolt(1964),ブリュンズJ.H.Bruens(1973),ケーラーG.K.Köhler(1980)などの分類があるが,まだ決定的な分類はない。

 ランドルトの分類(表)で〈発作後もうろう状態〉とは,大発作が1,2回起きたのち,数週間もうろう状態が続くものであるが,〈器質因性もうろう状態〉とはおもに抗てんかん薬の過剰投与や脳浮腫によるもうろう状態などを示し,抗てんかん薬による運動失調や眼振,構音障害などの中毒症状を伴い,脳波には徐波化の著しい増加をみる。〈生産的精神病性もうろう状態〉は統合失調症様状態を示していて,意識障害が目だたず,健忘を残さない点,通常のもうろう状態の概念とは異なっている。抗てんかん薬で発作が抑制されると代わって出現することがある。〈てんかん性不機嫌症〉は,原因なく不機嫌となり,衝動的な行動や乱暴を行うもので,誘因があればさらに刺激的となる状態である。

 ランドルトは器質因性もうろう状態とてんかん性不機嫌症に強制正常化forcierte Normalizierung(ドイツ語)という現象を見いだした。強制正常化とは,発作が抑制され,脳波上も発作波が消失し,ときに基礎律動も正常化するようになると,代わって精神症状が出現するもので,alternative psychosis(ヤンツD.Janz,1969)ともいわれる。これは発作に対する脳の抑制機構の過剰反応とも,発作として解消されるべきエネルギーの変形とも解釈されている。しかし最近では,てんかん性不機嫌症はむしろ発作準備性が高まった発作前に起きるとされる(木戸又三,1967)。とくに大発作では不機嫌症の持続は短いがこの傾向が強い。これに対して,複雑部分発作では不機嫌症の持続が長く,強制正常化の場合と発作前の場合とがある。

通常,大発作が発症して十数年してから発病する。発作の頻度はむしろ少ない。途中で側頭葉症状を呈する部分発作を交えることはある。躁うつ病像を呈することはまれで,統合失調症(精神分裂病)像を呈する。宗教的,神秘的な妄想が目だったり,疎通性がよいという特徴がある。統合失調症のはっきりとした強制正常化は少なく,発作頻度,脳波所見,精神症状の関係は一定ではない。出産時障害,頭部外傷,脳炎などの既往歴とCTスキャンでは脳萎縮像をみることが多く,側頭葉障害の役割が重視される。一方で,生理的,社会的,薬理学的な因子の関与も重視されることから,WHOは慢性てんかん精神病をてんかん者の慢性精神病chronic psychosis in an epileptic individualと呼ぶように勧めている。統合失調症負因は統合失調症者より低く,病前性格でも分裂気質はとくに強くはない。

真性てんかんでは認知症はみられず,発作そのものは認知症をきたすことはない。しかし,発作によって二次的に脳浮腫や脳低酸素症を生ずると,幼若脳ではとくに脳損傷と知能障害を生じやすい。幼児では痙攣重積状態のあと,精神発育が停止したり,運動機能が脱落することがある。半球萎縮を生ずることもある。

本態変化epileptische Wesensänderung(ドイツ語)ともいわれ,てんかん者の約半数にみられる。執拗にこだわる粘着性,回りくどく,なかなか話の中核に触れることのできない迂遠さ,不機嫌に怒りっぽくなりやすい爆発性がその特徴である。しかし,これらの性格変化は頭部外傷や老年認知症にもみられるので,単に素因に基づくものではなく,脳の器質障害による症状とみられている。側頭葉性の発作症状をもつ部分てんかんにみることが多い。そのほか,家庭や社会といった成育環境も性格形成に関与する。
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治療法としては薬物療法が主役であるが,症候性てんかんに対しては手術などの原因療法を行う。生活上の一般注意としては,睡眠を十分とり,過食,アルコール類や過度の運動などを慎まなければいけない。もちろん発作が起こった際危険にさらされるようなスポーツや職業などは避けるべきである。

 薬物としててんかんの痙攣発作を抑制するために用いられるのが抗てんかん薬(抗痙攣薬)である。これにはフェノバルビタールおよびその化学構造を一部変えた化合物が用いられる。フェノバルビタールは長時間型バルビツレートで,抗てんかん薬として最初に用いられ,現在でも広く用いられている。大発作に有効である。薬物代謝酵素の活性を高めるので,他薬との併用の際に留意しなくてはいけない。フェニトインはバルビツレートから6位の=COを除去した形の薬物で,催眠作用を呈さない用量で有効である。大発作に効くが,小発作はかえって悪化する。歯肉肥厚の副作用がある。プリミドンはフェノバルビタールが還元された形の薬物である。てんかんの諸型に効くが,とくに大発作,精神運動発作に有効である。副作用としては,皮疹,吐き気,嘔吐,脱力,感情障害がある。トリメタジオンは小発作に有効で,大発作をかえって悪化させる。バルプロ酸は各種てんかん発作およびそれに伴う性格行動障害の治療に用いられる。そのほか,抗不安薬であるジアゼパムなどベンゾジアゼピン系薬物もてんかん治療に用いられるようになり,この領域で重要な薬物となっている。
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EBM 正しい治療がわかる本 「てんかん」の解説

てんかん

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 てんかんは、突然意識を失ったり、けいれんやこわばり、しびれなどによって転倒したり、動作が中断するといった発作をくり返しおこす慢性の脳の病気です。
 発作は、ほとんどの場合長く続くものではなく、1、2分で終わり、本人にその間の記憶はありません。これらの発作は脳の神経細胞が異常に興奮し、なんらかの電気的な変化が生ずることによっておこると考えられています。脳のどの部分に電気的変化が生じるのかによって、現れる発作は実にさまざまですが、大脳の一部で異常がおこっているものを部分発作、大脳全体に異常が広がっているものを全般発作といいます。
 さらに部分発作は、意識障害のない単純部分発作と意識障害を伴う複雑部分発作とに分類されます。
 全般発作には、数分間にわたる意識消失から呼吸停止、四肢(しし)の硬直、けいれんを伴う全般性強直間代発作(ぜんぱんせいきょうちょくかんだいほっさ)のほか、瞬間的に意識を失い、一点を見つめる状態になる欠神発作(けっしんほっさ)、突然頭から倒れ込む転倒発作、筋肉のけいれんがみられるミオクローヌス発作などのさまざまなタイプがあります。
 通常は長くても5分程度で終わるのがてんかん発作の特徴ですが、しばしば発作が30分以上も続いたり、おさまったかと思うとまたすぐに発作がくり返されたりする場合があります。これをてんかん重積(じゅうせき)といい、生命の危険もあるため、ただちに病院へ搬送しなければなりません。発作を止めるのが早ければ早いほど、脳に障害をおこしたり、生命にかかわったりする可能性が少なくなります。てんかん重積の多くは、患者さんが必要な薬をきちんと飲まないためにおこることがわかっています。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 てんかん発作は脳の神経細胞に異常な興奮がおこり、電気的な変化が生ずるために発生すると考えられています。その神経細胞の異常な興奮が、明らかに脳に病変があるためとわかっているものを症候性てんかん、原因がわからないものを特発性てんかんといいます。
 症候性てんかんの基礎になる病気には、頭部外傷、脳腫瘍、脳炎、髄膜炎、脳動脈硬化、急性アルコール中毒などがあります。
 遺伝的な要因が強い病気と考えられていた時期もありましたが、一部を除いてほとんどは遺伝的な要因は低いと考えられています。

●病気の特徴
 わが国のてんかんの患者数は、約100万人といわれています。
 子どもから成人まで発症する病気ですが、子どものてんかんは成人になると自然に消える場合もあります。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

[治療とケア]症候性てんかんの場合は、背景にある病気の治療を行う
[評価]☆☆
[評価のポイント] 低血糖や電解質の異常あるいは薬の副作用など脳の機能的な障害が原因の場合は、背景にある病気の状態を改善することで、てんかんの症状も消失させることが期待できます。しかし、脳腫瘍や脳出血など脳の構造的な障害が原因の場合は、元の病気を治療してもてんかんの症状が改善しない場合も少なくありません。(1)

[治療とケア]2回発作後治療を開始する
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 2回目発作後の1年以内に再発する頻度は73パーセントと高いため、治療を開始することが勧められています。ただし、1回目の発作であっても、神経症状、脳波異常、てんかんの家族歴がある(家族にてんかんにかかったことがある人がいる)場合、また、65歳以上の高齢者では1回目発作後から治療を開始することが勧められています。(1)(2)

[治療とケア]規則正しい服薬によって、発作を予防する
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 抗てんかん薬を規則正しく用いないと、約3倍死亡率が増加するといわれています。規則正しく薬を用いることで、発作の回数を減らせることが臨床研究によって示されています。(3)

[治療とケア]車の運転や高いところでの作業、水泳、火気を扱う作業は避ける
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 未治療のてんかんの人はそうでない人に比べて、発作のため交通事故をおこしやすいという信頼性の高い臨床研究があります。その研究ではうまく治療され、発作が抑えられているてんかんの患者さんであれば、危険性は少ないとしています。(4)~(6)

[治療とケア]発作の引きがねとなりやすい睡眠不足、過労、飲酒、喫煙などは避ける
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 量については明確に示されていませんが、アルコールが発作の危険を増すことが、臨床研究によって確認されています。そのほかにも、睡眠不足やストレスなどが、てんかん発作の引きがねになる場合があります。(7)(8)

[治療とケア]発作がコントロールされにくい場合は、薬の選択、適量などを再度検討する
[評価]☆☆
[評価のポイント] 一つの薬で発作がコントロールされにくい場合、使用量は適当であったか、薬の種類は適切であったか、薬をきちんと正確に服用していたか、診断は正しかったか、という4点をチェックすることが大切です。(1)

[治療とケア]薬での発作予防が困難な場合は、外科治療を検討する
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 発作の種類にもよりますが、薬で十分に効果が得られなかった場合に、外科治療が効果的であることが、非常に信頼性の高い臨床研究によって示されています。手術の必要性については、主治医や専門医と十分に話し合うことが大切です。(9)~(11)


よく使われている薬をEBMでチェック

発作を抑える薬
[薬用途]部分発作の場合
[薬名]テグレトール(カルバマゼピン)(1)(12)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]デパケン(バルプロ酸ナトリウム)(1)(13)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]アレビアチン/ヒダントール/フェニトイン(フェニトイン)(1)(13)(14)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]エクセグラン(ゾニサミド)(1)(15)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]セルシン/ホリゾン/ダイアップ坐剤(ジアゼパム)(16)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] これらの薬は非常に信頼性の高い臨床研究によって、てんかん発作を抑える効果が確認されています。カルバマゼピンが第一選択薬です。

[薬名]ラミクタール(ラモトリギン)(1)(12)
[評価]☆☆☆☆
[薬名]イーケプラ(レベチラセタム)(1)(17)
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] これらの薬剤はガイドラインで効果が示され、使用が勧められています。レベチラセタムは、とくに高齢者のてんかん発症に効果が認められています。

[薬用途]全般発作の場合
[薬名]デパケン(バルプロ酸ナトリウム)(1)(18)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]マイスタン(クロバザム)(1)(19)
[評価]☆☆☆☆
[薬名]ラミクタール(ラモトリギン)(1)(18)
[評価]☆☆☆
[薬用途]とくに欠神発作に対して
[薬名]エピレオプチマル/ザロンチン(エトスクシミド)(1)
[評価]☆☆☆
[薬用途]とくに強直間代発作に対して
[薬名]フェノバール(フェノバルビタール)(1)(20)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] バルプロ酸ナトリウムは信頼性の高い臨床研究によって発作を抑える効果が確認されています。しかし、催奇形性(胎児に奇形がおこる危険性)などの妊娠に伴う問題があり、注意する必要があります。そのほかの薬も臨床研究によって効果が確認されています。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
脳の神経が異常に興奮する病気
 てんかんの診断や発作の型を判断するには、発作のときのようすがどのようであったかが、非常に重要になります。患者さんの家族の人は、動転するかもしれませんが、できるだけ患者さんのようすをよく観察しておいたほうがよいでしょう。

発作が長く続くときはけいれんを抑える
 てんかんの治療は、発作時の救急治療と発作を予防するための薬物治療に分けられます。通常、発作は数分以内におさまります。
 しかし、ときに、発作が30分以上も続いたり、終わったかと思うと、すぐにくり返し発作が連続しておこったりする場合があります。
 これはてんかん重積と呼ばれるものですが、生命にかかわる場合もあるので、ただちに治療を開始する必要があります。
 てんかん重積の目安として、発作が5分以上続いたら要注意です。それ以上続く場合には、セルシン/ホリゾン/ダイアップ坐剤(ジアゼパム)を用いて(子どもでは坐薬、成人では医療施設へ搬入後静脈注射)、けいれんをできるだけ早期に抑える必要があります。

副作用に注意して薬物療法をする
 発作を予防するための薬はどれも有効性が示されています。しかし、一方では、さまざまな副作用が現れることがあります。アレビアチン/ヒダントール/フェニトイン(フェニトイン)では皮疹、血液の異常、リンパ節腫脹(せつしゅちょう)などがみられます。
 また、テグレトール(カルバマゼピン)では皮疹、白血球減少症など、デパケン(バルプロ酸ナトリウム)では食欲低下、肝障害、脱毛などがおこる可能性があるため、注意深い経過観察が必要です。また、決められた量を決められた回数服用しなければ、てんかん重積をおこすことも知られています。薬の服用に際しては、十分な理解が重要です。副作用は用量依存性(用量が増えることでおこるもの)、長期服用に伴うもの、特異体質によるものなどがあります。

(1)日本神経学会. てんかん治療ガイドライン2010. 医学書院. 2010. http://www.neurology-jp.org/guidelinem/epgl/sinkei_epgl_2010_01.pdf
(2)Ramsay RE, Macas FM, Rowan AJ. Diagnosing epilepsy in the elderly. Int Rev Neurobiol. 2007;81:129-151.
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内科学 第10版 「てんかん」の解説

てんかん(発作性神経疾患)

定義・概念
 てんかんは,てんかん発作(seizure)を反復して生じる神経疾患である.てんかん発作は脳の神経細胞の同期した過剰な異常放電によって一過性の症状(発作)が発現するものと定義されている.てんかん発作では多彩な症状がみられ,患者本人にしか知覚されない軽微なアウラから,両側半球広範なてんかん活動による激しい全身痙攣発作までさまざまな発作がある.てんかん発作には,異常放電をきたす脳領域とその伝播の仕方による種々の発作型がある.発作型は国際分類に基づいて診断する.てんかん発作は,部分(焦点性)発作と全般発作に分類される.部分発作には,意識が保たれる単純部分発作と意識減損をきたす複雑部分発作がある. てんかんおよびてんかん症候群の分類は国際分類がある.てんかんの原因は多岐にわたり,病因の特定できない場合もある.てんかん発作以外には併存する症状がまったくない場合から,種々の医学的合併症をもつ場合がある.てんかんの原因はさまざまであり,なんらかの神経疾患(病変)の症状として理解すべきで,単一の疾患ではない.てんかんは小児から高齢者のすべての年齢でみられる. 代謝障害(尿毒症,低血糖,高血糖,肝不全など),薬物中毒,感染(脳炎など)などが原因となり,急性にてんかん発作が誘発されることがある.これらは急性症候性発作(acute symptomatic seizure)とよばれ,慢性疾患のてんかんとは区別される.
疫学
 てんかんの有病率は,各国ほぼ同じとされており,0.5~1.0%である.発展途上国では,感染(寄生虫を含む)や外傷などのためやや有病率が高い.世界で約4000万~5000万人の患者が存在するとされている.日本では0.8%の有病率であり,患者数約100万人と推定されている.てんかん発症はすべての年齢でみられるが,小児・思春期と高齢者での発症率が高い.
病因
 てんかんの病因は,脳腫瘍,血管障害,皮質形成異常,先天性障害,外傷,低酸素脳症,感染,自己免疫をはじめとして多岐にわたる.これらの脳の特定される器質病変によるてんかんが症候性てんかんである.てんかん発作以外に明らかな症状がなく,症候性となる原因がない場合が特発性てんかんである.分子生物学の進歩により,特発性と考えられていたてんかんで多くの遺伝子異常が明らかにされている.これらの遺伝子異常の多くが神経のイオンチャネルに存在するため,これらのてんかんはチャネル病と捉えることができる.特発性てんかん(idiopathic epilepsy)という用語に代えて,素因性てんかん(genetic epilepsy)というよび方も提唱されている.
分類
1)てんかん発作型分類(seizure classification)(表15-7-1):
てんかんの分類には,てんかん発作型とてんかん症候群の分類がある.発作型は臨床発作症状と脳波をもとに診断する.脳の限局した領域から発作活動が起始するものが部分発作(焦点発作)であり,発作の最初から両側半球が同時に発作活動をきたすのが全般発作である.
 a)部分発作:部分発作のうち,意識が保たれるのが単純部分発作であり,意識減損をきたす発作が複雑部分発作である.単純部分発作で意識が保持されるのは,てんかん放電が及ぶ皮質領域が限られており,てんかん放電が伝播していない脳領域で意識が十分維持できているからである.側頭葉てんかんで複雑部分発作をきたすのは,記憶や情動に関与する側頭葉領域に広く発作活動が伝播するためである.全般てんかん発作では前兆なく意識消失をきたすのは(ミオクロニー発作を除く),最初から両側半球にてんかん放電が広く生じるからである.
①単純部分発作:運動発作は,身体の一部が痙攣をきたすものである.大脳皮質の運動野にてんかん放電が生じることにより,その運動皮質に支配される筋群が痙攣をきたすものである.Jacksonian marchはてんかん放電活動が近接する運動皮質に連続して伝播していくことにより,痙攣が手→腕→肩というように筋痙攣が広がっていく発作である.感覚発作は発作症状が感覚症状であるもので,患者は発作を知覚するが他者の観察では通常発作症状が明らかでない.頭頂葉皮質(第一次感覚野)に起始する発作では,身体の一部に,びりびりする,しびれるといった体性感覚が生じる.後頭葉の視覚野に起始する発作では,視野の一部から始まる光が見えるといった発作症状をきたす.聴覚野が焦点の発作では幻聴をきたす.そのほかの特殊感覚発作としては,金属のような味がするというような味覚発作,変なにおいがするといった嗅覚発作などが知られている.自律神経発作は,上腹部不快感,悪心,嘔吐,発汗,立毛,頻脈,徐脈などの自律神経症状をきたす発作であり,多くは大脳辺縁系のてんかん焦点に起因する.精神発作は,既視感,未視感,恐怖感,離人感などの多彩な症状があり,多くは側頭葉にてんかん活動が生じるための大脳高次機能の一過性の機能障害の発作である.精神発作は,単純部分発作単独で出現することはむしろまれであり,大部分は複雑部分発作の最初の症状として出現する.
②複雑部分発作(精神運動発作,焦点性認知障害発作):意識減損があるので患者は発作中に話かけても応答はできなくて,発作後に発作中のことを覚えていない.発作持続時間は通常1~3分である.発作中には衣服をまさぐる,口をもぐもぐ動かす,ぺちゃくちゃと鳴らすといった,自動症(automatisms)がみられる.てんかん活動が基底核に伝播することにより,発作起始側と対側上肢にジストニア肢位をきたす.約80%は発作起始焦点が側頭葉にあるが,隣接部位から側頭葉へのてんかん活動の伝播によっても生じる.前頭葉に発作起始焦点のある複雑部分発作は側頭葉起始発作と比較すると,発作持続時間が短い,激しい自動症をきたす,発作頻度が多い,などの特徴がある.2010年の新しい国際分類では複雑部分発作に代わり,焦点性認知障害発作(focal dyscognitive seizure)の呼称が提唱されている.
 b)全般発作
①欠神発作(小発作):突然行っている動作が止まる,ボーとして凝視する,反応がなくなる,という症状の発作である.持続時間は通常2秒から10秒位である.軽度の自動症や顔面の間代痙攣やミオクローヌスを伴うことも多い.脳波で全般性3 Hz棘徐波複合がみられる.小発作(petit mal)ともよばれる.
②強直間代発作(大発作):もっともよく知られているてんかん発作型で,前兆なしに全身痙攣発作をきたす.突然全身の筋の強直痙攣で始まり,呼吸筋や咽頭筋の強直によるうめき声や叫び声を発作の最初にきたすこともある.転倒するので外傷をしばしばきたす.失禁や咬舌がみられることがある.発作は強直相から間代相に移行し,多くは1分間程度で発作は終息する.発作中には呼吸筋も痙攣をきたすので,チアノーゼもみられる.発作後は,発作後もうろう状態に移行する.発作にひき続いて睡眠に移行することもある.発作間欠期脳波では全般性棘波もしくは棘徐波複合がみられる.
③ミオクロニー発作:ミオクロニー発作は,突然のショック様のぴくっとした筋痙攣である.全身に生じることもあれば一部の筋群のこともある.ミオクロニーは単発で生じることも,反復性に生じることもある.脳波では全般性多棘波もしくは多棘徐波複合がみられる点が,不随意運動のミオクローヌスと異なる.
④強直発作:全身の筋の強直をきたす発作であり間代相に移行しない.
⑤間代発作:最初から間代痙攣をきたす全身痙攣発作である.⑥脱力発作:突然の筋脱力をきたす発作である.頸部筋の脱力のため,頭部ががくんと垂れ,四肢筋群の脱力のために転倒をきたす.
2)てんかん症候群(epileptic syndrome):
 年齢,てんかん発作型,検査所見をもとにてんかん症候群診断を行う.代表的なてんかん症候群を示す.
 a)West症候群:大部分が一歳未満に発症し,頸部・体幹・四肢の短い(2秒以下)の急激な屈曲をきたす発作(infantile spasm,礼拝痙攣)で,点頭てんかんとよばれる.精神発達の遅滞がみられ,脳波ではヒプスアリスミアを呈する.原因疾患は多岐にわたる.ACTH療法が発作軽減に有効であるが,精神発達の予後は不良のことが多い.
 b)Lennox-Gastaut症候群:1~6歳に発症するてんかん症候群である.発作型は多彩で,短い強直発作,ミオクロニー発作,脱力発作などを呈する.脱力発作は本症候群に特徴的な発作であり,頻回で難治なことが多いが,脳梁離断術での治療効果が高い.脳波は,全般性遅棘徐波が特徴である.知能障害の合併や難治例が多い
 c)小児良性部分てんかん(Rolandてんかん):2~14歳で発症し,単純部分発作の運動発作をきたす.二次性全般化発作がみられることもある.脳波は特徴的な中心・側頭部てんかん波をみとめる.16歳までに寛解する予後良好な症候群である.
 d)小児欠神てんかん:4~12歳に発症し,欠神発作をきたす.脳波は全般性3 Hz棘徐波複合を示す(図15-7-1).バルプロ酸が第一選択薬でエトサクシミドも効果がある.成年するまでに多くは寛解する.
 e)若年性ミオクロニーてんかん:12~20歳に発症し,ミオクロニー発作,強直間代発作をきたす.ミオクロニー発作は起床後すぐに起こることが多く,ピクンと震えて朝食時に物をこぼすといった訴えになることがある.強直間代発作の初発時に病院受診することが多い.脳波で全般性多棘徐波複合がみられる.抗てんかん薬としてはバルプロ酸,ラモトリギンを選択する.病因としては遺伝的要因のことが多く,年余にわたる治療が必要なことも多い.
 f)内側側頭葉てんかん:半数以上に熱性痙攣の既往がある.初発年齢は5~10歳が多いが,思春期以降の発症もある.単純部分発作および複雑部分発作をきたす.脳波で側頭前部に発作間欠期に棘波がみられる(図15-7-2).発作時の脳波では律動性のてんかん波がみられる.最も多い病因は海馬硬化症で,MRI画像検査で海馬萎縮と信号変化がみられ,PETでは糖代謝低下をきたす(図15-7-3).発作は抗てんかん薬では難治性であるが,病変側の海馬切除が非常に有効である.
3)熱性痙攣(febrile seizure):
熱性痙攣は乳幼児のけいれん発作では最も頻度が高く,日本人では6~8%が罹患する.生後3カ月から5歳の間に生じる発熱に伴って生じる全身痙攣発作で,頭蓋内感染・病変に起因しない発作である.発症年齢のピークは1歳半から2歳である.約半数は一度のみの発作である.持続が15分以上,痙攣が左右非対称,発作後にTodd麻痺がある,発作が短時間に頻回,といった場合は複雑型熱性痙攣と呼ばれ,後にてんかんを発症するリスクが高くなる.熱性痙攣を反復する児では,発熱時にジアゼパム坐薬を投与すると発作予防になる.
4)てんかん発作重積状態(status epilepticus):
てんかん発作重積状態は,てんかん発作が終息傾向なく持続もしくは反復している状態を指す.従来の定義は30分以上続く発作とされていたが,通常てんかん発作は5分以内に終息するので,5分以上持続する発作は重積状態として対処する.重積状態には,痙攣をきたす全般性強直間代発作重積状態,非痙攣性の複雑部分発作重積状態と欠神発作重積状態がある.痙攣性の重積状態は,緊急治療を要する.ジアゼパム静注が最初にすべき治療で,フェニトイン,フェノバルビタールの静注薬も治療に用いられる.治療開始後1時間以内に発作が抑制されない場合,気管内挿管と静脈麻酔薬で治療する.非痙攣性てんかん重積状態は,多くの場合原因不明の意識障害とされているので,重積状態を疑い脳波検査を施行しないと診断は困難である.
検査成績
1)脳波:
 てんかん発作の病態は電気的現象であるので,脳波が確定的な診断となる.脳波の棘波・鋭波はてんかん性放電とよばれ,てんかんの診断と分類の根拠になる.てんかん患者で1回の脳波検査でてんかん波が記録されるのは50~70%程度とされている.睡眠賦活や繰り返し検査を行うことにより,最終的には約90%でてんかん放電が記録できる.脳波で発作間欠期にてんかん波がないことは,てんかん診断の否定の根拠にはならない.
 てんかんの病因および焦点の検索としてはMRIが有用な検査である.CTは緊急時の検査としては適当であるが,病変の検出感度はMRIが高い.ベンゾジアゼピン受容体分布を反映するイオマゼニルSPECT,糖代謝を反映するFDG-PET検査はてんかん外科術前検査等において焦点検索に用いられる.
診断
 発作性疾患の診断においては,発作の情報が最も重要である.発作の状況について詳細に問診する.意識を失う場合が多いので,目撃者からの病歴が必須である.診察時に同行しているとは限らないので,電話で発作の様子を目撃者に聞くこともある.てんかん発作と鑑別が必要な疾患は,失神発作,一過性全健忘,一過性脳虚血発作,片頭痛,過呼吸発作,パニック障害,心因性非てんかん性発作(擬似発作)などがある.てんかん発作か否かの診断は,発作の病歴と脳波所見から行う.てんかん発作とみなされる病歴があり脳波でてんかん性放電が確認されれば,てんかんの診断は確定するといってよい.脳画像やその他の検査はてんかんの病因の診断に用いる.発作型,病歴,検査所見をもとにてんかん症候群の診断を行う.長時間持続ビデオ脳波同時記録(モニター)検査は,てんかん手術治療を行う場の焦点決定および心因性非てんかん性発作の診断確定(非てんかん発作では発作時にてんかん波がない)のために行う.
経過・予後
 てんかん症候群診断および病因の特定が予後の推定に重要である.West症候群やLennox-Gastaut症候群は,予後不良の場合が多い.小児良性部分てんかんは,通常16歳までには治癒する予後良好なてんかんである.若年性ミオクロニーてんかんは大部分が抗てんかん薬治療で発作が抑制されるが,中止により再発し生涯の治療が必要なことも多い.焦点性てんかんでは,50~70%で抗てんかん薬治療により発作が寛解する. てんかん患者全体では,約70%の患者で抗てんかん薬により発作は完全に抑制される.しかしながら,30%では薬物治療で発作が寛解しない難治性てんかんである.
治療・予後
 抗てんかん薬による発作抑制が,てんかん治療の主体である.抗てんかん薬により70%の患者で発作が完全に抑制され,通常の生活を送ることができる.抗てんかん薬は発作型に基づいて選択する(表15-17-2).部分発作にはカルバマゼピンを,全般発作にはバルプロ酸を第一選択薬とする場合が多い.患者個別の要因により他の薬剤を選択することもある.長期の治療を行うので薬剤の副作用に注意する.長期発作が抑制されている場合は,抗てんかん薬の減量または中止が可能か検討する. 睡眠不足や過度のアルコールは発作の誘発因子となりうるので,生活指導を行う.危険な作業や入浴についても,発作抑制の状況に合わせた適切なアドバイスが必要である.自動車運転免許については,道路交通法に基づいたアドバイスを行う.法律に規定された条件のもとで(一定期間発作がないなど),運転が許可される. 妊娠可能年齢に女性については,適切なカウンセリングが必要である.抗てんかん薬の新生児に対する催奇形性と発達に対する影響を考え,妊娠中は発作抑制に必要最小限の薬剤で治療を目標とする.バルプロ酸は神経管閉鎖障害による奇形のリスクがある.葉酸補充が奇形リスク低減のために推奨されている. 抑うつ症状などの精神症状の合併が,てんかん患者では正常と比べて増加する.抗てんかん薬による副作用としての精神症状もありうるので,精神症状の合併にも気を付ける.てんかんは,歴史的に疾患に対する誤解,偏見,スティグマ(烙印)があった疾病であり,正しいてんかんの理解を得ることも重要である.
難治てんかんに対する外科治療
 抗てんかん薬治療抵抗性てんかん(難治てんかん)においては手術治療が可能か検討する.限局性脳病変によるてんかん,海馬硬化症を基にする内側側頭葉てんかん,小児の片側巨脳症,視床下部過誤腫は,代表的な手術治療可能なてんかんである.生活に支障をきたす後遺症がない範囲の脳切除で発作治療ができる場合は手術治療の適応がある.内側側頭葉てんかんでは,海馬を含む側頭葉切除手術で約80%の患者で発作が消失する(図15-17-2〜15-17-4).新皮質てんかんでは,有効率はやや低い.Lennox-Gastuto症候群の脱力発作には,脳梁離断術が有効である.難治てんかん緩和療法として,迷走神経刺激術,ケトン食療法が行われている.[赤松直樹・辻 貞俊]
■文献
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Schuele SU, Luders HO: Intractable epilepsy: management and therapeutic alternatives. Lancet Neurol, 7: 514-524, 2008.

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家庭医学館 「てんかん」の解説

てんかん【Epilepsy, Epilepsia】

◎まだ多くの誤解がある
[どんな病気か]
◎さまざまな発作症状がある
[症状]
[原因]
◎家族の証言も診断ポイント
[検査と診断]
◎薬物療法が効果的
[治療]
[日常生活の注意]

[どんな病気か]
「てんかん」についてどのような病気というイメージをおもちですか。口からあわを吹いて、意識がなくなり、全身をけいれんさせるものが、一般にてんかんと考えられているようですが、このような症状はてんかんの一部でみられるにすぎません。症状の項で述べますように、てんかんには多様な発作(ほっさ)症状がみられます。
 てんかん発作がおこるメカニズムは、大脳の神経細胞が突然、異常な興奮(こうふん)状態を示すために、運動系、感覚系、精神現象などに一時的な異常をきたすことによります。その場合、脳の興奮する部分によって、症状は異なってくるわけですが、おこりやすい症状にいくつかのパターンがあります。慢性、反復性に発作をくり返すことが特徴で、アルコール離脱期や頭部外傷の急性期にみられる一過性のけいれん発作は、通常はてんかんには含めません。また、一見、てんかんが疑われるような症状であっても、てんかんでないことが少なくないので注意が必要です。
 また、てんかんについては、現在なお多くの偏見や誤解があるようで、てんかんについての正しい知識をもつ必要があります。「怖い病気」「精神病の一種」「治らない」「遺伝する」などのイメージをもたれることもあるようですが、これらは一般的に正しくありません。てんかんの多くは適切な薬物療法によって発作が抑制され、ふつうの日常生活を送ることが可能なのです。

[症状]
 症状は非常に多様ですが、突然おこって短時間で回復する「発作」であることが特徴です。また同じ発作型ならば、それぞれの発作ごとの症状はほぼ同一で、発作のたびに症状が異なる場合は、てんかん以外の病気の可能性が高いといえます。
 現在、広く用いられているてんかん発作の分類(国際分類)によれば、脳の一部から発作が始まる部分発作(ぶぶんほっさ)と、最初から脳全体に発作が広がる全般発作(ぜんぱんほっさ)に分けられており、両者がさらに細かく分類されています。
●全般発作
 全般発作には、つぎのようなものがあります。
 強直間代発作(きょうちょくかんたいほっさ)は、大発作(だいほっさ)とも呼ばれます。突然、意識消失とともに四肢(しし)を硬直させる強直けいれんがみられ、眼球は上転し、呼吸が止まり、チアノーゼ(くちびる、爪(つめ)、皮膚などが青紫色になる状態)がみられます。ついでピクピクと動く間代(かんたい)けいれんをおこし、数分間続き、発作終了後も、しばらく意識がぼんやりするもうろう状態がみられます。発作がおこったとき、舌をかまないようにと、あわてて口に物を入れたりすることは、かえって危険ですのでしないようにしてください。
 欠神発作(けっしんほっさ)は、小発作(しょうほっさ)とも呼ばれ、瞬間的に意識が消失して、一点を凝視します。ちょっとぼんやりするぐらいで、人には気づかれないことも多いようですが、動作が急に止まったり、物を落としたりすることで気がつかれます。小児期に多く、成人になってから続くことはまれです。
 ミオクロヌス発作では、両側対称性に筋肉をピクピクさせる運動、すなわちミオクロヌスがみられますが、一側性にみられる場合もあります。
●部分発作
 部分発作は、発作中に意識が保たれているか否かで単純部分発作(たんじゅんぶぶんほっさ)と複雑部分発作(ふくざつぶぶんほっさ)に分けられます。
 単純部分発作は、意識障害をともなわないもので、発作をおこした脳の部位に対応した症状を示します。運動発作(うんどうほっさ)は、からだの一部のけいれんに始まる運動症状を示します。感覚発作(かんかくほっさ)は、発作的なしびれ感などの異常感覚や幻視(げんし)、幻聴(げんちょう)などのさまざまな感覚系症状を示します。精神発作(せいしんほっさ)は、既視感(きしかん)や未視感(みしかん)あるいは発作性の恐怖感などの感情を示します。自律神経発作(じりつしんけいほっさ)は、頭痛や腹痛を示します。
 単純部分発作は、つぎに述べる複雑部分発作に移行したり、さらに大発作をおこすことがあります。この場合の部分発作は「前兆(ぜんちょう)」と呼ばれます。大発作は部分発作がまずおこった後に脳全体に広がったものと考えられ、二次性全般化(にじせいぜんぱんか)と呼ばれます。すなわち前兆がある場合は、大発作であっても全般発作ではなく、部分発作の二次性全般化と考えられます。
 複雑部分発作(ふくざつぶぶんほっさ)は、今まで精神運動発作(せいしんうんどうほっさ)と呼ばれていたものとほぼ同じで、意識障害とともに自動症(じどうしょう)と呼ばれる口をもぐもぐさせたり、歩き回ったり、無意味でまとまりのない行動を示すことが特徴です。多くは側頭葉(そくとうよう)から発作がおこりますが、前頭葉(ぜんとうよう)や他の脳部位からおこる場合もあります。この発作型は、成人になってからも消失しないことが多く、成人の難治てんかんの多くを占めています。

[原因]
 脳自体に異常がみられず、素因や体質が原因になっていると思われるものは、特発性(とくはつせい)てんかん、あるいは原発性(げんぱつせい)てんかんと呼ばれます。特発性てんかんは、小児期や思春期に初発することが多くみられ、発作は抑制されやすい場合が多く、成人期以後になると消失するものも少なくないようです。
 脳に障害があり、脳の病変が原因と考えられるものは、症候性(しょうこうせい)てんかんと呼ばれます。原因はさまざまであり、外傷、血管障害、腫瘍(しゅよう)など、どのような病変でも、てんかんの原因になりうる可能性があります。成人になってから初めて症状をおこす場合は、症候性であることが多いと考えられます。

[検査と診断]
 てんかんの診断は、発作症状および脳波、CTなどの画像診断をはじめとする各種の検査所見を総合して行ないます。熟練した医師が診察すれば、問診だけでもかなりの率で診断することが可能です。
 発作症状については、本人から詳しく聞くことが大事ですが、意識障害により本人にもわからないことが多いため、家族など目撃者の証言が重要なポイントになります。ですから発作をみたときには、いつ、どこでおこったか、睡眠不足や飲酒など発作の誘因になるようなことはなかったか、発作はどのように始まりどのように経過したか、どのくらいの持続時間であったか、発作中の反応や意識状態がどうであったかなどに注意し、医師の質問に答えられるようにしておいてください。
 脳波検査は、てんかんの診断と治療に欠かすことができないものであり、てんかんに特徴的な波形が、脳波に出ることにより診断の根拠となります。また、てんかん類型の診断にも有用です。しかし1回の脳波検査では異常が見つからないこともあるため、くり返し検査が必要な場合もあります。また、てんかんの種類によっては脳波に異常がみられなかったり、それとは反対に、脳波に異常があっても、必ずてんかんとはかぎらないことがあります。
 CTやMRIなどの画像診断は、てんかんの原因となる病変の判定に有用です。また脳血流を測定するシンチグラム検査が行なわれる場合もあります。

[治療]
 中心となるのは、抗てんかん薬による薬物療法です。現在では、70%以上の割合で、適切な薬物療法により発作の完全な消失がみられます。治療は、長期間かかるものと考えてください。発作が完全に消失してから3~5年間は服薬を続け、その後、医師と相談しながら減量することが必要です。
 発作再発の大きな原因は、勝手に服薬を中止したり、減らしたりすることですので、規則正しく飲む必要があります。また長期間服用する必要がある薬ですので、副作用や飲み方について医師から十分に説明を受ける必要があります。

[日常生活の注意]
 日常生活や食事は、発作が抑制されていれば特別な制限は必要なく、運動もふつうに行なってかまいません。ただし、睡眠不足、極度の過労、大量の飲酒は、発作の誘因となるためやめてください。また、発作の誘因は個人差がありますので、気がついたものはただちに中止してください。
 就業については、危険な仕事や高所で行なう仕事、また車の運転などは避けるべきです。ただし、発作のタイプや発作が抑制されているかによって判断が異なりますので、医師とよく相談してください。
●どこに相談したらよいか
 子どもならまず小児科ですが、成人の場合は神経内科、脳外科、精神科(神経科)にそれぞれてんかんを得意とする医師がいますので、あらかじめ病院に確認してから受診されたほうがよいでしょう。
 てんかんの診断と治療は、脳波の判読など十分な知識と経験が必要ですので、なるべく専門医の診察を受けることをお勧めします。
 また、静岡てんかん・神経医療センターなど、てんかん治療を専門に行なっているセンター病院が各地にありますので、発作が治らない場合は、主治医から紹介してもらって受診する必要があるかもしれません。

てんかん【Epilepsy, Epilepsia】

[どんな病気か]
 かなりのてんかんが、小児期に発症します。
 おとなと同様、いろいろなかたちの発作(ほっさ)(「てんかん」)がおこりますが、ごく軽い発作や短時間の発作のために気づかれずにすんでしまうこともあります。
 特別な原因がなく、脳に障害のない場合は、治療に反応しやすいことが多く、数年のうちに、治療を中止できる子どももいます(特発性小児良性(とくはつせいしょうにりょうせい)てんかん)。
 しかし、脳に何か原因があっておこることもあります(症候性(しょうこうせい)てんかん)。子どもだけにおこるてんかんにウエスト症候群(コラム「ウエスト症候群(点頭てんかん)」)やレンノックス・ガストー症候群(「レンノックス・ガストー症候群(レノックス症候群)」)がありますが、頻度はまれです。
[検査と診断]
 意識障害をともなうことが多く、子どもは、症状をはっきりと言えないことが多いので、発作の型の診断には、発作を目撃した人の情報がたいせつになります。
 目撃した人がつき添い、できるだけ正確に症状を医師に伝えてください。
[治療]
 おとな同様、抗てんかん薬の使用(コラム「抗てんかん薬治療について」)が中心ですが、ウエスト症候群やレンノックス・ガストー症候群の場合は、ホルモン療法が有効なことがあります。
 難治性(なんちせい)の場合、ケトン食療法(脂質3~4に対し糖質・たんぱく質を1にする、などを内容とする食事療法)が行なわれることがあります。
[日常生活の注意]
 規則正しい生活を心がけ、寝不足を避けて、治療をきちんと行なうことがたいせつです。
 日常生活の規制は必要ないのがふつうですが、程度によっては必要なこともあります。主治医とよく連絡をとり、相談しましょう。
 てんかんの子どもを特別扱いしたり、過保護にしないようにします。
 しかし、ひとりで高いところに登ったり、水に潜ったりさせないようにします。水泳・入浴もまったくひとりにしないほうが安全です。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「てんかん」の意味・わかりやすい解説

てんかん
てんかん / 癲癇
epilepsy

反復性のてんかん発作(けいれんや意識障害)を主徴とする慢性の脳障害で、発作は脳の神経細胞の過剰な発射による突発性脳性律動異常paroxysmal cerebral dysrhythmiaの結果おこるものである。最近の国際分類によると、てんかんは臨床発作型、脳損傷の有無、病因などによって、(1)局在関連性てんかん(部分てんかん)と、(2)全般性てんかんに分けられ、それぞれが原因によって特発性(原因が不明で発症に素因が関係すると思われるもの)と症候性(脳の損傷が原因で発症するもの)に分けられている。局在関連性てんかんは脳の一部から始まる「部分発作」をもち、多くは局在性の脳損傷が原因であるが、特発性のものもある。全般性てんかんは、全身けいれん発作や欠神発作など焦点が不明瞭(ふめいりょう)な全般発作をもち、多くは特発性であるが、広範な脳損傷による症候性全般てんかんもある。

[大熊輝雄]

原因

遺伝素因と外因とがある。てんかんの出現頻度は一般人口では約0.3%であるが、てんかん近親者では約3.5%前後でかなり高く、そのほか双生児研究などからも、てんかんの発症に遺伝素因がある程度関与していることは否定できない。

 他方、局在関連性てんかんの大部分および症候性全般てんかんでは、脳損傷をおこす外因が主役を果たしている。外因には、器質脳疾患として脳炎、髄膜炎、脳血管障害、頭部外傷、脳腫瘍(しゅよう)、先天性脳疾患および形態異常、周生期(周産期)障害などがある。

[大熊輝雄]

症状

てんかん発作、精神症状、人格障害などがある。てんかん発作は部分発作と全般発作に分けられる。部分発作は焦点発作ともよばれ、一側大脳半球の一部分に限局したてんかん原焦点から始まる発作で、発作の際に意識障害がない単純部分発作と、意識障害を伴う複雑部分発作とがある。単純部分発作には、運動症状(けいれん)のほか、しびれなどの体性感覚障害、視覚・聴覚・嗅覚(きゅうかく)・味覚・平衡感覚の異常、精神症状(失語、錯覚、幻覚、既視・未視感など)を伴うものなどがある。けいれんが下肢、上肢、顔面というように移動するものは、ジャクソン発作とよばれる。複雑部分発作は、古くはてんかん代理症とよばれ、精神運動発作や側頭葉てんかん発作にほぼ相当する。そのてんかん原焦点は大脳辺縁系(扁桃(へんとう)核、海馬など発生的に古い脳の部位)を中心とする側頭部にあり、発作間欠期の脳波には側頭部棘波(きょくは)が出現する。発作の際には、突然の意識混濁と同時に、自動症(その場にそぐわない動作や行動を自動的に行うもの)がおこり、あとで発作の間のことを記憶していない。

 全般発作には、欠神発作のように意識障害だけのものと、運動現象(両側性けいれん)を伴うものとがある。欠神発作(アブサンスabsenceともいい、狭義の小発作)は数秒から数十秒間意識が消失する発作で、脳波には3ヘルツ(毎秒3回)の棘徐波結合が出現する。幼小児期に発病し、発作頻度は多く、1日数十回以上に及ぶこともあるが、成人すると発作は消失し、知能障害を生じることも少なく、予後は比較的よい。ミオクロニーmyoclonus発作は電撃的、瞬間的に全身あるいは四肢や躯幹(くかん)の一部に強いけいれんがおこるもので、間代(かんたい)性けいれんはミオクロニーけいれんが律動的に繰り返すものである。強直発作は数秒間程度の短時間、筋の強直状態がおこる発作である。脱力発作では姿勢を保つ筋の緊張が発作的に消失する。全般強直間代発作は大発作ともよばれ、もっとも多い発作型である。患者は突然意識を失って倒れ、両側四肢の強直性、ついで間代性けいれんを示し、約1分間で発作は終わり、あと終末睡眠または発作後もうろう状態がみられることがある。発作頻度は比較的少なく、予後はよい。乳幼児期におこる年齢依存性てんかん性脳症には、6か月前後に発症し、短時間の強直性、ミオクロニー性、脱力性けいれん発作(これが頸筋(けいきん)におこると首を前屈するので点頭発作という)、高度の脳波異常(ヒプサリズミアhypsarrhythmia)、精神発達遅滞を伴うウェスト症候群(点頭てんかん)、それよりも年長児に発症し脳波に遅い棘・徐波複合を伴うレンノックスLennox症候群などがある。てんかん発作が短い間隔で反復性に長時間にわたって出現し、発作と発作の間隔にも意識障害が回復しない状態を発作重積(重延)状態という。全般強直間代発作の重積は生命に危険を及ぼすことがあり、ジアゼパムの静脈注射が有効である。そのほか欠神発作重積、精神運動発作重積などがある。

 精神症状を伴うことは比較的まれであるが、これには、もうろう状態、不機嫌状態などの一過性精神症状と、持続性精神病症状、知能障害などがある。てんかん性人格の特徴としては従来、粘着性や爆発性などがあげられてきたが、これらは他の器質脳疾患にもみられるものであり、てんかん患者の人格については環境要因を含めた力動的な理解が必要である。

[大熊輝雄]

診断

前述のような発作症状の観察のほか、脳波所見が重要である。また、CTやMRI検査も脳器質疾患の診断に役だつ。

[大熊輝雄]

治療

抗てんかん薬の連続服用によって発作を抑制することが第一である。有効な抗てんかん薬は発作型によって異なる。たとえば、強直間代発作にはフェニトイン、バルプロ酸ソーダ、カルバマゼピン、欠神発作にはエトサクシミドやバルプロ酸、複雑部分発作にはカルバマゼピン、フェニトイン、ゾニサミドなどが使われるが、ウェスト症候群には抗てんかん薬よりもACTH(副腎(ふくじん)皮質刺激ホルモン)が使われる。また、睡眠不足、過労、飲酒などは発作を誘発しやすいので、生活指導も重要である。そのほか、職業指導もたいせつであるが、抗てんかん薬の治療で発作が抑制されているときには、原則として健康者と同様な生活をすることができる。なお、てんかんの研究、治療、啓発活動のために、専門家集団として「国際抗てんかん連盟」、患者、家族、市民の団体として国際、国内の「てんかん協会」がある。

[大熊輝雄]

『大熊輝雄他編『現代精神医学大系11A てんかんⅠ』(1977・中山書店)』『秋元波留夫・山内俊雄編『てんかん学の進歩1~3』(1987~96・岩崎学術出版社)』『原常勝他著『てんかん――正しい理解と克服へのガイド』(1981・有斐閣選書)』


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六訂版 家庭医学大全科 「てんかん」の解説

てんかん
Epilepsy
(こころの病気)

どんな病気か

 てんかんは大脳の病気です。発作的に繰り返し、自律的に大脳が異常に興奮する状態をてんかんと呼びます。

 そのため、1回きりの発作や熱性けいれんは、てんかんとは呼びません。また、交通事故からの回復期(ほぼ事故後1週間以内)に限って起こる発作や、脳の手術や脳炎の急性期に起こる発作も、てんかんとは呼びません。

 脳が急性期から回復し、安定してからも繰り返し発作的に異常に興奮する状態が起こる場合に初めて、てんかんという言葉が当てはまる可能性が出てきます。

原因は何か

 交通事故で強く頭を打ったあとで、てんかんが起こることがあることからも明らかなように、脳が受けた何らかの傷がてんかんの元になる場合が多くあります。

 ただし、脳に傷があるからといっててんかんが必ず起きるわけではありません。むしろ、この傷をカバーして機能を回復させようとする脳の試みが、もともとはわずかな漏電を大規模な異常放電に最終的にはつなげるような結果をもたらすことがあります。

 てんかんの本体は、傷のまわりにできた一種の電気回路なので、解剖しても肉眼的には確認できないこともあります。この電気回路は、電気が流れれば流れるほど太い回路に成長する傾向があり、逆にまったく使用されなければ、なくなってしまう可能性もあります。

症状の現れ方

 てんかんには大きく分けて、発作の開始時に脳の両側からてんかん性の興奮が出現する「全般てんかん」と、発作は傷の周囲の特定の電気回路から始まる「部分てんかん」の2つがあります(図2)。

 ムカムカする、光が見えるといった数秒から数分の前兆や、手や顔面の片側が、意識がなくなる前にけいれんするといった症状がある場合、また、けいれんしたあとで半身の麻痺(まひ)が残るような場合には、部分てんかんと考えられますが、こうした症状がなく急に意識がなくなったからといって、全般てんかんと決めつけることはできません。

 意識が急になくなっていても、しばらく口をムニャムニャさせたあとで意識がないのに動き回るような場合には、局在関連てんかんの可能性が高く、見分けるためには専門医の問診が必要です。

 図3のように部分てんかんはさらに2つに、全般てんかんもさらに2つの種類に分かれます。

 発症年齢が乳児期・幼児期の場合には、比較的難治のてんかん性脳症の場合もありますが、発症年齢が学童期以降の場合には、発作の寛解(かんかい)(和らぐ)率が高く、予後のよい特発性(とくはつせい)全般てんかんの可能性が大きくなります。

 部分てんかんのなかでも、幼児期から学童前期にかけて、とくに夜間睡眠時に発作が起こる特発性部分てんかんは、成人すれば自然に治る極めて予後がよいてんかんなので、安心のためにも診断をきちんとつけておいてもらう必要があります。

検査と診断

 脳波とMRIが最も大切な検査ですが、脳波でもMRIでも異常が認められないてんかんも少なくはなく、逆にてんかん性の脳波が出ていても、てんかんではない人もいます。脳波とMRIの所見は、あくまでも問診で推定された病像との組み合わせで意味をもつものだと承知しておく必要があります。

治療の方法

 非常に大雑把には、部分てんかんに関してはカルバマゼピン(テグレトール)、全般てんかんにはバルプロ酸(デパケン)が第一選択薬になります。その次にどうするかは、専門医と相談しながら考えていく必要があります。

 カルバマゼピンは、薬疹(やくしん)と関連した重い副作用が出現する可能性があること、バルプロ酸は他の抗てんかん薬よりも催奇性(さいきせい)(胎児に奇形を起こすこと)が高いことなど薬の副作用をよく聞いてから、治療薬を選択する必要があります。

 症状の現れ方の項であげたてんかん類型によって、予後には大きな違いがあります。1996年までの、私が治療した患者さんでの1年寛解率を図4に示します。難しい症例が比較的集まりやすい施設での数値なので、実際にはこれよりは治りやすいと考えてよいと思います。

病気に気づいたらどうする

 てんかんを疑った場合、小児であれば小児科にかかるべきです。多くの小児科の医師は、てんかんに関して少なくとも基本的なトレーニングは積んでいます。

 成人の場合には、専門医は神経内科、精神科、脳神経外科に散らばっており、患者さん側からてんかん診療のトレーニングを積んでいる医師かどうかの判断をすることは困難です。むしろ、信頼するかかりつけ医に、誰にかかるのがいちばんよいか、たずねてみるのが近道でしょう。

兼本 浩祐


てんかん
Epilepsy
(子どもの病気)

どんな病気か

 脳の神経細胞の過剰な放電によって反復性の発作(てんかん発作)が生じる病気です。てんかんの頻度は人口の1%程度とされていますが、その多くは小児期に発症し、小児のてんかんでは年齢と密接に関連した好発年齢があるのが特徴です。

 小児のてんかんの予後は良好なものも多く、治療を必要としない場合や、数年間の抗てんかん薬投与で中止可能な場合も多くみられます。しかし、10~20%は難治性のてんかんで、知能障害を合併することも少なくありません。

原因は何か

 脳に障害が見つからない場合(特発性(とくはつせい)てんかん)と、脳の障害によるもの(症候性(しょうこうせい)てんかん)があります。てんかんの発症年齢により原因は異なってきます。乳幼児期では脳の先天奇形、新生児仮死(かし)によるものが多くみられます。

症状の現れ方

 てんかんの発作型を把握することは、てんかんの病型を診断するうえで脳波検査とともに重要で、治療薬剤の選択に直接関わってきます。てんかん発作の国際分類では、体の一部から始まる発作を部分発作と呼び、意識障害の有無によって単純部分発作(意識障害なし)と複雑部分発作(意識障害あり)に分けられます。全身左右同じように対称性にみられる発作を全般発作と呼びます。全般発作のなかには欠神(けっしん)発作、ミオクロニー発作、強直間代(きょうちょくかんたい)発作、脱力発作などがあります。

 これらのてんかん発作は発熱、睡眠不足、生理、ストレスなどで誘発されやすいことが知られています。また、まれに光刺激や入浴などが誘因となるてんかんがあります。

検査と診断

 小児期には、てんかん発作とまぎらわしいけいれん様発作がみられることがあり(夜驚症(やきょうしょう)泣き入りひきつけ、失神、()発作など)、除外することが必要です。そのためには脳波検査が重要で、発作時の脳波と発作間欠期の脳波を記録します。この時、てんかん波が誘発されやすいように光刺激、睡眠賦活(ふかつ)過呼吸賦活(かこきゅうふかつ)などを行います。しかし、てんかんであってもてんかん波が検出されにくいこともあります。

 基礎疾患(先天性代謝異常、中毒、電解質異常、先天性脳奇形、脳血管障害脳腫瘍脳変性疾患)について検討を行うために血液検査、尿検査、頭部CT、頭部MRI検査を行います。

治療の方法

 てんかんの診断と治療の進歩により、約80%のてんかんは発作がコントロールされるようになってきました。

 治療可能な基礎疾患が見つかれば、まずその治療を行います。

 てんかんの治療には①薬剤治療、②手術療法があります。

①薬剤治療

 抗てんかん薬を使用します。発作型と脳波所見から最も有効性が期待できる薬剤を第一選択薬とし、まず少量から投与します。発作回数・脳波所見・薬剤血中濃度を参考として少しずつ増量し、発作が抑制できて副作用のない最少量で治療を継続します。効果のない場合には第二選択薬に置き換えていきますが、難治性てんかんの場合、多剤投与となる場合もあります。

 薬の副作用症状に注意するとともに、定期的に血液・尿検査と血中濃度測定を行って副作用のチェックを行います。服薬中は抗てんかん薬と他の薬剤間の相互作用がみられる場合があり、注意が必要です。

②手術療法(病巣切除、脳梁離断術(のうりょうりだんじゅつ)など)

 近年、難治性てんかんの一部に対して、効果が期待できる場合には手術が行われるようになりました。てんかん発作が抑制され、脳波が正常化して数年経過すれば、抗てんかん薬を減量中止することが可能です。

石和 俊

てんかん
Epilepsy
(脳・神経・筋の病気)

てんかんとは

 発作で手と足がつっぱり、眼を見開いて、口から泡を()き意識が失われることから、古来てんかんは悪魔や神に取り()かれた病気、「倒れやまい」といわれてきました。しかし、病気の実態が明らかになり、その治療薬の開発とともに病気が克服されるにつれて、正しい認識が広くもたれるようになってきました。

 てんかんは神経疾患のなかで、最も頻度の高い疾患のひとつで、人口1000人に5~8人の患者さんがみられます。

 脳のはたらきは、脳神経細胞から適切・適量の電気信号が秩序正しく流れることにより行われます。この電気信号がちょうど雷が落ちるように、ある時突然に過剰となり秩序なく流されると、脳本来のはたらきが障害されたり、機能が過剰に発揮されて起こるのがてんかん発作です。

 この発作が同じパターンで慢性的に何度も反復再発する病気がてんかんです。一般に発作のない時はまったく正常なのがてんかんの特徴です。

てんかんの分類

 てんかんは、その原因が脳の一部に限られている〝部分てんかん〟と、脳深部の異常により最初から脳全体の機能が障害される〝全般てんかん〟の2つに大きく分けられます。

 さらにそれぞれのてんかんは、その原因のあるなしで、原因のある〝症候性てんかん〟と原因が特定できない〝特発性(とくはつせい)てんかん〟に分けられます(表7)。

 まれなてんかんで、症候性と考えられるがその原因がはっきりしていないてんかんは、原因がもぐっているとして〝潜因性(せんいんせい)てんかん〟と呼ばれます。これは部分てんかんにも全般てんかんにも、少ないながらみられます。

原因は何か

 脳細胞は、あるグループごとに重要なはたらき、たとえば意識、行動、感情、運動機能、感覚機能を司っていて、過剰な電流が流れるとこれらの機能が乱されます。手と足をつっぱる発作は過剰な運動機能を表し、意識障害は意識機能の障害、精神症状や異常行動は感情、行動の障害を意味します。

 生まれる前の胎児期からさまざまな原因で脳に病気が起こり、とくに分娩前後の母体の異常からくるもの、新生児期の感染や呼吸困難、幼児期の髄膜炎(ずいまくえん)、脳炎、成人の頭部外傷、脳血管障害糖尿病尿毒症(にょうどくしょう)に伴う代謝異常による脳症など、原因となる元の病気が明らかである場合は症候性てんかんと呼ばれます。

 一方このような原因がまったくなく、精度のよいMRI機器でも脳内に異常が見つからない場合を特発性てんかんといい、その原因として遺伝的要因が関係しているとされます。

 すなわち部分てんかん、全般てんかんは、それぞれ症候性のものと特発性のものとに区別診断され、それに基づいて治療・管理が行われるわけです。

廣瀨 源二郎


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最新 心理学事典 「てんかん」の解説

てんかん
てんかん
epilepsy

てんかん(癲癇)とは,神経細胞の過剰な電気活動によりてんかん発作を繰り返して起こす脳の慢性疾患である。てんかんは,紀元前8~7世紀に書かれた石板にすでにその記載があり,人類の有史以来最も古くから知られていた疾病の一つである。ヒポクラテスHippocratesはてんかんが脳の病であることを見抜いていたが,一般には超自然的な現象,悪魔憑きなどと認識されてきた。19世紀後半から20世紀前半にジャクソンJackson,H.J.がてんかんの概念を確立した。その後,ベルガーBerger,H.による脳波の発見,レンノックスLennox,W.G.やガストーGastaut,H.によるてんかんの基礎および臨床研究,ペンフィールドPenfield,W.によるてんかん外科の確立などによりてんかん学epileptologyは発展した。てんかんの有病率は約0.5~1%とされ,発病年齢は乳幼児期,小児期と老年期に多いが,すべての年齢に起こり得る。

 てんかんは,神経細胞の過剰な電気活動という共通の病態生理をもつが,病因は遺伝子異常から脳の器質的異常など多岐にわたる。したがってその分類には,症状としてのてんかん発作の分類と,症状(てんかん発作)・病因・経過・予後などを含めたてんかん症候群の分類がある。現在,臨床で広く用いられ,かつ有用なのは国際抗てんかん連盟による1981年のてんかん発作分類と1989年のてんかん症候群分類である。

 てんかん発作epileptic seizureは大きく部分発作partial seizureと全般発作generalized seizureに分類される。部分発作では,神経細胞の電気活動が大脳一側半球の限局した部位から始まる。全般発作では,発作の始まりから大脳両側半球と間脳が同時に電気活動に巻き込まれる。

 てんかん症候群epileptic syndromeは,まず部分発作をもつ部分てんかんと全般発作をもつ全般てんかんに二分され,さらに病因により原因不明で素因が関連する特発性てんかんと器質性などの病因がある症候性てんかんに二分される。これらの二分法を組み合わせた四分分類により,特発性部分てんかんidiopathic partial epilepsy,特発性全般てんかんidiopathic generalized epilepsy,症候性部分てんかんsymptomatic partial epilepsy,症候性全般てんかんsymptomatic generalized epilepsyに分類される。たとえば,若年ミオクロニーてんかんは特発性全般てんかんに,側頭葉てんかんは症候性部分てんかんに,レンノックス・ガストー症候群Lennox-Gastaut syndromeは症候性全般てんかんに含まれる。

 抗てんかん薬治療は,部分発作にはカルバマゼピン,全般発作にはバルプロ酸が第1選択薬である。難治性のてんかんに対して外科治療が行なわれることがある。発作の予後は,それぞれのてんかん症候群によって大きく異なる。てんかんに伴う精神医学・心理学的症状として,てんかん特有の性格傾向(ゲシュビント症候群),てんかん精神病,偽発作(非てんかん性心因性発作)などが臨床上問題になることがある。てんかんの治療は,てんかん発作だけでなくさまざまな生物・心理・社会的問題に対応する必要があり,包括医療の重要性が認識されている。

【ゲシュビント症候群Geschwind syndrome】 側頭葉てんかん患者の一部で,情動が不安定で,神秘的なものに関心を抱き,宗教的,哲学的な考えに傾倒しやすく,性的関心が低下し,細部にわたって強迫的に書く(書字過多),ささいなことにこだわり一つのことから離れられない(粘着性),ささいなことで攻撃的になり短絡的に衝動行為に走りやすい(爆発性),回りくどく話の中心にたどりつかない(迂遠)などの行動特性が見られることがある。これらは提唱者の名にちなんでゲシュビント症候群とよばれる。

【てんかん精神病epileptic psychosis】 てんかん患者の数~10%で統合失調症様の精神病が出現し,てんかん精神病とよばれる。てんかん患者で見られる精神病は,発作との時間的関連から,発作時精神病,発作後精神病,発作間歇期精神病に分かれる。てんかん発作がある時期,あるいは脳波異常がある時期に精神病症状が消失し,てんかん発作が抑制される時期,あるいは脳波異常が消失する時期に精神症状が出現することがある。これを強制正常化forced normalizationや交代性精神病alternative psychosisとよぶ。 →統合失調症
〔西田 拓司・荒木 剛〕

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普及版 字通 「てんかん」の読み・字形・画数・意味

【廛】てんかん

村里の門。また、まちみせ。商店街。〔唐書、杜佑伝〕俄(には)かにして嶺南る。佑、爲に大衢(だいく)を開き、廛析(そせき)し、以て火災を息(や)む。

字通「廛」の項目を見る

陥】てんかん

陥る。〔韓詩外伝、一〕飮、動靜居處、禮に依るときは、則ち和あり。禮に由らざるときは、則ち陷して疾を生ず。

字通「」の項目を見る

】てんかん

てんかん。

字通「」の項目を見る

【点】てんかん

着筆する。

字通「点」の項目を見る

【癲】てんかん

てんかん。

字通「癲」の項目を見る

【添】てんかん

そえ状。

字通「添」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「てんかん」の意味・わかりやすい解説

てんかん
epilepsy

世界保健機関 WHOは,てんかんを「種々の病因によって起る慢性の脳障害で,大脳ニューロンの過剰な発射の結果起る反復性発作 (てんかん発作) を主徴とし,これに種々の臨床症状および検査所見を伴うもの」と定義している。発作には,(1) 意識の喪失ないし変化,(2) 筋緊張あるいは運動の過剰ないし消失,(3) 知覚の異常,(4) 内臓の諸症状を伴う自律神経障害,(5) 気分や思考の異常,の5型がある。このような発作があっても,原因疾患の明らかなものはてんかんと呼ばない。発作のほかには,周期性気分変調,性格変化,知能障害などがみられることもある。てんかんの診断は,臨床症状の観察とともに,脳波検査によって突発的な波形の異常を確認して行う。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

知恵蔵 「てんかん」の解説

てんかん

脳の神経細胞が過剰放電することで起こる反復性の発作を中心とした疾患。脳の一部分に過剰放電が起きる部分発作と、脳全体が巻き込まれる全般発作がある。部分発作は放電が起きる部位によって症状が異なり、手や顔がぴくぴく動く、ものが大きく(小さく)見える、音が大きく(小さく)聞こえる、過去の記憶がよみがえる、など様々。全般発作は、意識を失い、手足が突っ張り、その後ガクンガクンとけいれんする強直間代発作や、数秒から数十秒、突然意識を失う欠神発作などがある。抗てんかん薬を長期間服用することで治療を行うが、小児期に発症することが多いため、自立性に配慮した養育上の注意が必要。

(田中信市 東京国際大学教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

栄養・生化学辞典 「てんかん」の解説

てんかん

 慢性の脳障害の一つで,大脳ニューロンの過剰な反射の結果起こる反復性発作(てんかん発作)を主たる徴侯とする.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のてんかんの言及

【アウラ】より

…本来は,微風,香り,光輝などを意味するラテン語。精神医学では前兆と訳され,かつては癲癇(てんかん)発作の前ぶれを表す言葉として用いられた。現在では,脳の一部分に局在する癲癇発作(部分発作)そのものと考えられている。…

【アダムズ=ストークス症候群】より

… 主症状は,突然に起こる脱力や意識混濁,失神(軽い場合はめまい)で,客観的な徴候としては,まず顔面,四肢が蒼白となり,次いでチアノーゼを呈し,意識消失,間欠性痙攣がみられる。癲癇(てんかん)との違いは,この時期,脈拍が触れないか,あるいは非常に遅く(通常20以下),不整なことである。血圧は低下し,呼吸も止まり,尿失禁もみられ,数分間続くと瞳孔の対光反射も消失するに至る。…

【欠神】より

…代表的な癲癇(てんかん)発作の一型で,純粋小発作,アブサンスともいわれる。痙攣(けいれん)を伴わず意識が突然消失し,突然回復する。…

【神聖病】より

…古代ギリシア・ローマで広く流布していた癲癇(てんかん)の俗称。とつぜん倒れて全身が痙攣(けいれん)する発作を,当時の呪術的世界観から〈神の意思が働いて生じたもの〉と解釈したのでこの名があり,実際その治療法としては浄(きよ)めや祈禱が幅をきかせていた。…

【精神病】より

…精神の異常ないし病的状態は人類の歴史とともに古い。古代ギリシア・ローマの時代にはすでに,〈神聖病〉と呼ばれた癲癇(てんかん),黒胆汁の過剰によると説明されたメランコリア,狂乱状態を示すマニア,子宮(ヒュステラ)が体内で動き回る婦人病としてのヒステリーなどが知られていた。これらが〈精神病〉という総称のもとに体系化されるのは,精神医学がやっと自立の活動をみせる19世紀になってからで,〈精神病Psychose〉の語も1845年にウィーン大学のフォイヒタースレーベンE.von Feuchterslebenがその著《心の医学の教科書》で初めて使ったとされる。…

【体液】より

… 古代ギリシア・ローマでヒッポクラテスやガレノスらにより取り上げられるのは,粘液phlegm,血液blood,黒胆汁melancholy(black bile),胆汁(黄胆汁choler,yellow bile)という4種の体液であり,これらの平衡と調和を保つことが健康の条件で,ある体液に過剰,不足,移動などが起これば,心身の変調や病態が生じると考えられた。例えば,癲癇(てんかん)の発作は,冷たい粘液が突然脈管内に流れ込んで血液を冷却,停滞させる場合に起こるが,粘液流が多量で濃厚なときには,血液を凝結させるから,直ちに死を招く。しかし,20歳を越すと,脈管には豊富な血液が充満するから,粘液の流入が生じにくく,したがって,発作はまれにしか起こらなくなるとされた(ヒッポクラテス《神聖病論》)。…

【脳波】より


[異常脳波]
 正常にみられない波形の脳波で,脳の病気の診断に応用される。たとえば癲癇(てんかん)の発作時に特徴のある波形が現れる(図5)。10秒前後のあいだ意識が一過性に消失する小発作では,棘波(きよくは)と徐波とが交互に約3Hzの周期で繰り返す。…

【ひきつけ】より

…小児期に起こりやすく,なかでも発熱に伴って起こる熱性痙攣が多い。中枢神経感染症,頭蓋内出血,頭部外傷など一時的なもののほかに,慢性反復性のものとして,癲癇(てんかん),代謝異常や脳腫瘍などによる脳病変,泣入りひきつけ(いわゆる癇の強い子どもが激しく泣いたとき,呼吸が止まり無酸素性痙攣発作を起こすもの)などがある。このほかに薬物中毒(ストリキニーネなど),精神的原因(ヒステリーなど)によるものもある。…

【もうろう状態(朦朧状態)】より

…意識混濁が目立たず,まとまった行動を示すのを分別朦朧状態besonnener Dämmerzustandといい,突然遠方に行ってしまい行方不明になるのを失踪fugueという。朦朧状態は癲癇(てんかん),ヒステリー,アルコールの病的酩酊(めいてい),脳の器質的疾患などでみられる。 癲癇では複雑部分発作(精神運動発作自動症)のほか,癲癇挿間症としての小発作重積状態ictal stupor(spike wave stuporともいう),発作後朦朧状態,生産性精神病的朦朧状態や不機嫌症にみられる。…

※「てんかん」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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