健忘(読み)けんぼう

精選版 日本国語大辞典 「健忘」の意味・読み・例文・類語

けん‐ぼう ‥バウ【健忘】

〘名〙 (「健」は程度のはなはだしい意)
① (形動) よく物事を忘れること。ひどく忘れっぽいこと。また、そのさま。また、それを老人病気と考えたもの。
※済北集(1346頃か)一〇・文応皇帝外紀「予今年六十二。衰朽大至。尤患健忘」 〔白居易偶作寄朗之詩〕

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デジタル大辞泉 「健忘」の意味・読み・例文・類語

けん‐ぼう〔‐バウ〕【健忘】

よく物忘れすること。忘れっぽいこと。「最近健忘の気味がある」
一定期間内の記憶の一部または全体が想起できない状態。新しい見聞を次々と忘れる前進性健忘と、ある時点から前の記憶を失う逆行性健忘とがある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「健忘」の意味・わかりやすい解説

健忘
けんぼう

記憶の量的障害の一種で、過去のある一定期間のできごと、またはある一定の事柄に限って思い出せない場合をいう。俗に健忘症ともいう。ある期間全部の追想欠如全健忘という。部分的な期間の追想欠如を部分健忘といい、その際に思い出せるところを記憶の島という。健忘は急性意識障害のあとによくみられるが、意識障害を生じる以前の期間にまでさかのぼって思い出せないことを逆向(ぎゃっこう)健忘という。意識障害期間中の健忘は同時健忘とよぶ。意識回復後の健忘を前向(ぜんこう)健忘というが、これは記銘障害のことである。

 ある特定の事柄(人、場所、外国語など)だけを思い出せない場合を選択健忘という。その特殊なもので、自分の名前や住所、経歴など自分自身に関することをすべて忘れてしまい、自分がだれだかわからないという場合が全生活史健忘である。

 健忘にはその原因により、器質健忘心因健忘がある。器質健忘は脳外傷、脳血管障害、脳炎、一酸化炭素中毒、アルコール中毒、てんかん発作などにより生じうる。心因健忘は心理的原因(ショックなど)によるもので、ヒステリー性健忘(解離健忘)もある。自分に不都合なこと、嫌なことは忘れられやすい。精神分析フロイト)では忘却抑圧の機制などで説明しており、幼児期の記憶が思い出せずに別の記憶で覆い隠されている場合(隠蔽(いんぺい)記憶)もありうる。

[浅井昌弘]

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改訂新版 世界大百科事典 「健忘」の意味・わかりやすい解説

健忘 (けんぼう)
amnesia

記憶障害の中で追想の量的障害に属し,〈思い出すことができない〉場合で,追想の欠如が一定の期間,または一定の事柄に限定されていることをいう。ある期間のことを全部思い出せないのを全健忘,部分的に忘れており思い出せる〈記憶の島〉があるのを部分健忘という。思い出せない期間が脳障害の発生時点より以前にさかのぼる場合を逆向健忘という。意識障害のあった期間だけのことを思い出せないのは同時健忘である。意識障害から回復したあとのことも思い出せないのを前向健忘といい,これは覚え込めないため(記銘力障害)である。ある特定の事柄(人物,場所,状況,外国語など)に限定した追想欠如を選択健忘といい,特定の外国語だけを忘れることもある。また,自分自身のことだけを忘れてしまい自分がだれかわからなくなる場合もある(全生活史健忘)。健忘は脳機能が急激に障害されて意識障害を生じた場合に起こりやすい。器質的な脳障害のために生じた場合を器質健忘といい,頭部外傷(脳震盪(しんとう),脳内出血),脳血管障害(脳卒中,脳出血,脳血栓),脳炎,一酸化炭素中毒,アルコール中毒,てんかん発作などの後にみられる。心理的原因(ショック)による場合を心因健忘という。人は一般に不愉快なこと,苦しいこと,いやなこと,自分に都合の悪いことは忘れやすく,それをフロイトは抑圧という心理的な機制で説明している。
記憶
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普及版 字通 「健忘」の読み・字形・画数・意味

【健忘】けんぼう(ばう)

もの忘れ。唐・白居易〔偶作、朗之に寄す〕詩 雀羅誰(たれ)か問訊せん 鶴(くわくしやう)(鶴の羽の衣、隠者)罷(や)めて隨す~老來多し 唯だ相思をれず

字通「健」の項目を見る

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百科事典マイペディア 「健忘」の意味・わかりやすい解説

健忘【けんぼう】

一定時間内の経験を後に追想できない場合をいう。頭部外傷を受けた後など一般に意識障害がみられた時に起こる。完全健忘は一定時間内のすべての経験の追想ができないもの。これに対し不完全健忘には,一定時間内の全体の経験が不完全ながら追想されるものと,あることは完全に健忘しているが,あることは明瞭に追想できる,すなわち記憶の島を残すものがある。→逆行健忘
→関連項目ヒステリー

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「健忘」の意味・わかりやすい解説

健忘
けんぼう
amnesia

記憶異常の一種。記憶の喪失が,比較的限られた事項や一定の期間に限定されて現れるもので,広範囲にわたって全般的に生じる記憶の低下ないし記憶減弱とは区別される。特に日時,文字,固有名詞など,特定の事項の記憶だけを喪失したり,一定期間にわたる記憶の喪失のところどころに追想可能な記憶の「島」が残存したりするなど,種々の部分的健忘が起りうる。健忘には器質的疾患によるもののほか,精神的原因によって生じるものがあり,後者を特に心因性健忘と呼ぶ。

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栄養・生化学辞典 「健忘」の解説

健忘

 健忘症ともいう.一定の期間のことや特定の事柄について追憶が障害されている状態.

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世界大百科事典(旧版)内の健忘の言及

【記憶】より

…大脳の器質病変では多少とも記銘障害を生じる。コルサコフ症候群では,高度の記銘障害と失見当識,作話,逆向健忘をきたす。記銘障害のはなはだしい例として,K.コンラートにより報告されている〈分時記憶Minuten Gedächtnis〉は,一酸化炭素中毒や脳炎の患者の後遺症として見られ,発病以前のことはよく覚えているが,発病後のことは数秒か数分間しか記銘できぬ特殊な状態で,〈瞬間人〉とも呼ばれる。…

【逆向健忘】より

…何かの脳障害で健忘(追想欠損)を生じる時に,脳障害の発生時点より以前の事柄にまで遡及して思い出すことができない場合をいう。意識が明瞭だった時点では,出来事は正常に記銘され記憶に残されたはずだが,脳障害により想起できないのは,記憶の痕跡が失われたか,想起することができないのかの理由による。…

※「健忘」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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