歳差
さいさ
歳差とよばれるものには次の二つがある。
(1)地球の歳差運動を略して歳差という。地球の赤道面と黄道面(地球・月重心の平均軌道面)とは、力学的に不変ではない。地球は南北に扁平(へんぺい)な回転楕円(だえん)体に近い形をしており、かつ赤道面は黄道面に対して約23.4度傾いている。このため、太陽と月の偶力によって、地球の極軸は空間に対して回転する。これを歳差運動という。すなわち、天の北極は約2万6000年の周期で黄道面の北極の回りを、半径23.4度で動く。これを日月歳差(じつげつさいさ)とよび、このような動きをするものを平均の極という。この平均の極の周りに、その振幅が約12秒角で、おもな周期が18.6年の複雑な動き(これを章動という)が合成されて、空間に対して向きを変え続ける。ここでいう地球の極軸とは、力学的に予測可能な地球の形状軸(この軸と天球の交点を暦表極という)をいい、瞬間自転軸にたいへん近いところにある。実際の地球の形状軸は、これに、極運動とよばれる、振幅・周期とも予測不可能な旋回運動があって、その方向を絶えず変えている。黄道面は惑星の引力によって絶えず動いており、その動きを惑星歳差という。春分点は日月歳差によって、黄道上を毎年約50秒角の速度で東から西へ動き、また惑星歳差によって、赤道に沿って毎年約0.11秒角の速度で西から東へ動く。日月歳差に惑星歳差を加えたものを一般歳差という。
机上で回転しているこまは、地球の重力によって芯棒(しんぼう)の首回し運動をするが、これも歳差運動である。地球の歳差運動の方向は、地球の自転方向と反対方向であるが、こまの場合は、こまの回転方向と歳差運動の方向は同じである。
(2)地球の歳差運動によって生ずる太陽年と恒星年の差をいう。恒星時は「春分点の時角」と定義されるが、この春分点は歳差運動によって東から西へ毎年動いているため、春分点に対して太陽が同じ位置に戻る周期は、太陽が恒星に対して元の位置に戻る周期より短くなる。前者は回帰年(太陽年)とよばれ、周期は365.24219日、後者は恒星年とよばれ、周期は365.25636日である。この差を歳差という。この現象は紀元前150年ごろにギリシアのヒッパルコスによって観測された。
[若生康二郎]
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歳差【さいさ】
春分点が黄道に沿ってゆっくり西方へ移動する現象,またはその移動量(1年に約50″,約2万5700年で黄道を1周する)。前125年ごろヒッパルコスが発見。このため恒星の黄経は毎年約50″ずつ増し,また天の北極は,恒星に対し時計の針と逆回りにゆっくり移動する。地球の自転軸が公転軌道面に対し約23.5°傾いており,地球が南北に扁平なため,太陽や月の引力が自転軸を立てる向きに働き,そのため歳差運動が起こり歳差を生ずる。歳差運動を起こす作用はおもに太陽と月の引力で(日月歳差),後者は前者の約2倍に当たるが,月と太陽の地球に対する相対位置が時間的に変化するため春分点の短い周期的な移動(章動)が加わり,正確にはこの小振動を平均した平均春分点の永年移動を歳差という。他に微小な春分点移動として,惑星の引力による惑星歳差(約0.1″),相対論的効果による測地歳差または相対性歳差(約0.02″)がある。
→関連項目恒星日|人工衛星|太陽年|地球|分点
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歳差
さいさ
precession
太陽や月の引力が地球の地軸の方向を変化させるために,春分点が恒星に対して年に約 50″ずつ西方に移動する現象。紀元前2世紀頃ヒッパルコスが発見,その原因を力学的に説明したのはニュートンである。地球は南北に扁平で,自転軸が軌道面に 23.5゜傾いている。このため,太陽と月の引力は,自転軸を軌道面に垂直にする方向に力を及ぼし,自転軸は約2万 6000年の周期で円錐運動を行う。天の北極は天球上で小円を描いてゆっくり変化していき,約1万 3000年後にはこと座α星 (ベガ) の近くにくる。月の軌道は黄道に対して約5゜傾いている。これが原因で起る春分点の短い周期運動を章動という。このほか微小な春分点の移動として,惑星の引力による惑星歳差,相対論的効果による相対性歳差などがある。 (→歳差運動 )
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さい‐さ【歳差】
〘名〙 歳差運動によって、春分点の位置が一年間に約五〇秒三だけ
逆行する現象。また、その時間差。月、太陽、その他の惑星の引力で、地球の軸が檑粉木
(すりこぎ)のような円錐運動をするので起こる。このため、春分点は黄道上を西方に二万五八〇〇年の周期で一周する。〔和蘭通舶(1805)〕
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デジタル大辞泉
「歳差」の意味・読み・例文・類語
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さいさ【歳差 precession】
地球の歳差運動によって起こる太陽年(回帰年)と恒星年の1年の差,または〈こま〉や地球の歳差運動のこと。 ニカエアのヒッパルコス(前190ころ‐前125ころ)は自分の恒星位置の観測と,150年前のアレクサンドリアのティモカリスの観測とを比較して,その位置の変化に気がついた。黄緯は一致していたが,すべての星の黄経が約2゜減っていたので,これは黄経の基準にとった春分点が,150年間に2゜ほど逆行(天球上で東から西に進むこと)したためと考え,春分点の移動を毎年約46″(真の値は50″.29)とした。
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世界大百科事典内の歳差の言及
【歳差運動】より
…一般には回転する物体の回転軸の方向が変わる運動をいう。回転する物体はその角運動量を保とうとする性質があり,これに偶力が作用するとそのモーメントの方向(その偶力で右ねじの進む方向)に角運動量の変化を生ずる。軸のまわりに角速度ωで回っているこまは,軸方向(回転方向に右ねじを回したとき右ねじの進む向き)の角運動量Lをもつ。Lの大きさLはωに比例し,比例定数が慣性モーメントである。このこまが図-aのように傾いたとすると,重力と抗力がつくる偶力はこまの軸を右へ回して倒そうとするように働くが,そのモーメントは紙面に垂直に向こう向きのベクトルNで表される。…
【極望遠鏡】より
…地球の自転軸の方向の天球における見かけの位置を測定するための天体写真望遠鏡。これによって,自転軸のみそすり運動の反映である歳差と章動および地球の公転速度を表す光行差定数を決定する。天の北極に向けて固定した望遠鏡で星野を長時間撮影すると,北極星など極周辺の恒星は大小の円弧状に写るが,各円弧の中心は同一点であり,これが恒星天に対する自転軸の方向である。…
【歳差運動】より
…このようなことが次々と起こるから,結局AはOを通る鉛直軸OHのまわりで図のような円を描くことになる。このようなこまの首振り運動が歳差運動である。 重心を固定したこまでは,重力はモーメントをもたないから,角運動量Lは変化しない。…
【地球】より
…自転軸はこの力にそのまま従えず,直角な方向に逃げようとし,黄道極の北からみて時計回りに回転する。この運動を歳差といい,自転軸の方向は約2万6000年で1回転する。1万3000年後には織女星(こと座α星)が北極星となり,2万6000年後にふたたび現在の北極星となる。…
※「歳差」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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