歳差運動(読み)さいさうんどう(英語表記)precession

翻訳|precession

精選版 日本国語大辞典 「歳差運動」の意味・読み・例文・類語

さいさ‐うんどう【歳差運動】

〘名〙
地球赤道面黄道面と一致していないのと、地球が回転楕円体であるため、天球上で赤道の極が黄道の極のまわりを約二万六〇〇〇年で一周する現象をいう。その結果、春分点が黄道上を一年間に約五〇秒三だけ逆行する。歳差
② 回転する物体の回転軸が、その方向を変えてゆく運動をいう。回転する独楽(こま)心棒の首振り運動など。味噌すり運動。

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デジタル大辞泉 「歳差運動」の意味・読み・例文・類語

さいさ‐うんどう【歳差運動】

地球の自転軸が、黄道面に垂直な線のまわりを、周期約2万5800年で首振り運動をすること。地球の赤道面が黄道面に対して約23.4度傾いているのと、地球の赤道部が膨れているため、月・太陽から自転軸を立てようとする偶力を受けて起こる。
こまなど回転するものの回転軸がゆっくりと方向を変えていく運動。味噌すり運動。首振り運動。

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改訂新版 世界大百科事典 「歳差運動」の意味・わかりやすい解説

歳差運動 (さいさうんどう)
precession

一般には回転する物体の回転軸の方向が変わる運動をいう。回転する物体はその角運動量を保とうとする性質があり,これに偶力が作用するとそのモーメントの方向(その偶力で右ねじの進む方向)に角運動量の変化を生ずる。軸のまわりに角速度ωで回っているこまは,軸方向(回転方向に右ねじを回したとき右ねじの進む向き)の角運動量Lをもつ。Lの大きさLはωに比例し,比例定数慣性モーメントである。このこまが図aのように傾いたとすると,重力抗力がつくる偶力はこまの軸を右へ回して倒そうとするように働くが,そのモーメントは紙面に垂直に向こう向きのベクトルNで表される。このため,角運動量にそれと同じ向きの変化を生ずるが,微小時間dtの間に生ずるLの変化dLはdLNdtで与えられ,Nと同方向である。もしこまの下端Oが(床の小さいくぼみにでもはまっていて)固定されていれば,このLの変化によってこまの上端Aは紙面に垂直に向こう向きに動くことになる。このようなことが次々と起こるから,結局AはOを通る鉛直軸OHのまわりで図のような円を描くことになる。このようなこまの首振り運動が歳差運動である。

 重心を固定したこまでは,重力はモーメントをもたないから,角運動量Lは変化しない。こまの軸の方向を最初に固定すれば,そのまま動かない。しかし,最初この軸を回すようなモーメントを与えると,LのほかにL′のような角運動量が加わり,全角運動量L+L′が一定に保たれることになる。図bは,aのこまの場合と比較しやすいように,L+L′が鉛直上向きの場合を示す。Lの方向で示された回転軸は,一定で変化しないベクトルL+L′の方向のまわりで歳差運動をする。

 なお,歳差運動によって生ずる現象のうち,周期的な部分を章動nutation,非周期的な部分を歳差と呼んで区別することもある。磁場の作用下で,粒子あるいは粒子系の,磁気モーメント(または角運動量)のベクトルが磁場方向を軸として回転する現象をラーモアの歳差運動というが,この場合に現れるのは章動のみである。
独楽(こま)
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「歳差運動」の意味・わかりやすい解説

歳差運動
さいさうんどう

剛体が回転運動をしているとき、外力のモーメントが付け加えられると、その回転軸が周期運動をする現象をいう。たとえば、こまが、重力によって倒れようとするとき重力のモーメントが加わると、こまの回転軸は「みそすり運動」をするが、これは歳差運動の一種である。剛体の場合、角運動量ベクトルLの時間的変化が力のモーメントのベクトルNに等しい。これは、質点の場合の、運動量ベクトルPの時間的変化は力のベクトルFに等しいというニュートンの運動方程式FdP/dtに似ている。PLに、FNに対応づければよい。

 したがって、質点の円運動を考えると、これは、剛体では歳差運動に対応する。質点の円運動では、そのままでは引力Fによって質点は中心に引き込まれるが、回転をすることによってPの変化が生じ、この力に逆らう力(慣性力)が発生し、力がつり合う。これと同じように、回転している剛体に外から力のモーメントNが付け加わると、そのままでは不安定になるが(こまなら倒れてしまう)、角運動量ベクトルLの時間的変化によって、新たな力のモーメントが発生し、つり合う。Lの変化が回転軸の変化に対応づけられ、歳差運動となるわけである。歳差運動は、こまのみそすり運動ばかりでなく、ヨーヨーの「からみつき」、天体の自転軸の変化(歳差)、磁場中での原子核の自転軸の変動など、いろいろな分野に現れる。

[大槻義彦]

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百科事典マイペディア 「歳差運動」の意味・わかりやすい解説

歳差運動【さいさうんどう】

英語のままプリセッションprecessionともいう。回転しているこまの心棒を傾けて立てると,心棒が傾いたまま鉛直線のまわりを回転する現象。傾いたこまにはたらく重力と,床が心棒に加える抗力とが,偶力としてこまに作用するが,この偶力のベクトルの方向は心棒を含む鉛直面に垂直なので,その方向にこまの角運動量のベクトル(心棒の方向)が移動する。このため心棒は鉛直線のまわりを回る。ジャイロスコープでもこまの回転軸を傾けるように偶力をはたらかせれば,やはり歳差運動が起こって軸は偶力ベクトルの方向に(つまり傾けようとする方向に直角に)移動する。地球は赤道部がふくれているため太陽から自転軸を立てようとする偶力を受け,そのため自転と逆向きに歳差運動をする(歳差)。→章動
→関連項目こま(独楽)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「歳差運動」の意味・わかりやすい解説

歳差運動
さいさうんどう
precession

こまの軸を傾けて回転させると,こまは回転しながらその回転軸は鉛直線のまわりを回転する。このように回転体の回転軸が変化する運動を歳差運動という。これは回転体の全角運動量ベクトル L と,回転軸のまわりの角運動量の大きさが一定に保たれるために生じ,特に外力が L に垂直な小さなモーメント N をもつときの回転軸の角速度ベクトル ω は,近似的に ω×LN から決る。この運動は巨視的なこまとか地球の運動だけでなく,微視的な電子の運動にもみられ,特に磁場中の電子の歳差運動を,ラーモアの歳差運動と呼ぶ。

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化学辞典 第2版 「歳差運動」の解説

歳差運動
サイサウンドウ
precession

[別用語参照]ラーモア歳差運動

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世界大百科事典(旧版)内の歳差運動の言及

【歳差】より

…地球の歳差運動によって起こる太陽年(回帰年)と恒星年の1年の差,または〈こま〉や地球の歳差運動のこと。 ニカエアのヒッパルコス(前190ころ‐前125ころ)は自分の恒星位置の観測と,150年前のアレクサンドリアのティモカリスの観測とを比較して,その位置の変化に気がついた。…

※「歳差運動」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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