(読み)ひずみ

精選版 日本国語大辞典 「歪」の意味・読み・例文・類語

ひずみ ひづみ【歪】

〘名〙 (動詞「ひずむ(歪)」の連用形の名詞化)
① 形がねじれたり、ゆがんだりしていびつになること。また、そうなることによってできた他の物とのずれやゆがみなど。
※御飾記(1523)「絵の掛梯之事。〈略〉ひずみよくよく見て、軸を直し退き候」
② 心のゆがみ。ねじけ。
浮世草子・男色十寸鏡(1687)上「さすが其ひすみをとがめんも、兄分のためおもてぶせなり」
③ 物事の進みぐあいや、状況、関係などが順調にいかないで、本来の姿、あるいはあってほしい姿から外れること。また、その影響。
※人情本・英対暖語(1838)四「身上(しんしゃう)にひづみが見へたからといって」
物体が外から力を受けたり、温度変化などによって生じる形や体積の変形。また、その割合。〔物理学術語和英仏独対訳字書(1888)〕
⑤ 茶の湯の評語で、左右対称的な正統の形態に対して、形が少し崩れ、ひねってゆがんだものの美しさをいう。
※石州三百ケ条(1665)一「何ぞ珍しき事をも致し、客に手をとらせんとおもふやうなるはひすみなり」

いが・む【歪】

[1] 〘自マ五(四)〙 (「ゆがむ(歪)」の変化した語)
① 正常な形がくずれて曲がったり、正常な位置、状態から傾いたりする。
※土井本周易抄(1477)五「石の広ていがうだやうな石ぞ」
※滑稽本・客者評判記(1811)上「兎角荷鞍がいがんであぶない」
② 行ないや心が正しくなくなる。邪悪になる。ひねくれる。
※仮名草子・悔草(1647)下「温公(おんこう)も六悔(りっくい)有。ましてや愚蒙の我らなど、くゆる事やめがたしといがむ」
③ 病気になる、わずらうことをいう、大工、寄席芸人の間の隠語
※新ぱん普請方おどけ替詞(1818‐30頃か)「わずろうを、いがむ」
[2] 〘他マ四〙 盗む。いがめる。
歌舞伎・傾城青陽𪆐(1794)五「其いがんで戻った金を、又おれが方へいがめて」
[3] 〘他マ下二〙 ⇒いがめる(歪)
[語誌]室町時代の抄物あたりから見えはじめるが、当時の辞書などにはこの語形は見いだしにくく、口語的な場で使われていたものと思われる。

ゆが・む【歪】

[1] 〘自マ五(四)〙
① 整った形がねじれ曲がる。まっすぐでなくなる。曲がる。よじれる。ひずむ。いがむ。
※霊異記(810‐824)上「是に即坐(ゐながら)に沙彌の口喎斜(ユガミ)て、薬もて治療せしむるに、終に直ら不。〈興福寺本訓釈 喎斜 二合由加三天〉」
② 心や行ないなどが正しくなくなる。公平でない。よこしまになる。
源氏(1001‐14頃)若菜上「事違ひて心うごき、かならずその報い見え、ゆがめる事なん、いにしへだに多かりける」
③ 本来の姿、望ましい方向からそれる。はずれる。
※狭衣物語(1069‐77頃か)三「琵琶もなほせと、上ののたまはせつれど、中々ゆがみぬべく侍りけるとのたまひければ」
④ 言葉がなまる。
※源氏(1001‐14頃)東屋「若うより、さる東方の、遙なる世界に埋もれて、年経ければにや、声など、ほとほとうちゆがみぬべく」
[2] 〘他マ下二〙 ⇒ゆがめる(歪)

いが・める【歪】

〘他マ下一〙 いが・む 〘他マ下二〙 (「ゆがめる(歪)」の変化した語)
① 整った形、状態を曲げる。いびつにする。ゆがめる。
※大学垂加先生講義(1679)「我いがめる心を推なれば恕の正には非」
② ひどい目にあわせる。いためつける。やりこめる。
※浄瑠璃・聖徳太子絵伝記(1717)一「此婆(ばば)がいがめてやる」
③ 盗む。ちょろまかす。ゆすり取る。
※歌舞伎・傾城倭荘子(1784)三「オオ、覚えもない和尚様に、三百目いがめる企みぢゃな」
④ 女を自分のものにする。
※浮世草子・新色五巻書(1698)五「法師の念力、きゃつをいがめずにはおくまいと」

いがみ【歪】

〘名〙 (動詞「いがむ(歪)」の連用形の名詞化)
① 正常な形がくずれ、曲がったり、傾くこと。ゆがみ。
※日本書紀兼倶抄(1481)上「亀をやくに上は穴、下は水、左は木、右は金、中は土で、このいかみすぢりすくなについて、一万余の字ができたぞ」
② 行ないや心が正しくないこと。また、その者。盗人。悪漢
※絅斎先生敬斎箴講義(17C末‐18C初)「心の根本が怠惰邪僻に沈んで有れば、する程いがみが強なる」
※浄瑠璃・釜淵双級巴(1737)上「こなたも啀(イガ)みの性根をあらはし」

ひず・む ひづむ【歪】

[1] 〘自マ四〙
① 形がゆがむ。いびつになる。ねじれる。
※名語記(1275)八「ゆかめる物をひつむといへる如何 はし、つる、めるの反、はり、つる、めりの反」
※俳諧・江鮭子(1690)「御持鎗さや蝙蝠の打落す〈忠清〉 花の嵐にひづむ仮小屋〈光延〉」
② 茶器などの形がゆがんで、正統な、あるいは規格的な形とは別の新しいおもしろさとなる。
※宗湛日記‐慶長四年(1599)二月二八日「うす茶の時は、せと茶椀、ひつみ候也、へうけもの也」
[2] 〘他マ下二〙 ⇒ひずめる(歪)

ゆがみ【歪】

〘名〙 (動詞「ゆがむ(歪)」の連用形の名詞化)
① ゆがむこと。ゆがんでいる状態・様子。ひずみ。
※枕(10C終)一〇九「ようせずは、ほほゆがみもしぬべし」
※浮世草子・好色二代男(1684)四「藤は松につれても、ゆがみは直らず」
② 心や行ないなどが正しくないこと。よこしまなこと。
※浄瑠璃・津国女夫池(1721)二「引く縄筋のゆがみなき、代々の掟て」
③ ひしゃくをいう女房詞。〔日葡辞書(1603‐04)〕

ゆが・める【歪】

〘他マ下一〙 ゆが・む 〘他マ下二〙
① ゆがませる。整った形をくずして、曲げたり、よじったりする。曲げる。いがめる。
※観智院本三宝絵(984)中「沙彌是をききてかろみわらひそしる。ことさらに口をゆがめ、音をなまらかしてまねみ読」
② 心や行ないなどを正しくなくする。公平でないようにする。道理や真実などにはずれさせる。〔名語記(1275)〕
※浮世草子・新可笑記(1688)五「すぐなる心を今はゆがめて」

ひず・める ひづめる【歪】

〘他マ下一〙 ひづ・む 〘他マ下二〙
① 曲げる。ゆがめる。いびつにする。
※玉塵抄(1563)四一「弓のそったををしあてて、ためつひつめつする木あり、檠と云ふ」
② 小さくかがめる。
※浮世草子・男色十寸鏡(1687)上「若細道辻小路なれば身をひつめてそれをとをして、其後ぞゆく也」
③ 責める。さいなむ。苦しめる。〔観智院本名義抄(1241)〕
※史記抄(1477)一一「秦をせめひづむるぞ」

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岩石学辞典 「歪」の解説

物体に外力を加えたときに現れる形状や体積の変化または物体の粒子の相対的位置の変化.変形ともいう.形状の変化を捩れ(distortion)といい,体積変化をdilationという.dilationはdilatationと同じで,dilatationは膨張,拡張の意味であるが,この場合に正の体積変化を膨張(expansion)といい,負の体積変化を収縮(contraction)というので,dilation, dilatationのいずれも体積変化とした方がよい.

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デジタル大辞泉 「歪」の意味・読み・例文・類語

い‐びつ【×歪/×櫃】

[名・形動]《「いいびつ(飯櫃)」の音変化》
《飯櫃が楕円形であったところから》
㋐物の形がゆがんでいること。また、そのさま。「箱が―になる」
㋑物事の状態が正常でないこと。また、そのさま。「―な社会」「人間関係が―になる」

㋐「飯櫃いいびつ」に同じ。〈日葡
㋑楕円形。小判形。いびつなり。
「―なる面桶めんつにはさむ火打ち鎌/惟然」〈続猿蓑
㋒金貨・銀貨などの小判。いびつなり。
「五三桐九分づつ―六十目」〈洒・知恵鑑〉

わい【歪】[漢字項目]

[音]ワイ(漢) [訓]ゆがむ ひずむ いびつ
曲がって正しくない。ゆがむ。「歪曲歪力

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