案主(読み)あんじゅ

精選版 日本国語大辞典 「案主」の意味・読み・例文・類語

あん‐じゅ【案主】

〘名〙 古代中世、諸官庁、諸家、あるいは荘園等にあって、文書記録などの作成保管にあたった職員。太政官厨家、院・摂関家政所国郡司、検非違使庁鎌倉幕府政所などにみられる。
正倉院文書‐大同二年(807)八月二五日・東大寺南第二倉公文下行帳「案主安辺年人」

あん‐ず【案主】

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デジタル大辞泉 「案主」の意味・読み・例文・類語

あん‐じゅ【案主】

平安・鎌倉時代の諸官庁、あるいは荘園などで、文書・記録などの作成・保管にあたった職員。あんず

あん‐ず【案主】

あんじゅ(案主)

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改訂新版 世界大百科事典 「案主」の意味・わかりやすい解説

案主 (あんじゅ)

古代・中世において文書・記録の作成・保管をおもに担当した下級の職員。〈あんず〉ともいう。奈良時代,造東大寺司や造石山寺所などに置かれていたことが〈正倉院文書〉にみえるが,その名称が多く登場するのは平安中期以降である。国,郡,大宰府公文所,六衛府検非違使庁,太政官厨家,院宮・摂関家・諸家の政所や御厩にみられる。衛門府の場合〈権案主〉〈案主代〉,使庁の場合〈案主長〉の名称もみられる。摂関家政所下文などには紀・中原・清原惟宗などの下級官人が案主として日下(につか)に一名署判している。鎌倉幕府では源頼朝が1191年(建久2)に政所を開設すると藤井俊長を案主に補した。その後は,鎌倉中期に一時的に清原氏がその職に就いたこともあるが,だいたい菅野氏が案主職を世襲した。このほか12世紀初頭以降,荘園の荘官の中に下司・公文らとならんで案主の名称が出現する。その地位は下司(げし)・公文(くもん)より低い。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「案主」の意味・わかりやすい解説

案主
あんじゅ

文書や記録の作成、保管にあたる下級の役職。「あんず」ともいう。奈良時代、写経所などに置かれていたことが正倉院(しょうそういん)文書によって知られ、平安初期に郡ごとに2人置かれていたことが『類聚三代格(るいじゅうさんだいきゃく)』にみえる。平安中期以後は大神宮御厨(だいじんぐうのみくりや)、太政官厨家(だいじょうかんのちゅうか)、衛府(えふ)、諸国、摂関家などの政所(まんどころ)その他に置かれた。検非違使(けびいし)庁では案主長(あんじゅのおさ)という。鎌倉幕府の政所にも置かれ、のち菅野氏の世襲となった。また、荘園(しょうえん)の荘官にもこの職名がみえる。

[黒板伸夫]

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「案主」の解説

案主
あんじゅ

「あんず」とも。古代~中世に,諸官司で文書の作成・保管にあたった下級職員。正倉院文書にみえる奈良時代の写経所の場合は,写経の発願が行われると,担当する事務官を決めてこれを案主とよび,経師(きょうし)・校生(こうしょう)・装潢(そうこう)からなるチームを編成した。案主は多くの帳簿を作って,職員の管理,用具の入手,食料の手配,職員への給与の申請・給付など一切の実務をこなした。平安時代の諸司・諸家や荘園に,鎌倉時代の将軍家政所(まんどころ)などにもおかれるようになった。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「案主」の意味・わかりやすい解説

案主
あんじゅ

寺院その他の諸機関で,文書,記録を司る役職名。平安~鎌倉時代,六衛府 (→衛府 ) ,検非違使,国郡,院司,摂関家 (→摂家 ) ,荘園などにおかれた。

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旺文社日本史事典 三訂版 「案主」の解説

案主
あんず

中世,下級荘官の一つ
主として荘園の記録をつかさどる。摂関家・鎌倉幕府の政所 (まんどころ) の下級職の中にもこの名がみられる。

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世界大百科事典(旧版)内の案主の言及

【案主】より

…国,郡,大宰府公文所,六衛府,検非違使庁,太政官厨家,院宮・摂関家・諸家の政所や御厩にみられる。衛門府の場合〈権案主〉〈案主代〉,使庁の場合〈案主長〉の名称もみられる。摂関家政所下文などには紀・中原・清原・惟宗などの下級官人が案主として日下(につか)に一名署判している。…

【検非違使】より

…左右衛門府職員が〈使の宣旨〉により兼任するのが原則で,弘仁左右衛門府式では定員を左右それぞれにつき官人1,府生1,火長5と定め,貞観・延喜式では左右それぞれ佐1,尉1,志1,府生1,火長(かちよう)9に増員し,834年(承和1)には別当が置かれている。火長は看督長(かどのおさ),案主,官人従者などからなり,式にはみえないが,火長の下に下部と称する下輩が置かれていた。佐の定員は時代が下っても式制どおり左右各1であるが,尉以下の職員については,必要に応じ増員が図られている。…

※「案主」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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