写経所(読み)しゃきょうじょ

精選版 日本国語大辞典 「写経所」の意味・読み・例文・類語

しゃきょう‐じょ シャキャウ‥【写経所】

〘名〙 写経司後身のもの。また、貴族の家などにもあった写経する場所
正倉院文書‐天平一一年(739)五月一八日・北大家(藤原房前)写経所啓「北大家写経所啓」

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改訂新版 世界大百科事典 「写経所」の意味・わかりやすい解説

写経所 (しゃきょうしょ)

経律論疏などを書写する官営・私営の施設で,寺内,また寺外にも営まれた。日本古代の写経所の変遷は次のようにまとめることができる。(1)黎明期 6世紀前半~728年(神亀5) 仏教が渡来し,仏典読誦・研究・保存するため書写する写経所が置かれたが,その機構は明らかでない。例えば694年(持統8)に《金光明経》100部を諸国に送ったことは官営写経体制の成立を示すが,写経所の内容がつかめない。(2)第1期 729-747年(天平1-19) 光明皇后が7世紀後半の中国の則天武后の事績に張り合って仏教興隆を進め,皇后宮職が写経所を経営し,皇后の《五月一日経》約7000巻の書写(736-756)のほか,しばしば一切経を写した(《光明皇后願経》)。(3)第2期 748-764年(天平20-天平宝字8) 写経所は造東大寺司の中に組みこまれ,東大寺写経所総称で,その全体または一部が書写仏典の種類によって写千巻経所,奉写忌日御斎会一切経所などと呼ばれた。光明皇太后の《坤宮官御願一切経》5330巻書写速度のすみやかさが著名である。(4)第3期 765-776年ころ(天平神護1-宝亀7ころ) 当期のうち道鏡の専制期に称徳天皇のための奉写御執経所(762-767)が内裏に置かれ,奉写一切経司(767-769)に格上げされて称徳天皇勅旨により《景雲経》(巻数不詳)などが写された。天皇没後に写経所は造東大寺司のなかへもどされて奉写東大寺一切経所(770-776ころ)となった。

 写経所の機構は時期により流動的であるが,例えば751年(天平勝宝3)正月中の写書所勤務者の場合は,経師以下雑使までの延人員は1246人で,内訳は経師(《法華経》を写す)733人,校生(誤字を訂正)146人,装潢(そうこう)(用紙を染め,巻軸や緒をつける)者123人,史生(ししよう)(書記)15人,案主(文書作成)50人,舎人(とねり)(雑使,供奉礼仏)150人,食領29人とあり,そのほかにも優婆塞(うばそく)(守堂)4人,仕丁(沸湯,駈使,雑使,打紙,病)174人が記されている。第1期に諸官庁の能筆者を写経所に出向させて経師や校生としたが,のち民間から能筆者を採用した。写経所勤務者は布施(報酬)を支給され,叙位にあずかり,得度出家も許された。写経所は仏教の普及・継承や,教学研究の発展などに大きな役割を果たした。
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百科事典マイペディア 「写経所」の意味・わかりやすい解説

写経所【しゃきょうしょ】

主に仏典を書写する機関。官営のほか皇族・貴族・大寺も設けた。令制下では図書(ずしょ)寮で仏典と仏典以外の典籍(外典)を書写した。写経所の存在は727年から確認され,729年光明皇后の皇后宮職(こうごうぐうしき)が設置されると写経所を経営,748年頃造東大寺司が設置されるとこれに組み込まれた(東大寺写経所)。初期には各官庁の能筆者が出向したが,のち民間から採用した。762年称徳天皇の奉写御執経(ほうしゃみしきょう)所が内裏に置かれ奉写一切経司に昇格したが,770年の天皇没後造東大寺司に戻った(奉写東大寺一切経所)。東大寺写経所の帳簿などの文書約1万点が正倉院に伝わる(正倉院文書)。
→関連項目慶俊

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世界大百科事典(旧版)内の写経所の言及

【正倉院文書】より

…この中には戸籍のほかに740年(天平12)までの計帳,正税帳,輸租帳,封戸租交易帳,郡稲帳,大税賑給歴名帳,大税負死亡人帳,義倉帳,輸庸帳,計会帳などの諸国からの上進文書や中央官庁文書があり,律令政治の実態,8世紀の社会構成をうかがうための重要史料である。 これらの古文書は写経所に反故(ほご)として払い下げられて,743年から写経所における文書作成のために裏が利用されたことにより,紙背文書として残ったものである。この写経所は光明皇后の皇后宮職写経所から発展して造東大寺司の写経所となったもので,736年ごろから活動がさかんとなり,光明皇后願経(五月一日経)をはじめとして数度の一切経の書写や,大量の一括写経を行い,奈良時代末まで活発な活動をしていたから,写経所で作成された文書,写経所に来た文書の数は膨大なものであった。…

※「写経所」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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