日本大百科全書(ニッポニカ) 「松浦の太鼓」の意味・わかりやすい解説
松浦の太鼓
まつうらのたいこ
歌舞伎(かぶき)劇。時代物。2幕。3世瀬川如皐(じょこう)作。1856年(安政3)5月、江戸・森田座初演の『新台(しんぶたい)いろは書初(かきぞめ)』の一節を明治初年に関西で改作したもの。赤穂(あこう)義士外伝の「忠臣蔵物」の一つで、為永春水(ためながしゅんすい)の『いろは文庫』が原拠といわれる。討入りの日、吉良(きら)家の隣家に住む松浦鎮信(しげのぶ)が俳人其角(きかく)から、前夜浪士の大高源吾(げんご)に出会い「年の瀬や水の流れと人の身は」とはなむけの句を贈ったところ「あした待たるるその宝舟」との付句をしたという話を聞き、仇討(あだうち)の本心を悟る。鎮信が討入りの陣太鼓の音に聞き入るところがクライマックスで、初世中村吉右衛門(きちえもん)の当り芸だった。また、同じ題材を主人公をかえて書いた渡辺霞亭(かてい)作『土屋主税(つちやちから)』(1907)は、初世中村鴈治郎(がんじろう)の得意芸「玩辞楼(がんじろう)十二曲」の一つになっている。
[松井俊諭]