押返(読み)おしかえす

精選版 日本国語大辞典 「押返」の意味・読み・例文・類語

おし‐かえ・す ‥かへす【押返】

〘他サ五(四)〙
① 押し進んでくるものを、逆に押す。押しもどす。
蜻蛉(974頃)中「人目もいと恥しう覚えて、落つる涙をしかへしつつ臥して聞けば」
源氏(1001‐14頃)空蝉「われも、この戸より出でて来(く)。わびしければ、えはた、をしかへさで、渡殿(わたどの)の口にかい添ひて、かくれ立ち給へれば」
② (車やからだなどを)あともどりさせる。引き返す。もどす。
※源氏(1001‐14頃)花散里「御車をしかへさせて、例の、惟光、入れ給ふ」
③ 相手のことばを受けて、返す。
(イ) 相手の言うことを押しのける。
※源氏(1001‐14頃)末摘花「『やつれたる御ありきは、かるがるしき事も出できなん』とをしかへしいさめたてまつる」
(ロ) ことばを返したり、返歌をしたりする。
※源氏(1001‐14頃)玉鬘「返しやりてむとあめるに、これよりをしかへし給はざらむも」
④ 物を反対にする。逆にする。考えなどを変える。
落窪(10C後)三「『しるしばかり物書きつけ給へ』と申し給へば〈略〉鏡の敷きをおしかへして書き給ふ」
⑤ (「おしかえしおしかえし」の形で用いることが多い) 何べんもくりかえす。
※浜松中納言(11C中)一「をしかへしつつ誦(ずん)じ給へる御気色」
平家(13C前)二「これをとって、二、三返(べん)をしかへしをしかへし読みきかせ」
⑥ 碁の手法の一つ。
※文明本節用集(室町中)「綽 ヲシカヘス 就碁用之」
⑦ 取引相場で値が元にもどる。〔新聞語辞典(1933)〕
[補注](1)③以下では、「押す」の実質的な意味はほとんどなく、接頭語的に「かえす(返・反)」の意味を強めるものとなっている。
(2)④の用法のうち、連用形「おしかえし」が副詞になりきっていると見られるものは別項で扱った。→押し返し
(3)⑤の用法も、連用形の副詞的用法が多いが、まだ副詞になりきっていないと判断される。

おっ‐かえ・す ‥かへす【押返】

〘他サ四〙 「おしかえす(押返)」の変化した語。(「おっかえされない」の形で) 他にひけをとらない、また、避けたり断ったりできない意を表わす。
洒落本美地の蠣殻(1779)「定会にも出よふとおもったが、おっけヱされねへ用は出来るし」

おし‐かえし ‥かへし【押返】

〘副〙 (動詞「おしかえす(押返)④」の連用形から) 逆に。あべこべに。反対に。
※蜻蛉(974頃)上「命はあらせて、わが思ふやうにをしかへし物を思はせばや」

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