成人T細胞白血病・リンパ腫

内科学 第10版 の解説

成人T細胞白血病・リンパ腫(白血球系疾患)

定義・概念
 成人T細胞白血病リンパ腫ATL)は,ヒトTリンパ球向性ウイルス(ヒトT細胞白血病ウイルスともいわれる)1型(human T-lymphotropic virus type 1:HTLV-1)が腫瘍細胞の染色体DNAにプロウイルスとして単クローン性に組み込まれている成熟T細胞性の白血病・リンパ腫であり,多様な病態をとるがいずれも難治性であり,HTLV-1のendemic area出身の成人に好発する.
予後・分類
 予後因子としては,年齢,全身状態,総病変数,高カルシウム血症,高LDH血症が重要である.予後因子解析と臨床病態の特徴から,その自然史によって,白血化,臓器浸潤(リンパ節,皮膚,肺,肝脾,骨,消化管,胸水,腹水中枢神経),高カルシウム血症と高LDH血症の有無と程度により作成されたATLの臨床病型分類(表14-10-17)は,予後予測と治療法の選択に有用である.生存期間中央値は急性型6カ月,リンパ腫型10カ月,慢性型24カ月,くすぶり型は3年以上であった.
病因
 ATLの病因は,レトロウイルスのHTLV-1である.1977年に成人に発症する花弁状の核を有するT細胞腫瘍として本疾患が発見されたときから,その地域偏在性,家族歴などから,ウイルスなどの病原体の関与が示唆されていたが,1981年に日本でATL患者から,そして米国で皮膚T細胞リンパ腫(後にATLであることが判明)から同時期にこのウイルスは同定された.おもに母乳を介してCD4陽性の成熟T細胞どうしの接着で母児感染したHTLV-1キャリアの数%が平均発症年齢60歳代で本疾患を発症すること,HTLV-1は癌遺伝子を有さず,染色体ゲノム組み込み部位はランダムであることから,HTLV-1はATLの病因ウイルスではあるが本疾患の発症には宿主ゲノム異常の蓄積が必要であると推定されていた.実際に慢性型ATLが急性型へ転化するときには,癌抑制遺伝子の付加的な変異欠損を多く認める.HTLV-1は,ATLのほか慢性炎症性疾患であるHTLV-1関連の脊髄症(HTLV-1 associated myelopathy/tropical spastic paraparesis:HAM/TSP)とブドウ膜炎の病因でもある.
疫学
 HTLV-1のキャリアとATL患者は,世界では,日本,中南米中央アフリカ中東およびその地域からの移民,日本では西南日本沿岸部出身者に多発する.日本以外の東アジアではまれである.HTLV-1のおもな感染ルートは母乳を主とした母児感染,性交渉感染,輸血ほかの血液を介した感染の3つである.HTLV-1感染者は現在,日本で約100万人,世界で数千万人いると推計されており,男性よりも女性,高齢者に多い.ATL患者は日本では30歳代以下はまれであり,60歳以降に多い.海外では平均発症年齢が約10歳若いと報告されている.HTLV-1は同じレトロウイルスのHIVなどに比べて変異が少なく,日本と海外のウイルスの相同性が高いことから,HLAなどの宿主要因,あるいは環境要因がその発症年齢差に寄与していると推定されている.HTLV-1キャリアにおけるATL発症リスクとしては,母児感染,高齢,末梢血中の高ウイルス量,男性,ATLの家族歴,喫煙などがある.
病理
 成熟CD4陽性Tリンパ球(おもにTh2細胞/制御性T細胞)の白血病・悪性リンパ腫である.ATL細胞は血管・リンパ管を経て全身臓器に浸潤するが,末梢血,リンパ節,皮膚病変が多く,肺,肝脾,骨髄,骨,消化管,胸水,腹水,中枢神経にも好発する.くすぶり型,慢性型ATLの場合は,骨,消化管,胸水,腹水,中枢神経病変は認めない.白血化した急性型,慢性型,くすぶり型では末梢血に,リンパ腫型ではリンパ節に,特徴的な花弁状の核形態をもつ腫瘍細胞を認める(図14-10-16).
病態生理
 ATL細胞の浸潤: くすぶり型・慢性型ATLでは末梢血,皮膚または肺が多く,急性型・リンパ腫型ATLではリンパ節のほか,骨,消化管,胸水,腹水,中枢神経病変などの臓器まで浸潤する.急性型と慢性型は白血化しているのに対し,リンパ腫型は白血化していない.
 日和見感染症: CD4陽性の正常Tリンパ球が著減することから,AIDSと同様の日和見感染症を好発する.ニューモシスチス肺炎,真菌症,結核,サイトメガロウイルスなどのウイルス感染症のほか,亜熱帯~熱帯では糞線虫症もある.いずれの病型ATLでも起こる. 高カルシウム血症: 副甲状腺ホルモン関連蛋白ほかの液性因子によることが多く,急性型・リンパ腫型ATL患者の大多数が経過中に認める.多発性骨髄腫と異なり,骨の抜き打ち像を呈することは多くない.
臨床症状
 初発症状は,病態生理の項で述べたATL細胞の臓器浸潤,日和見感染症,高カルシウム血症のいずれかによる.ATLの浸潤では,リンパ節腫脹,皮膚病変(図14-10-17),肝脾腫が多いが,全身臓器に浸潤するので,消化器・呼吸器・中枢神経症状ほか多彩である.ATL細胞の産生するサイトカインによるB症状【⇨表14-10-14】も好発する.日和見感染症は,呼吸器,消化器,皮膚,中枢神経に好発する.高カルシウム血症は軽度の場合は口渇・多飲・多尿,重度になると傾眠などの意識障害を呈する.くすぶり型や慢性型は無症状の時期に,健診などでの末梢血液像異常により発見される場合も多い.
検査成績
 前述したように花弁状の核を有するATL細胞を末梢血あるいはリンパ節ほか種々の臓器に認める(図14-10-16).さらにはその臓器障害(肝障害,腎障害,低酸素血症など)による検査値異常を呈する.血清LDH,Caや可溶性インターロイキン2受容体の上昇はATLの病勢を示すよいマーカーである.血清学的に抗HTLV-1抗体が陽性であり,典型的なATL細胞は,活性化した成熟Th2/制御性T細胞の表面形質(CD3,CD4,CD8,CD25,CCR4,FoxP3or)を有する.
診断
 抗HTLV-1抗体が陽性で,細胞あるいは組織学的に成熟T細胞腫瘍を認めれば,ATLと診断する.非典型例では,ATL病変を用いてATL細胞の染色体DNAにHTLV-1が単クローン性に組み込まれていることをサザンブロット法などの遺伝子診断で証明して,ほかの疾患を除外する.
経過・予後
 急性型・リンパ腫型ATLは抗癌薬併用療法に抵抗性で数カ月内に死亡することが多い.一方くすぶり型・慢性型ATLは,無症状なら無治療で,皮膚症状があれば局所療法で数カ月から数年にわたり病状が安定していることが多いが,多くは経過中に病状が悪化して急性型に移行し,その後の予後はきわめて不良である.
治療
 悪性度が高い急性型やリンパ腫型ATLは,非Hodgkinリンパ腫【⇨14-10-12)】の標準的治療法であるCHOP療法などに抵抗性であるため,輸血やG-CSFを併用してほかの抗癌薬を併用し短い治療間隔で強力な化学療法を繰り返す.また,しばしば中枢神経系に再発するため予防的に抗癌薬の髄注を併用する.悪性度が低い慢性型やくすぶり型ATLに根治可能な特効薬はなく,また数年にわたって病状が安定していることも少なくないので,予後不良因子を有さなければ急性転化するまでは,慢性リンパ性白血病の病初期と同様に慎重な経過観察が原則とされる.近年,移植片対ATL効果により同種造血幹細胞移植で長期生存が期待できるとの報告が相次いであり,有害反応は強いが検討されるべき治療法である.ATLの90%以上の症例で陽性であるケモカイン受容体のCCR4に対するヒト化モノクローナル抗体のモガリズマブは,再発ATLに対して高い奏効率を示す.合併症対策としては,高カルシウム血症の治療と日和見感染症の予防・治療が重要である.
予防
 ATLの病因ウイルスであるHTLV-1の感染は,日本などの多発地域では献血者のHTLV-1抗体スクリーニング,妊婦の抗体スクリーニングで陽性であった場合の人工栄養または短期母乳により大きく低減できている.しかしHTLV-1キャリアにおけるATLほかのHTLV-1関連疾患の発症予防法は確立していない(表14-10-17).[塚崎邦弘]
■文献
Ohshima K, Jaffe ES, et al: Adult T-cell leukemia/lymphoma. In: WHO Classification of Tumour of Haemaopoietic and Lymphoid Tissues, 4th edition (Swerdlow SH, Campo E, et al eds), pp 281-284, IARC Press, Lyon, 2008.
Takatsuki K: Adult T-cell Leukemia, Oxford: Oxford University Press, New York, 1994.Tobinai K, Watanabe T: Adult T-cell leukemia-lymphoma. In: Clinical Oncology (3rd ed) (Abeloff MD, Armitage JO, et al ed), pp 3109-3130, Elsevier Churchill Livingstone, Philadelphia,2004.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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