尻尾の釣(読み)しっぽのつり

日本大百科全書(ニッポニカ) 「尻尾の釣」の意味・わかりやすい解説

尻尾の釣
しっぽのつり

昔話。動物どうしの葛藤(かっとう)を主題にした動物昔話の一つ。狐(きつね)がいつも魚をとってくるのをみて、猿が、どうやったら魚がとれるかと尋ねる。狐は、川に尻尾を垂れていると魚がつくと教える。猿がそのとおりにすると、尻尾が凍り付いてしまう。猿は魚がついたと思い力いっぱい引いたので、猿の顔は赤くなり、尻尾は短く切れてしまう。獺(かわうそ)が狐をだます話も多い。また、尻尾が凍り付いたために動けず、人間に殺されるという結末の型もある。北ヨーロッパを中心にヨーロッパ一帯に分布している。尻尾が凍り付くという特色から、寒冷地で成立した昔話と考えられるが、南ヨーロッパなど温暖な地方には、尻尾を埋めたり、結び付けたりする非凍結型がある。室町時代の天草本『伊曽保(いそほ)物語』(1593)に紹介された、狐にだまされた狼(おおかみ)が尻尾に籠(かご)をつけて魚をとる話も、南ヨーロッパあたりの昔話が入ったものであろう。日本でも、江戸後期の『奇談一笑』にみえ、全国的に分布し、朝鮮やインドにもある。インド、インドネシアには非凍結型があり、北アメリカのインディアン黒人の間には、両方の型がある。日本にも、死にまねをした狐が魚屋の車に乗せてもらい、魚を盗むという「魚泥棒」のあとに「尻尾の釣」が続いている例がいくつかあるが、ヨーロッパでは、「魚泥棒」と結合して、動物連鎖譚(たん)の一部をなしていることが多い。朝鮮でも「魚泥棒」や他の昔話と連鎖譚をなし、一連の「兎(うさぎ)と虎(とら)」の物語を構成している。東アジアでも動物連鎖譚として広まっていた可能性が大きい。

[小島瓔

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「尻尾の釣」の意味・わかりやすい解説

尻尾の釣
しっぽのつり

動物同士の葛藤をテーマとした昔話で,なぜなぜ話的要素をもつもの,笑い話的要素をもつものなど多くの類話がある。そのうち,さると川うそを主人公とするものは,なぜなぜ話に分類される。さるから魚のとり方をたずねられた川うそが,寒い朝,川に尻尾をつけておけばよいとだます。さるがそのとおりにすると尻尾が凍りつき,むりに引っぱると尾が切れてしまった。それでさるの尻尾は短いのだ,というもの。話によっては,だまされる動物がきつね,うさぎなどになり,だます動物もきつね,たぬき,くま,かになどとなる。分布は東北から九州にいたる日本全土にわたり,ヨーロッパの一部にも類話が存在する。

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