奇術の原理とテクニック(読み)きじゅつのげんりとてくにっく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「奇術の原理とテクニック」の意味・わかりやすい解説

奇術の原理とテクニック
きじゅつのげんりとてくにっく

西洋では古くからHand is quicker than the eye.(手は目よりも早い)という慣用句で、奇術師手先の早業を表現してきた。しかし、奇術師が欺くのは観客の目ではなく、その心理であることが多い。奇術の秘密は、人工的な「うそ」を観客に「ほんとう」と思い込ませるトリック(だましのテクニック)にある。

 そのだましの基本的テクニックには次のようなものがある。


ミスディレクション misdirection
 演者にとって都合の悪いところから観客の注意力や推理力を他にそらせようとする心理的策略。たとえば、腹話術師が人形の口を動かしながら人形のほうに首を傾けると、観客はそれにつられて演者の視線を追い、人形の口の動きに注意を集中させるので、秘密の発声を行っている演者の唇の動きが気づかれにくいといったテクニック。この演出は19世紀の奇術師の発明である。

マニピュレーション manipulation
 演者の熟練技によって行われるもので、スライト・オブ・ハンドsleight of handともよぶ。基本的なスライト(技法)には以下のようなものがある。

(1)手の中に品物を隠し持つパームpalm
(2)ある品物を他の品物とひそかにすり替えるチェンジchangeまたはスイッチswitch
(3)観客に特定の品物をとらせるが、観客には自分の自由意志で選んだと思わせるフォーシングforcing
ギミック gimmick またはコンシールド・メカニズム concealed mechanism
 機械仕掛けの秘密装置(からくり)、秘密の隠し場所のある箱や、親指の形をしたサムチップとよばれるサックなど、大小種々の仕掛けを利用する。

 奇術師はこれらの原理やテクニックを組み合わせて奇現象を構成するが、おもなものは以下のとおりである。

(1)出現production 空中や、からの箱から品物を取り出す。

(2)消失vanish ある品物を一瞬に消失させる。

(3)移動transposition 品物が移動したり、別々の品物が位置を交換したりする。

(4)貫通penetration 固体が固体を通り抜ける。

(5)変化change ある品物の状態、形態、質量などが変化する。

(6)アニメーションanimation 無生物を生き物のように動かしてみせる。

(7)浮揚levitation 空中に支えもなしに、人体や品物を浮かせてみせる。

(8)メンタリズムmentalism 見せかけの超能力読心術、透視術、予言など、超常現象を装う。

[松田道弘]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例