慣用句
かんようく
二つ以上の語が、つねに結び付いて用いられ、全体である特定の意味を表すようになった表現。「李下(りか)に冠を正さず」「光陰矢のごとし」といった諺(ことわざ)や格言をはじめとして、「油を絞る」「手を下す」といった単なる慣用的な言い回しまでを含む。
慣用句は、句全体で固定した意味を表しているのであるから言い誤ってはならない。たとえば、「物心がつく」というべきところを、「物心をもつ」と言い誤ると、意味をなさなくなる。「悦に入(い)る」「間髪を入れず」「得(え)も言われぬ」などのごとく、こうした表現以外に言い回しのない慣用句では、とくに間違えないように注意しなければならない。
慣用句の表す意味は、その多くが比喩(ひゆ)的なものである。「蛙(かえる)の子は蛙」という慣用句で、「子供は親以上にはなれない」といった比喩的な意味を、「あごが干上がる」で、「収入がとだえて食べられなくなる」といった比喩的な意味を表すというぐあいである。慣用句は、もともとは気のきいた語呂(ごろ)のよい新鮮な言い回しとして誕生したものであったが、それが一般に受けて繰り返し使用されているうちに形骸(けいがい)化してしまった表現である。したがって、われわれは慣用句に接しても、単なる習慣的な言い回しと感じるだけで、そこに新鮮で具体的なイメージを感じたりすることはほとんどない。しかし、慣用句は、見方を変えれば、現在まで残ることなく1回限りで消えてしまった他の表現に比べて、長い年月に耐ええた卓越した表現であるともいえる。このような表現には、その民族の長い間の知恵や発想が如実に表されている。たとえば、「猫にかつお節」「猫に小判」「猫の額(ひたい)」「猫の手も借りたい」「猫も杓子(しゃくし)も」「猫をかぶる」などと並べてみると、われわれの生活にいかに猫が入り込み、われわれが猫をどうとらえていたかがわかる。慣用句は各民族の生活・性向・発想を探るかっこうの材料ともなる。
[山口仲美]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
慣用句
かんようく
idiom
各言語に特有の言い回しで,その言語の慣用によって是認されているが,多くの場合,文法的・論理的意味とは異なる意味をもっているもの。イディオムともいう。狭い意味では,そのなかでも特に2語以上が結びついて固定した意味を表わすものをいう。そのなかには,「気がつく」のように構成要素の「気」「つく」の意味から推察はできるが,両者が結びついて初めて意味がはっきりするものもあれば,苦労し努力するという意味での「ほねをおる」や撤退するという意味での give way (文字どおりには「道を与える」) のように構成要素の意味からだけでは理解できないものもある。最初に述べた広い意味では,「負けず嫌い」なども慣用句に入る。
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かんよう‐く クヮンヨウ‥【慣用句】
〘名〙 二つ以上の単語が結合して、全体が特定の意味を表わす言いまわし。
慣用語。イディオム。「油を売る」「あごで使う」「道草を食う」など。
※他人の顔(1964)〈安部公房〉黒いノート「せいぜい『大人気ない行為』といった、ありきたりな慣用句の陰に」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
慣用句【かんようく】
慣用語,成句とも。2語以上の単語が結合し,ひとまとまりとして特定の意味を表すもの。〈油を売る〉〈雀の涙〉など。
→関連項目熟語
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デジタル大辞泉
「慣用句」の意味・読み・例文・類語
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世界大百科事典内の慣用句の言及
【熟語】より
…2個以上の単位の語が結びついて,構文上1個の単語と同様の働きをするものを,一般に熟語という。一連の表現ではあるが,文法上なお数個の単語の連続とみなされるもの(その連続の間には助詞の働きが認められる)は,慣用句,成句などとよび,その結合が1個の単語とみなされて全体としてある1品詞に属させられるときは複合語,成語などとよぶ。【林 大】。…
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