取・執・採・捕・撮(読み)とる

精選版 日本国語大辞典 「取・執・採・捕・撮」の意味・読み・例文・類語

と・る【取・執・採・捕・撮】

[1] 〘他ラ五(四)〙
[一] 手に握って持つ。身から離れないようにしっかり持つ。
① 手に持つ。つかむ。
※書紀(720)皇極三年六月・歌謡「向つ峰(を)に 立てる夫(せ)らが 柔手(にこで)こそ 我が手を騰羅(トラ)め」
徒然草(1331頃)一五七「筆をとれば物書かれ」
② 手に持ってそれを使う。
※万葉(8C後)一七・三九六一「白波の寄する磯廻(いそみ)を漕ぐ船の楫(かぢ)登流(トル)間なく思ほえし君」
③ 手に持ったりつまんだりして、さしたり引いたり上げたりする。
(イ) 苗を植える。
※古今(905‐914)秋上・一七二「昨日こそさなへとりしかいつのまにいなばそよぎて秋風の吹く〈よみ人しらず〉」
(ロ) (案内したり、教えたりするために)手を引く。また、指導する。
蜻蛉(974頃)上「『あやし、ここにぞある』とて、手をとりてみちびく」
(ハ) (「馬の口を取る」の形で) 手綱を引く。
※伊勢物語(10C前)六三「道にて馬の口をとりて」
(ニ) つまんで引き上げる。
※平家(13C前)八「やごとなき女房達、袴のそばをとり」
④ 逃げないようにしっかり押える。つかまえる。捕獲する。
古事記(712)下・歌謡「雲雀は 天に翔(かけ)る 高行くや 速総別(はやぶさわけ) 鷦鷯(さざき)登良(トラ)さね」
⑤ 仕事、事業などを遂行する。手を使ったりして仕事を進める。
※救荒の勅語‐明治元年(1868)六月二二日「是朕か実に万機を攬るに不堪」
※破戒(1906)〈島崎藤村〉二「身体が衰弱して、職務を執るに堪へないから退職する」
⑥ 持っている考えや意志を堅く守る。
※破戒(1906)〈島崎藤村〉七「斯志ばかりは堅く執って変るな」
[二] 自分の物になるように、また、自分の物として持てるようにする。
農作物・草木・魚介類などを収穫、採集する。また、あるものから抜き出したり、しぼり出したりする。
※書紀(720)応神一三年三月・歌謡「香ぐはし 花橘 下枝(しづえ)らは 人皆等利(トリ)
② 自分の思い通りに支配、領有する。
※白氏文集天永四年点(1113)三「各の強兵を握(トリ)、恩沢を固むず」
※大鏡(12C前)五「天下とる相おはします」
③ 買ったりもらったりして受け収める。また、報酬として得る。
※竹取(9C末‐10C初)「給はせたる物各分けつつとる」
※徒然草(1331頃)九三「買ふ人、明日そのあたひをやりて牛をとらんと言ふ」
④ 願い出て、もらう。
※虎明本狂言・箕被(室町末‐近世初)「何なりともそなたのほしひ物をとっておかいれ」
⑤ (嫁・むこ・養子などを)迎え入れる。
※蜻蛉(974頃)下「いかで、いやしからざらん人の女子一人とりて、うしろみもせん」
⑥ 師として学ぶ。また、主人として仕える。弟子にして教えることもいう。
※源氏(1001‐14頃)紅葉賀「舞の師どもなど、世になべてならぬをとりつつ、おのおのこもりゐてなむ習ひける」
⑦ 芸者・娼妓などが、客を迎え入れて相手をする。
※破垣(1901)〈内田魯庵〉一「越谷のお茶屋へ遣ればお客を取るのが忌(いや)だと云って」
⑧ 和歌などの一部を引き受けてよむ。また、他の和歌の趣向などを意識的にとり入れてよむ。
※源氏(1001‐14頃)早蕨「はかなきことをも本末をとりていひかはし」
⑨ 食べ物、読み物などを注文してとり寄せる。また、定期的に持って来させて買う。
※いさなとり(1891)〈幸田露伴〉二「新聞の数多く購(ト)るも彦右衛門の家、雑誌の数多く取るも彦右衛門の家」
⑩ ある成績や資格などを得る。
※はやり唄(1902)〈小杉天外〉一三「成程二十六で学位を得(ト)った才子らしい相である」
⑪ 場所を確保したり、時や手間を費やしたりする。
※青年(1910‐11)〈森鴎外〉九「日本人は〈略〉飲食をする方を好くから、食堂を広く取(ト)るやうになるのでせう」
⑫ 年齢を積み重ねる。年とる。
※俳諧・春の日(1686)「世にあはぬ局涙に年とりて〈雨桐〉 記念にもらふ嵯峨の苣畑(ちさばた)〈重五〉」
⑬ (光、水、熱などを)導き入れる。
小学読本(1884)〈若林虎三郎〉四「障子を明け涼を取りつつ源氏物語を講ぜしに」
⑭ からだに栄養物などを入れる。また、休息する。ねむる。
※海に生くる人々(1926)〈葉山嘉樹〉三〇「暖かいコーヒー、暖かい肉を摂るべき時候であった」
⑮ (引き取るの意) 浄瑠璃の節章を表わす語。
(イ) 七五調で進めてきた文章をわざと字余りにする。本来ならば三味線がひくところを太夫が引きうけて語ることを示す。
(ロ) 人物の出入りや場面の転換をするときに用いる節になることを示す。
※浄瑠璃・源頼家源実朝鎌倉三代記(1781)一「弓と弦とに引き別れ入るや トル 長閑き」
[三] それまであった所から引き離す。
① ついているものを除き去る。
※岩淵本願経四分律平安初期点(810頃)「脚を拭ふ巾、熱を摂(トル)巾」
② 身につけているものをはずす。ぬぐ。
浮世草子・好色貝合(1687)下「先、衣とらしゃれ」
③ 生命を奪う。うちとる。また、首を斬り放す。
※万葉(8C後)六・九七二「千万(ちよろづ)の軍なりとも言挙げせず取(とり)て来ぬべき男とそ思ふ」
※平家(13C前)八「三刀さいて頸をとる」
④ むりやりに、または、ひそかに他人の物を自分の手に収める。うばう。ぬすむ。
※大和(947‐957頃)一二六「家も焼けほろび物の具もみなとられはてて」
⑤ 官位、財産などを召しあげる。とりあげる。
※平中(965頃)一「宮仕へをも仕うまつらずといふこと出で来て、つかさとらせ給へば」
⑥ 代金、税金、月謝などを徴収する。「税金をとる」
※苦の世界(1918‐21)〈宇野浩二〉二「なかなか上等らしいので、あんなのはこのごろではずゐぶんとるんだらうねと」
将棋で、味方の駒の利きにあたる相手の駒を奪って持駒とする。
[四] 身に負う。
① 評判、恥辱、失敗などを身に受ける。
※古今(905‐914)恋三・六二八「みちのくにありといふなるなとり川なき名とりては苦しかりけり〈壬生忠岑〉」
※平家(13C前)五「詞のつつしまざるは、やぶれをとる道なり」
② ひきうけて行なう。負担する。
※源氏(1001‐14頃)東屋「大臣にならむ贖労(ぞくらう)をとらむなどぞ、あまりおどろおどろしき事と」
名跡(みょうせき)や財産をひきつぐ。
※仮名草子・犬枕(1606頃)「知りて入らぬ物。跡とって死する人」
[五] えらんできめる。また、場所を定め設ける。
① (採) よい、すぐれていると認める。また、そう認めて採用する。
※蜻蛉(974頃)中「をさなき人、しりへのかたとられて出でにたり」
※源氏(1001‐14頃)帚木「とる方なくくちをしききはと」
② 多くのものの中からえらび出す。
※落窪(10C後)四「この二十八日になん、舟に乗るべき日とりたりければ」
③ 落ちつくべき宿、席、陣を定める。また、進む道や方向を定める。
※古今(905‐914)離別・三九二「ゆふぐれのまがきは山と見えななむ夜はこえじとやどりとるべく〈遍昭〉」
※平家(13C前)六「源平両方に陣をとる」
④ (「床を取る」の形で) 寝所を設ける。ふとんを敷く。
※浮世草子・好色一代男(1682)七「更過て床とるにも三ツ蒲団替夜着」
[六] ある形をつくり出す。
① もとの形をまねて作る。また、物の輪郭を表わす。
※日葡辞書(1603‐04)「ヘリヲ toru(トル)
※歌舞伎・星月夜見聞実記(荏柄の平太)(1880)序幕「雪景色は一段と、絵にお取(ト)り遊ばすには〈略〉嘸お悦びでござんせうわいな」
② (撮) 写真をうつす。撮影する。
※開化自慢(1874)〈山口又市郎〉初「写真屋をつれて来て、その文を写真にとる」
③ 忘れないように書きとめる。
※青べか物語(1960)〈山本周五郎〉蜜柑の木「本を読んだり、ノートを取ったりするのであった」
④ 複写などをつくる。「コピーをとる」「ビデオをとる」
[七] 数量や物事の内容などを考える。
① 相手の気持を酌む。相手の気持をはかってうまくあつかう。
※伊勢物語(10C前)四三「この女、けしきをとりて」
※日葡辞書(1603‐04)「ヒトノ キゲンヲ toru(トル)
② はかり数える。また、数えるときのしるしにする。
※蜻蛉(974頃)上「山とつもれる しきたへの 枕の塵も ひとりねの かずにしとらば 尽きぬべし」
③ 言葉の内容、物事の状態、事情などを、あれこれと推測して、こうだと考える。解釈する。受けとる。
※二人女房(1891‐92)〈尾崎紅葉〉上「もしやお銀が悪く取(ト)って〈略〉談(はなし)が破れるやうなことでもあっては大変と」
[八] ある状態にはまるように行動する。
① 調子などを、うまく合うようにする。
※源氏(1001‐14頃)梅枝「弁の少将ひゃうしとりて梅が枝いだしたるほど、いとをかし」
② すもうを行なう。
※源平盛衰記(14C前)一六「敏延と満仲と相撲を取(トリ)けるに」
③ カルタやトランプの遊びをする。
※小学読本(1884)〈若林虎三郎〉二「歌骨牌を取りて遊ぶことあるべし」
④ ある行動の仕方をする。
※懇親会(1909)〈森鴎外〉「僕には此時始めて攻勢を取らうといふ考が出た」
※彼の歩んだ道(1965)〈末川博〉三「校長や先生がたのとる態度がいかにも卑屈である」
⑤ 騙(だま)す。あざむく。
※浄瑠璃・夏祭浪花鑑(1745)四「イヤイヤうそ。おれを取るのじゃ」
⑥ 情交する。
※浮世草子・好色産毛(1695頃)四「男千人の肌にふれては菩薩の行とおもひ立、毎夜橋詰に出て人にとらすると風聞す」
[九] ある事に関連させる。
① ある事に引き寄せて考える。
※源氏(1001‐14頃)若菜上「身にとりては事にもあるまじく思ふ給へたち侍る折々あるを」
② ある事にたとえて示す。なぞらえる。また、引き合いに出す。
※平家(13C前)四「太政官の庁は、凡人の家にとらば公文所ていのところ也」
※天草本伊曾保(1593)イソポの生涯の事「マコトニ タトエヲ toruni(トルニ) タメシモナイ ホドニ アッタト マウス」
[十] (寄席で最後に出演する者を「とり」というところからそれを動詞化させたものか) 終わるの意にいう寄席芸人仲間の語。「今日の稽古はこれでとります」
[2] 〘自ラ下二〙 ⇒とれる(取)

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