刑部省
ぎょうぶしょう
(1) 令制で太政官に属した八省の一つ。刑部は唐名で,『和名抄』には「うたへただすつかさ」とある。訴訟の裁判,罪人の処罰を司る役所。囚獄司と贓贖司 (あがもののつかさ) とを支配していたが,大同3 (808) 年贓贖司は廃され,職務は刑部省が行うこととなった。長官は正四位下相当の刑部卿であるが,公卿が兼ねたこともある。また大,中,少判事がおり,実際に裁判して罪を決定する法律の専門家で,中原,坂上両家の世襲であった。弘仁7 (816) 年検非違使 (けびいし) が設置されると,刑部省の職掌は次第にこれに移り,のちにはほとんど有名無実となった。
(2) 明治初年に設けられた刑法事務科より刑法官を経て,明治2 (1869) 年7月8日の官制改革に伴い新設された「二官六省」中の1省で,司法行政,司法事務および裁判を司った。正親町三条実愛,佐々木高行をそれぞれ初代刑部卿,大輔 (次官) に迎えて発足した。同年 12月2日には,囚獄司をその管轄下に設け,監獄行政の任にあたらせた。また同3年 12月 27日には,新律綱領を上梓頒布した。翌年7月9日,弾正台とともに廃止され,司法省が両者の任務を継受した。
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刑部省
ぎょうぶしょう
(1)古代律令(りつりょう)国家の中央行政機構である八省の一つ。裁判や刑罰の執行を管掌した。「うたへのつかさ」「うたへただすつかさ」などとも読む。前身官司を刑官といい、大宝令で省制として整備された。卿(かみ)以下の四等官のほか、罪名を断定する判事10名、訴訟を指揮する解部(ときべ)60名を擁し、徒罪(ずざい)以下の罪状について独自に判決し、刑を執行した。被管に贖罪(しょくざい)をつかさどる臟贖(ぞうしょく)司と罪人の拘禁、実刑の執行にあたる囚獄(しゅうごく)司の2司が所属した。判事はやがて法律を世職とする中原氏、坂上氏で占められるようになったが、刑部省の実権は検非違使(けびいし)に移って有名無実化した。(2)明治政府成立時の最高司法機関。1869年(明治2)官制改革によって、刑法官にかわって設置されたが、71年司法省発足で廃止。
[八木 充]
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ぎょうぶ‐しょう ギャウブシャウ【刑部省】
〘名〙
① 令制での八省の一つ。太政官の右弁官局に属して、訴訟の裁判や罪人の処罰などのことをつかさどった役所。

贖司
(あがないもののつかさ)、囚獄司の二司を被管とした。九世紀のはじめ検非違使
(けびいし)が設置されてから後は、その機能のほとんどが検非違使庁に移った。職員は卿、大輔、少輔各一人、大丞、少丞各二人、大録一人、少録二人、大判事二人、中判事、少判事各四人、大解部一〇人、中解部二〇人、少解部三〇人、使部八〇人ほかがある。うたえのつかさ。うたえただすつかさ。ぎょうぶ。ぎょうぶのしょう。〔令義解(718)〕
② 明治二年(一八六九)七月に設けられて、裁判、警察、監獄のことをつかさどった中央官庁。同四年七月に廃止されて司法省となる。
うたえただす‐つかさ うたへただす‥【刑部省】
〘名〙 刑部省(ぎょうぶしょう)のこと。令制の八省の一つで、訴訟や罪人の処罰のことをつかさどった役所。うたえのつかさ。うったえただすつかさ。〔二十巻本和名抄(934頃)〕
うったえただす‐つかさ うったへただす‥【刑部省】
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刑部省【ぎょうぶしょう】
(1)律令制の八省(はっしょう)の一つ。裁判,処罰を担当。囚獄(しゅうごく)・贓贖(ぞうしょく)の2司を管轄。ただし判決の執行は,杖(じょう)(杖でたたく刑)・徒(ず)(懲役刑)相当の,京に起こった犯罪に限られ,流罪(るざい)以上は判決原案を太政官(だいじょうかん)に送付した。9世紀初め検非違使(けびいし)設置後は有名無実化。(2)明治維新後1869年設置,訴訟や罪人の処刑を管掌したが,1871年司法省新設により廃止。
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刑部省
ぎょうぶしょう
①律令制下の中央行政官庁。八省の一つ
②明治初年,司法行政を管轄した中央官庁
訴訟の裁判・刑罰の執行をつかさどった。9世紀初めの嵯峨天皇のとき,検非違使 (けびいし) の設置によりその機能を失った。
1869年刑法官に代わって設置されたが,'71年司法省の新設により廃止。
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デジタル大辞泉
「刑部省」の意味・読み・例文・類語
うたえただす‐つかさ〔うたへただす‐〕【刑=部=省】
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ぎょうぶしょう【刑部省】
(1)令制八省の一つ。はやく〈うたへのつかさ〉と称したが,貞観7年(865)3月7日勅により〈うたへただすつかさ〉と改めている。卿1,大・少輔各1,大・少丞各2,大録1,少録2からなる四等官のほかに,[判事],解部(ときべ)60等が置かれ,裁判や良賤名籍,囚禁ないし債負のことを管掌し,贓贖(ぞうしよく)司と囚獄司の2司を管した。律令訴訟法によれば,在京諸司で徒罪以上に相当する犯罪が発生した場合ないし衛府が逮捕した非京人はすべて刑部省に送り裁判に付し,徒罪は刑部省で断決し,流罪以上ないし除免官当の場合は太政官へ上申する定めであり,また諸国で判決を下すことが困難な疑獄事件を刑部省で扱った。
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世界大百科事典内の刑部省の言及
【刑部省】より
…卿1,大・少輔各1,大・少丞各2,大録1,少録2からなる四等官のほかに,[判事],解部(ときべ)60等が置かれ,裁判や良賤名籍,囚禁ないし債負のことを管掌し,贓贖(ぞうしよく)司と囚獄司の2司を管した。律令訴訟法によれば,在京諸司で徒罪以上に相当する犯罪が発生した場合ないし衛府が逮捕した非京人はすべて刑部省に送り裁判に付し,徒罪は刑部省で断決し,流罪以上ないし除免官当の場合は太政官へ上申する定めであり,また諸国で判決を下すことが困難な疑獄事件を刑部省で扱った。すぐれた明法官人を多数擁し,律令時代における司法の中枢機関であったが,弘仁年間(810‐824)に検非違使(けびいし)が創置されると刑部省の多くの権限がそちらに吸収され,しだいに形骸化していった。…
【刑部省】より
…卿1,大・少輔各1,大・少丞各2,大録1,少録2からなる四等官のほかに,[判事],解部(ときべ)60等が置かれ,裁判や良賤名籍,囚禁ないし債負のことを管掌し,贓贖(ぞうしよく)司と囚獄司の2司を管した。律令訴訟法によれば,在京諸司で徒罪以上に相当する犯罪が発生した場合ないし衛府が逮捕した非京人はすべて刑部省に送り裁判に付し,徒罪は刑部省で断決し,流罪以上ないし除免官当の場合は太政官へ上申する定めであり,また諸国で判決を下すことが困難な疑獄事件を刑部省で扱った。すぐれた明法官人を多数擁し,律令時代における司法の中枢機関であったが,弘仁年間(810‐824)に検非違使(けびいし)が創置されると刑部省の多くの権限がそちらに吸収され,しだいに形骸化していった。…
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