司法行政(読み)しほうぎょうせい

精選版 日本国語大辞典 「司法行政」の意味・読み・例文・類語

しほう‐ぎょうせい シハフギャウセイ【司法行政】

〘名〙 司法権を行なうために必要ないっさいの行政作用裁判所設置裁判官その他の職員人事事務分配会計など。司法権の独立を確保するため、最高裁判所以下の裁判所の権限に属し、各裁判所は、裁判官会議の議によってこれを行なう。〔裁判所構成法(明治二三年)(1890)一三五条〕

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デジタル大辞泉 「司法行政」の意味・読み・例文・類語

しほう‐ぎょうせい〔シハフギヤウセイ〕【司法行政】

司法を運営していくのに必要な事務的管理作用。裁判所の会計、裁判官その他の職員の任免など。司法権自主独立を確保するため、最高裁判所を最上級機関として各裁判所が行う。

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改訂新版 世界大百科事典 「司法行政」の意味・わかりやすい解説

司法行政 (しほうぎょうせい)

司法を運営していくために必要な行政事務を処理する作用をいう。具体的には,たとえば,裁判官その他の職員を任命配置,監督し,庁舎その他の物的施設を設置,管理し,これらに必要な会計事務を処理する作用である。

 これらは,裁判権の行使という本来の司法作用と比べると,性質上は行政作用であるため,裁判官は裁判に専念し,これらの事務は行政府が管掌するものとするシステムもありうる。たとえば,日本では明治憲法下においては,行政府の一員である司法大臣司法行政権を最終的に掌握し,大審院長は大審院内部の職員に対する監督権を有するにすぎなかった。このような体制の下では,たとえば政府につごうの悪い判決を下した裁判官を転勤させるなど,司法行政権の行使を通じて,実質的に司法権の独立が脅やかされる危険がある。そこで,現行憲法は,司法権の自主独立を保障するため,司法行政権は原則として最高裁判所以下の裁判所に属するものとしている。ただし,これには,下級裁判所の裁判官の任命および予算の編成がなお内閣の権限とされているという例外がある。しかし,内閣が下級裁判所の裁判官を任命するには,最高裁判所の作成した候補者名簿に基づいてしなければならないとされ(憲法80条,裁判所法40条),実際上のやり方としては任命すべき裁判官の数と同数の候補者を名簿に載せて内閣に送付し,内閣はこれを拒否しない慣例になっているから,最高裁に実質上の選考権が認められているといってよい。また,予算については,裁判所法は,裁判所の経費は独立して予算に計上し,必ず予備金を設けなければならない,としている(裁判所法83条)。これは,国会の両議院の経費(国会法32条)と同様な扱いで,予算の面でも司法権の自主独立を尊重しようとしたものである。

 司法行政上の監督権も,最高裁判所を頂点として,各裁判所がその職員ならびにそれ以下の裁判所およびその職員に対して行使することになっている(裁判所法80条)。司法行政上の監督権とは,裁判所職員を注意処分や懲戒処分にし(ただし,裁判官に対しては,司法行政上の監督権の作用として懲戒処分をすることはできず,裁判官分限や裁判官弾劾という特別の裁判手続が必要である),職務遂行過程を監視し,監督に服する裁判所や職員の権限の行使を指揮する等の権限をいう。裁判所の事務取扱いに対して不服のある者(たとえば,怠慢で判決を言い渡さないとか,当事者に対して不公平な態度をとるとか,会計が金銭を支出しないとか,の不満をいだく者)は,この司法行政上の監督権の発動によって取扱いの是正を求めることができる(82条)。もっとも,司法行政上の監督権は,本来の司法作用,すなわち各裁判官の裁判権行使に干渉することは許されない(81条)。

 各裁判所が司法行政権を行使するには,各裁判所に設置された裁判官会議の議によるのを原則とするが(12,20,29条,31条の5。ただし,簡易裁判所には裁判官会議は置かれない。37条),軽微な事項や急速を要する事項はあらかじめその決定を長官その他の裁判官に委任することができる(最高裁判所裁判官会議規程7条,下級裁判所事務処理規則20条)。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「司法行政」の意味・わかりやすい解説

司法行政
しほうぎょうせい

司法機関である裁判所の人的・物的施設を設営管理することで、具体的には裁判所の職員の任免・監督、庁舎などの建設、報酬・給料・事務費などの支弁がこれに入る。元来、司法行政は裁判作用そのものとは異なり、広義の行政作用で、本質的には行政機関の権能に属し、旧制度では司法省が掌握して司法権の独立は完全なものとはいえなかった。しかし日本国憲法では、最高裁判所の司法行政権を正面からは規定していないが、司法権の完全な独立と優位を認め、最高裁判所の構成などは直接憲法上で定めるなど実質的に司法権を独立させようとしている(憲法76条~80条)。

 最高裁判所が有する司法行政上の具体的な権限のおもなものは、裁判所規則の制定(憲法77条)、下級裁判所裁判官に任命されるべき者の指名(憲法80条1項)、下級裁判所裁判官の補職を行い、職務代行を命じること、地方・家庭裁判所所長の任命、裁判官以外の裁判所職員の任免、下級裁判所の支部・出張所の設置、裁判所職員の定員配置、下級裁判所およびその職員の監督などである。なお、裁判官の懲戒処分は、行政機関が行うことはできない(憲法78条)。

[内田武吉]

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世界大百科事典(旧版)内の司法行政の言及

【最高裁判所】より

…ただし,大審院は,次の諸点について最高裁判所と異なるところがみられる。すなわち,まず,司法権の行使が〈天皇ノ名ニ於テ〉行われ(大日本帝国憲法57条1項),また,大審院の設置・権限・裁判官についてはすべて裁判所構成法により定められ(1条,43条以下),大審院以下の裁判所が司法大臣の監督に服するものとされ,さらに,司法行政が司法大臣の所管とされたことなどである。 日本国憲法においては,すでに指摘したように,憲法自身が最高裁判所の設置を命じ,また,その権限や裁判官に関する基本的な事柄についても憲法が定めている(日本国憲法76条1項,77条,79~81条)。…

※「司法行政」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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